23話 獣往くソラ
麗愛はこんな私でさえ受け止めてくれる。「っ剣道部!! 竹刀か木刀!! 早く!」ほら、必死に得物を探して私に適応しようとしてるの、嬉しい。私達1度だけ殴り合ったことがあった。その時負けたけれど、そんなことどうだっていいくらい夕日と木曽川が綺麗だった。ねえ麗愛、今度はどんな景色を見る? 私はどこか遠くの星にいる仲間たちに会いに行きたいわ。
高橋麗愛は逃げている。その振られた弓を躱し、時々體に受けながら。2人の獣のような呼吸が校内を移動していく。「麗愛ぁあ! 逃げるな!!」「安心しろあいなああ!! 武道場に着いたらなぶってやる」高橋麗愛は体育館、武道場へと続くタイル道へ曲がり入ったフリをして待ち構え、追って進入してきたあいなの横隔膜に抉るように蹴りを入れた。あいなは蹲って普段使いの呼吸を探している。その手から零れた弓を高橋麗愛は取り上げることなく走っていった。「こうでなくちゃ」あいなのその声には血と痰が混じっていた。
武道場のやや長方形の窓から無作為に侵入する斜陽が照らす畳の中心には、高橋麗愛が座している。その右腿の傍に竹刀。あいなは持ち寄った弓を壁に寄り添わせ、一礼をして右足から畳を踏んだ。
「作法は重んじるのね」「作法ですもの。あなたへの礼節は皆無よ」「先の獣じみた口調でいいのよ、取り繕うのも大変ね」「あなたも、猩々のように素晴らしくけたたましい走りでしたわ。また見たいわね」沈黙。「その不細工なお嬢様口調をやめろつってんだよ」「キレるとシワがくっきりするなあ老け顔さんよお」一線を超えて、彼女らの背後にあった思い出は消え失せた。「宇宙人が」「てめえもさ」端に追いやられていた剣道部が逃げ出した。「剣を取れ、あいな」「殺してやる」あいなは縦置き竹刀スタンドから不備のない竹刀を無意識に選び取った。互いの刀に死線が光っている。それは言葉よりも熱量を帯びていた。
暫くの間は、何者も彼女らを制止することはなかった。やがて撃剣興行のようにギャラリィが寄せ始め、剣も捨て揉みくちゃになって互いの體に幾数の永遠の疵が刻まれ始めた頃、大柄な男子生徒や教師が止めに入った。2人は引き離され、何とかこの位置から攻撃できないかと手段を探している。あいなは自身を制止している男子生徒を遠距離攻撃手段として投げようとしている。麗愛はそれに言葉を見出し、口撃を始めた。
「往生際が悪いぞあいな! お前は負けたのだ! 央輔は私のものなんだ!」「...」2人は人力の斥力で離されていく。「人語が解らないか、宇宙人が! お前は一昨日央輔に告白したのだろう! その結果が全てなんだ! 行動力だけは認めてやる! だがな!! この闘いは私の勝ちなんだ!!」「れあ、」「なんだ!」麗愛は感情の機微を形に変えているため、涙が溢れ出ていた。「勘違いをするな!」教師らは互いの気持ちが落ち着くまで話合わせることを決定した。誰かがハント央輔を呼び出している。「勘違い? お前は私から央輔を奪う算段なのだろう! やって見せろ! できるものならば!」「そんなつもりはない、男などどうでもいい」宇宙人ではない、1人の女の子が想いを叫ぶ。
「わたしは、大切な、大切な友達の、あなたが欲しいのよ!」「欲しいって、どういうことよ!」「わたしは恋人とか、友達とか、どうだっていいの! 仲間が欲しいのよ!!」
想いはエネルギー、それを言葉に
エウレカ。




