第116話 罰則
今回は、夕食を囲みながらの二人のお話です。
湊から、ちょっと変わった提案が。
夕食が進み、しばらくした頃。
湊がふいに口を開いた。
「高宮さん」
「ん?」
「この間のことなんですけど」
「この間?」
「あんなに疲れていたのに、僕の夕飯を作ってくれたことです」
野菜炒めを作り、冷蔵庫へ入れる前にソファで寝落ちした夜のことだ。
気がつけばベッドの中で、あの後、湊が運んでくれたのだと知った。
「ああ。悪かったな。あの時は手間かけさせて」
「それはいいんです……でも」
「僕も料理はできますから、無理をしてまで作らないでくださいね」
「ああ、でも別にあれは無理したわけじゃないよ」
湊の食事を作ることは、咲也にとって当たり前のことだった。
首を傾げると、湊が眉をひそめた。
そして、小さく息をついた。
「そう言うと思いました」
湊は少し考えるように目を伏せた。
やがて顔を上げ、ぴんと人差し指を立てる。
「それなら、罰則を設けましょう」
「罰則?」
思わず聞き返す。
「はい」
「高宮さんが無理をしたと僕が判断したら」
湊の視線が、咲也をしっかり捉えた。
「高宮さんにキスマークをつけます」
「は!?」
咲也は反射的に首筋を押さえた。
そんな咲也を見て、湊が笑う。
「では、そういうことで」
何事もなかったように、食事を再開する。
――いやいや、待て待て。
「何が『そういうことで』なんだよ」
「いいじゃないですか」
湊は涼しい顔で味噌汁を飲む。
「高宮さんは、無理なんてしないんですよね?」
「ああ」
「じゃあ、大丈夫ですよね?」
湊が僅かに首を傾げる。
しかし咲也は見てしまった。
湊の口元が、わずかに緩むのを。
「……君、からかったな」
「そんなことありませんよ」
そう言いながら、湊はしれっと視線を逸らす。
「こら。こっちを見て言え」
湊は答えず、生姜焼きを一枚口へ運んだ。
――やっぱり、冗談だったんだな。
ほっとした。
それなのに。
なぜだか、少しだけもやもやする。
その気持ちには見て見ぬふりをして、再び箸を取った。
タイトルは『罰則』。
さて、この罰則が本当に実行される日は来るのでしょうか。




