↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

115/118

第115話 二人分の夕飯

今回は、湊が夕飯を作るお話です。


二人で食べる、何気ない夜を書きました。



夕方。


仕事を終えた咲也は、ロッカールームでスマホを取り出した。


着替えを済ませてから、湊へメッセージを送る。


『今、仕事が終わった。何か買って帰るものはあるか?』


ほどなくして、返信が届いた。


『何もありません。そのまま、まっすぐ帰ってきてください』


咲也は小さく笑う。


『分かった』


短く返し、スマホをポケットへしまった。



今朝も、湊が朝食を用意してくれていた。


冷蔵庫に入っていたのは、卵とツナ、二種類のサンドイッチ。


その傍らには、メモが添えられていた。


『今日の夕飯は僕が作るので、まっすぐ帰ってきてください』



約束どおり、寄り道はせずに帰る。


玄関の扉を開けた途端。


生姜と醤油の香ばしい匂いが漂ってきた。


「ただいま」


「おかえりなさい」


キッチンから湊が顔を出す。


「もうすぐできますから、お風呂入っちゃってください」


「分かった」


風呂を済ませ、部屋着に着替えてリビングへ戻る。


キッチンカウンターには、すでに料理が並んでいた。


生姜焼き。


千切りキャベツとミニトマト。


豆腐とわかめの味噌汁。


炊きたてのご飯。


「美味しそうだな」


思わず口にすると、湊が僅かに目を伏せる。


「この間、高宮さんが作ってくれた生姜焼きが美味しかったので」


「夏希さんに、作り方を教えてもらいました」


「俺に聞けばよかったのに」


「それでは、何を作るか分かってしまうでしょう」


湊が顔を上げる。


少し照れたように、笑った。


――可愛いな。


咲也の口元も、自然と緩む。


湊は咲也の前に、箸を置いた。


「さあ、冷めないうちに食べましょう」


二人で向かい合って座る。


「いただきます」


箸を取り、生姜焼きを一枚口に運んだ。


豚肉は柔らかく、甘辛いタレに生姜の風味が利いている。


ご飯にもよく合う。


懐かしい、いつもの味。


「……うまいな」


湊が咲也を見る。


「本当ですか?」


「ああ」


もう一枚、口へ運ぶ。


「そういえば、朝のサンドイッチもうまかった。ありがとう」


「いいえ」


照れたように目を伏せて、湊も箸を取った。


「バーで軽食も作りますから。あれくらいならできますよ」


「そうか。だからあんなに美味しかったのか」


具材はシンプルなのに、


また食べたくなる味だった。


ふと、以前訪れた湊の部屋を思い出した。


キッチンに置かれていたのは、インスタント食品ばかりだった。


――料理もできるのに。


「一人の時は作らなかったのか?」


「一人分だけ作るのは面倒じゃないですか」


「まあ、それはそうだな」


だからといって、すべてインスタントで済ませるあたり、随分と極端だ。


「今は面倒じゃないのか?」


何気なく尋ねる。


湊の箸が一瞬、止まった。


「今は」


咲也を見つめる。


「今は、一人じゃないでしょう」


あまりにもまっすぐな返事だった。


咲也は、一瞬言葉に詰まる。


「……そうだな」


誤魔化すように、味噌汁を口に運んだ。


温かい。


それが喉を通り、


ゆっくりと身体の中へ落ちていく。


なんだか、


胸の奥まで温かくなった気がした。


「また作ります」


湊が言う。


咲也は顔を上げた。


「ああ。楽しみにしてるよ」


自然と頬が緩む。


湊が作った夕飯を、


二人で食べる。


そんな何気ない時間が、


ただ嬉しかった。


湊にとっては、一人分だと面倒だった料理も、

今は二人分。


そんな何気ない変化を書くのが楽しかったです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。