24話 魂魄
場を制したのは服部あいなの言葉、2人は力無く宙ぶらりんになった。周りの人間も拍子抜けした。言葉数もそこにある意味も多くはなかったが、あいなの想いは伝えられ、麗愛はそれを理解し、その心に優しさを身篭った。しんしんと時間が積もり始め、場の収拾に人が動き始めたころ、2人は長く消えゆく斜陽を見ていた。
「あなたがチア部を辞めた後、一緒に帰ることもなくなったわね」「うん」「今日は」「うん、一緒に」「麗愛」「あいな」「帰ろう」
2人は武道場での一事を話題にすることはなかった。話されたことといえば職員室で伝えられた処分の内容やくだらない冗談くらいで、ほとんどの時間は2人遠くの西の空と紫立つ雲を目に焼き付けていた。そこにただある風景が、2人にとって特別な存在感を放っている。2人は互いに体軸を支え合いながら、ゆっくり歩いた。
伝えたい想いは、言葉と感情によって人へと渡る。今日それを知った。東の空へ指をやり、夏の大三角をなぞる。今日のことがなかったら、こんな景色を見ることはなかったかもしれない。あいな、私はお前のことなど知らない、お前の全てに興味はない。だけど、お前と一緒に見るとやけに輝くこの景色が好きだ。伝えてしまおうか、この想い。少し恥ずかしい。私たちは否が応でも青春する。「あいな。私はお前の個性が大好きだよ」
その言葉を求めていたの。あいなは嬉しかったが、この歓喜を独り占めにしたかった。「なんだよ、気持ち悪い」笑いながらそう言った。もうすぐお互いの帰路に着いてしまう。「夏が始まるね」「うん」明日は快晴で、星がよく見える日になる。2人はやがて別れ、刻まれた疵の痛みに下を向くことも、寂しさに振り返ることもなかった。




