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第12話 We still do.

少しだけ賑やかな夜のお話。


昔の仲間たちと、

変わらない距離感。


けれど、

変わらないままではいられないものもあって——。


楽しんで頂けたら嬉しいです。


Bar Havenの扉を押す。


低い照明。


静かな音楽。


いつもと同じ夜の空気が、

静かに身体へ馴染んだ。


「いらっしゃいませ」


湊の声。


ほんのわずか、

そのタイミングが遅れた気がした。



しかし

いつも通りの表情。


いつも通りの動き。


気のせいかと思う。


「お疲れ、蒼井くん」


「……高宮さん、お疲れさまです」


いつも通りだ。

勘違いだったか。


席に着く。


グラスが置かれる。


正確な位置。


変わらない。


そう思うのに、

どこか引っかかる。


そのとき。


扉が開いた。


複数の足音。


聞き慣れた笑い声。


『よう、サクヤ』


振り向くまでもなく分かる。


『……帰れ』


短く返す。


『おーおー冷たいねー、サクヤ』

マイクの声。


構わず、

男たちは店内へ入ってきた。


ガタイの良い白人男性が四人。カウンター席に並ぶ。


少しだけ店内が狭く感じる。


レオンは

咲也の隣へ、

当然みたいな顔で腰を下ろした。


ジト目で睨む。


『本当に日本に何しに来たんだよ、お前ら』


わずかに恨めしさを混ぜて言う。


レオンがウィンクした。


『もちろん観光さ』


『嘘つけ』


笑いで流される。


相変わらず、

食えない男だ。


神代も一緒だったことを思い出す。


どうせ野球絡みだろう。


そう考えて、

小さく息を吐いた。


——もう、自分には関係ない。


『コウタロウがサクヤはここだろうってさ』


『あいつ、余計なことを』


『ハッハッハ!

物騒な顔だ。

人でも殺しそうだ』


笑いながら肩をすくめる。


距離が近い。


昔と変わらない。


『相変わらずお固いな』


構わず、

肩を組んでくる。


「おい、やめろ」


『少しは肩の力抜けよ』


『余計なお世話だ』


ホテルのロビーでは、

距離を置いた。


だが、

今は仕事中ではない。


慣れた距離に、

諦めたように息をつく。


そのとき。


ふと、

視線を感じた。


カウンターの向こう。


湊はグラスを拭いている。


手は止まらない。


一瞬だけ目が合う。


すぐに逸らされた。


『……おい』


レオンに向けて、低く言う。


『分かったよ』


レオンが軽く手を上げて離れる。

反対を振り向いて


『お前ら何飲む?』


『俺はとりあえずビール!』

マイクが手を上げて

『俺も』


『……ウィスキー』

ジェイクがボソッと言うと


『俺もウィスキーだな』

トムがうなづく。


来たばかりだというのに、

妙に馴染んでいる。


ため息をつく。


湊へ向き直る。


「……すまん、出してやってくれ」


「ビール2つ。ウィスキーロックが2つ」

仲間たちを指差しながら言う。


「かしこまりました」


湊が静かに頷く。


問題ない。


いつも通りだ。


やっぱり気のせいか。


それ以上は、

気にしない。


その時レオンが顔を寄せてきた。近い。文句を言おうと口を開くと。


レオンが小さく言う。


『彼、あの公園にいた子だな』

機先を制され、口をつぐむ。


『ああ』


短く返す。


『あと、近い。離れろ』


『冷てぇなあ』


笑いながら、

それでも少し距離を取る。


だが、

レオンの視線はカウンターの向こうへ向いていた。


『さっきから見てるよな。彼のこと』


くすっと笑う。


『……見てねえよ』


『嘘つけ』


『分かりやすいな』


『昔と同じだな』


『何がだよ』


『そうやって見てた。

コウタロウのことも』


顔を上げる。


空気が変わる。


レオンは静かにこちらを見つめている。凪いだ海のような青い目。


『あいつのこと、好きだったろ』

疑問ではなく、確信だった。


『……なに言ってんだ』


反射的に返す。


レオンは軽く笑った。


見透かすような目。


思わず視線を逸らす。


『変わらないな』


「……うるさい」


それ以上は続けない。


グラスに口をつける。


それでこの話は終わりだ。

そのつもりだった。


しかし、レオンは構わず続けてくる

『お前、伝えてないだろ。彼に』


レオンの視線が、

カウンターの向こうへ流れる。


ほんの一瞬だけ、動きが止まる。


『コウタロウは七年もお前を探してた』


『まあ、あいつは自業自得なとこあるけどな』


肩をすくめる。


少しだけ間。


『俺たちもさ』


『急にいなくなって、普通に寂しかったんだよ』


『……まあ、今さらだけどな』


レオンが少しだけ声を落とした。


「Still, we love you, man.」

ーーそれでも、俺たちはお前のこと好きなんだよ


「We still do.」

ーー今も、ずっとな


短く息を吐く。


『……ああ、そうだな』


それから。


「I love you, guys.」

ーー俺も、お前らのこと好きだ。


レオンが目を細める。


その瞬間。


湊の肩が、

わずかに強張った。


レオンはため息をついて、ポンと咲也の肩に手を置く。


『お前さ、本当にその無自覚なところどうにかしろよ』


『なんだよ。いきなり』


司にも同じことを言われた気がする。レオンといい、司といい、なんだと言うのだ一体。


『今、俺たちに言ったように言えば良い。ちゃんと伝えろよ。今度は。今日中にちゃんと言えよ。絶対だからな!』


咲也の胸に人差し指を突きつけて捲し立てる。

その勢いにおされる。


『あ、ああ』


思わず返事をすると、満足げに頷く。

それ以上、

何も言わない。

グラスに口をつける。


『急にいなくなるのは、なしだ』


短く言う。


それから。


『……残される方も辛いんだ』


言葉が、

静かに刺さる。


『……すまなかった』


俯く。


——謝って済むとは、

思っていなかった。


次の瞬間。


頭をぐりぐり撫でられる。


「おい、やめろ」


『しゅんとしちゃって、そう言うとこ素直だな。お前は』


『よし、その可愛さに免じて許してやる』


『は?』


呆然とする。

許されないと思ったのに、秒で許された。


しかも可愛いってなんだ


『その代わりさ、今日はサクヤの奢りな』


『は!?』

『おい勝手に——!』


『みんな、可愛いサクヤが奢ってくれるってよ』


思い思いに飲んでいた面々が、途端にどっとわく

『やったーー!可愛いサクヤ愛してるぅぅ!1番高い酒くれ!!』


『サンキューなサクヤ。とりあえずおかわり』

『悪いな。馳走になる』


『分かった。分かったから静かにしてくれ』


『あとマイクは本当にいい加減にしろ』

ジロリと睨むが

動じず笑うマイクに


ため息。


「マスター、すいません」


「いいよ。いい飲み方してる」


「気に入ったよ」


「カクテルでも作ろうか?」


「いや、ビールとウィスキーで」


「こいつらザルなんで」


諦めて息をつく。


ふと、

視線を上げる。


湊と目が合った。


「悪いな」


「いいえ」


湊は微笑む。

いつも通りの、綺麗な笑みだった。

——そのはずなのに。なぜか、

胸の奥が引っかかった。


グラスに口をつける。


昔馴染みとの、

少しだけ賑やかな夜。


それは変わらないはずなのに。


どこかだけが、

静かにずれていた。



「We still do.」


昔の仲間だからこそ言える言葉と、

今だからこそ引っかかる距離感の回でした。


書いていて、

レオン達は本当に咲也のこと好きなんだなあと改めて思いました。


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