第112話 野菜炒め
今回は、深夜の静かな二人のお話です。
食べたら眠くなる。
まさに真理だった。
家に帰る頃には、眠気はピークに達していた。
玄関まで辿り着いた時には、もうそのまま倒れ込んで眠ってしまいそうになる。
それでも、
なんとか身体を動かし、シャワーを浴びた。
その甲斐あってか、少しだけ、
頭がしゃきっとする。
その勢いのまま、キッチンに立つ。
――温かくてお腹が膨れるものがいいな。
冷蔵庫の中を漁り、適当に見繕った材料を炒める。
なんとか一品、出来上がった。
あとは。
粗熱を取って、冷蔵庫に入れればいい。
ローテーブルに置いた野菜炒めに目をやる。
もう少し冷ませば、冷蔵庫に入れられそうだった。
水でも飲んで待っていよう。
咲也はグラスを手に、ソファへ腰を下ろした。
もう少し、起きていられるだろう。
そう思ったのが、いけなかったのかもしれない。
次の瞬間。
咲也の意識は、ぷつりと途切れた。
深夜。
玄関の鍵が静かに回る。
「ただいまです」
湊が小さな声で言う。
返事はない。
まあ、
この時間だ。
寝ていてもおかしくない。
というか今日はさすがに寝ていてほしい。
昨夜を思い出しながら、
リビングへ向かう。
そこで。
足が止まった。
「……高宮さん?」
既視感。
ソファ。
昨夜と同じ場所に、咲也がいた。
グラスを片手に、俯いている。
完全に。
寝落ちしていた。
湊は眉を寄せる。
とりあえず、そっとグラスをその手から取り、テーブルに置く。
小さく息をつく。
ふと。
テーブルの上の皿が目に入った。
野菜炒め。
ラップもまだかかっていない。
冷蔵庫に入れる前に。
力尽きたのか。
湊はしばらく、動かなかった。
皿と、眠る咲也を交互に見る。
こんなに眠かったのに。
作ったのか。
自分のために。
「もう……本当に」
困った人だ。
ーー僕の食事のことよりも、自分の身体を大切にしてほしいのに。
しかし、咲也を心配する気持ちとは別に。
自分のために作ってくれたことが、嬉しくて仕方がなかった。
湊は咲也の隣に腰を下ろした。
「咲也さん」
小さく呼ぶ。
返事はない。
眠ったまま。
無防備な顔。
そのまま肩を抱き寄せる。
咲也の身体は。
何の抵抗もなく、湊の肩にもたれかかった。
湊は目を閉じて、
その温もりを感じる。
今日。
ルシアンと会って仕事の話をしたはずだ。
何を聞いたのか。
どんなことを考えたのか。
気になって仕方がなかった。
でも。
今は。
それよりも。
こうして帰ってきて。
ここにいる。
それだけでよかった。
胸元に、小さな力を感じた。
視線を落とすと、咲也の手が湊のシャツを握り込んでいた。
「……湊くん」
ほとんど寝言のような声だった。
思わず、口元が綻んだ。
胸の奥に、温かなものがじんわりと広がっていく。
起きている時には、なかなか見せてくれない姿も愛おしい。
「もっと甘えてくれていいんですよ」
寝ている時だけじゃなく。起きている時も。
湊は咲也の肩を抱いたまま、髪に頬を寄せた。
「……おやすみなさい」
そのまま、しばらく咲也を抱きしめていた。
静かなイチャイチャ回でした。
野菜炒めひとつでも、ちゃんと気持ちが伝わっている二人。
なんだかほっこりしました。




