第101話 離せない
湊視点のお話です。
眠る咲也のそばで、少しだけ本音がこぼれます。
静かな寝息が聞こえる。
帰宅した湊は、物音を立てないよう寝室へ入った。
窓から差し込む街明かりと、わずかに開いた扉の隙間から漏れる光が、薄暗い室内をぼんやりと照らしている。
咲也はもう眠っていた。
近づくと、
ソープの香りが鼻をくすぐる。
左の首筋。
襟足に近いところ。
そこには、まだうっすらと痕が残っていた。
湊は小さく息を吐いた。
あの時は衝動的だった。
ルシアンに何をされたのか気になって。
後先考えず行動を起こしてしまった。
その結果、咲也に恥ずかしい思いをさせた。
申し訳なかったと思う。
そう思うのに。
その一方で。
自分がつけた痕だと思うと、胸の奥が微かに熱を持つ。
それは愉悦。
ルシアンは言った。
ナイトだと。
自分は咲也を守る騎士なのだと。
だが。
そんな綺麗なものではない。
もっとずっと醜くて。
もっとずっと身勝手なものだ。
誰にも触れさせたくない。
誰にも渡したくない。
ただそれだけの。
ドロドロとした、執着。
湊は身を屈める。
そして。
まだ薄く残る赤い痕へ、そっと唇を落とした。
――もし、あなたが
離れたいと言っても。
きっと僕は、離せない。
眠る咲也の静かな寝息だけが返ってきた。
ブラック湊に、キャアキャア言いながら喜んで書いてました。
普段は静かな湊ですが、内側には思っていた以上に重たいものを抱えているようです。
「離せない」。
そんな湊のお話でした。




