25話 快晴
人が人の意のままに動くなんてありえないのかもしれない。何もかも順調になんていかないのかも。全てが変化を続けているから、長期的に世界を眺めないといけない。万物の根源は火、なのかもしれない。色々策を考えていたのだけど、空転した。初依頼は依頼主本人が自力で解決、か。それが1番良い形なのだろうけど、これじゃいつまでもこの部活に陽の目が当たらない。長期的に眺めるのはいいが慢性的な堕落に注意しなければ。つまり結局は目の前のことに集中するのが最適なのか、なるようになるのか。分からないことだらけだ。
進藤は学校も部活も長らく休んでいたが、今日から復帰したようだ。理由は病気の類ではないようで、人の頼み事に尽力していたらしい。どうにも納得のいかない理由だが、その全容は進藤なりに隠したのだろう。私からは初依頼がいつの間にか完了していたことを伝えた。進藤はそれを聞いて「それでいいのだ」と言っただけで、特に何も考えてなさそうな顔で珈琲牛乳を啜っていた。そんな雰囲気のまま1限の数学Aは進藤と屋上で過ごした。
「進藤。お前は掴めないやつだけど、わたしはお前を、気に入っている。」「ああ」風が吹いている。「お前はどうなんだ? わたしを」「無論俺も真を気に入っている」「そうか。じゃあそのお前の受けた頼み事とやらには秘匿義務があるのか?」「まあな、話が飛躍していないか」「うるさい。その依頼は完遂したんだろうな」風が弱く吹いている。「...。」「....。」「...まだだ」「そうか。...わたしはお前の友達であり、仲間だ。お前のいない学校は少し寂しかった。」「..そうか」「わたしを頼れ」少し強まった。「頼るさ」「1人で何とかしようとするな」「わかったよ」その数少ない日陰の中から見る空は青い光が散乱し、太陽によって生成と消滅を繰り返していた。「ありがとう」
「スカートにも衣嚢があるんだな」「まあね」進藤は胡坐をかいていて、わたしは三角座りをしていた。進藤の視線に意識すると、大腿の辺りがキュッと引き締まる感覚がする。「そんなに見るなよ」ジッと見るな、気付かれないように見てほしい。「いや、少し紙が衣嚢からはみ出しているんだ」わたしは視線を感じる辺りを視認せずにまさぐった。それが昨日内容を確認せずにしまった目安箱の中身だということは触感で解った。「これは昨日中の目安箱の中身だよ。一枚だけだったけど、そういえば内容はまだ確認してない」「見てみよう。また俺宛の殺害予告だったら困るが」それでもいいじゃないか。そう言いながらわたしはその紙を開いた。
”そのまま活動をつづけてね” ”いつかすべてを知って” ”わたしに会いにきて” そしてその紙の右下にはこう綴られていた。”しんか”
その内容は誰に宛てて書かれたものか、しんかというのが名前だとしたら、その人がわたしたちに何を求めて目安箱にこれを入れたのか、そんな基礎的情報も曖昧だ。「進藤、これは依頼なのかな」進藤は考えを巡らせているようで、わたしの言葉に反応しなかった。「進藤」そう呼びかけて肩を揺するとその集中も途切れたようで、進藤は反応を見せた。「ああ、ああ、そうだな。えっと、なんて言ったんだ」「これは依頼なのだろうかと」「違うんじゃないか」風を気にする暇がない。「しかしこの書かれている活動というのは超人助けのことだろうか」「そう断定はできないだろう。間違えて投函された可能性もある」では先のお前の妙な様子はなんだったのだ。「しかし、」「まあそう大したことではないだろう。とりまその紙は俺が預かっておこう」お前が略語を使うな不格好だ。そう心の中で突っかかっている隙にその紙は進藤によってほとんど強引に奪われてしまった。「おい、いいよわたしが預かる」「いいから。俺に任せておけ」進藤は笑顔でそう言った。そしてちょうど、1限の終わりを告げるチャイムが鳴った。静かに張りつめていた学校中の空気がほどけていくのを感じる。その爽快感とは裏腹に、ここには未来への不安が存在している。わたしたちはしばらく互いの目を見合った。わたしは進藤のあらゆる隠し事を見つけるために。進藤は、おそらくそれを拒むために。
これから先のもっと先を描いた地図はないんだろうか。結局すべて曖昧なまま、屋上の扉を静かに閉め、階段を駆け下りる。わたしたちの、夏が始まる。




