20話 在る物語
「まこと先輩、なんですかあの英風イケメンは」「天音ちゃん。あれがターゲットだよ」天音は腑抜けた相槌を打った。「では、彼にちょくちょくお節介を焼くあのキツネ顔の女は誰ですか」「ああ、それもターゲットだよ。別の意味での」天音はそれを聞いて興味を露にして笑った。「あいな先輩、これは強敵ですよ」「知っています」あいな先輩は顔をしかめている。「今日の視察はこのくらいで、会議に移りましょう」わたしたちは体育館2階の応援席を立ち、体育館の中、主にバレー部のいる辺から見える中庭のベンチに座った。
しかし付き合っているとは言っても、異なる部活の2人が部活中あれだけ近接していて良いのだろうか。「彼女はチア部なのですよね。なぜバレー部のマネージャーのような行動をとっているのでしょう」「あれは私への当てつけですよ。あのキツネはキツネらしく威嚇することしか能がないようですね」あいな先輩は思い込みが強い性分のようで、正直話にならない時間が多い。「聞くしかないか」「私、聞いてきますね」天音が聞き込みを入れる。天音は演技が上手く、六斗の調査にも協力していたようだ。聞き込みの技術はその時に掴んだらしい。実際に仕事が早く有能だ 。
結果。この学校に誕生してまだ日の浅いチア部は初め、運動場の隅や武道場の裏、硬いアスファルトのロータリーといった空き場所で練習を行い、その他に近くの運動部のマネージャー補佐的なことも平行して教師にその熱意を訴えていたらしい。そして昨年、かの高橋麗愛が部長に就任した年。チア部は2階体育館使用のローテーションに組みいることになった。先のバレー部へのマネージャー補佐的行動はおそらくその熱意の名残なのだ。
たしかに。高橋麗愛が目立っていたけど、他のチア部もバレー部員に接近していたような記憶もある。隣であいな先輩はまだブツブツと戯言をほざいている。でもその戯言の中には気になる要素が二言三言あった。「私は負けていない」「チア部存続のために譲った」「2度」これらを補足してセンテンスにすると、「チア部存続のために部長を譲った。私は2度も負けていない。」あいな先輩が元チア部員でなければこれは破綻する、わたしはさりげなく真意を問う間を探そうと試みた。しかしその時。
「なんだかジメジメと梅雨に雨宿り場所を見つけられなかったたぬきのような女がいるわね。先も央輔を色欲の恣にした眼差しで見つめていたでしょう」それは高橋麗愛だった、なかなか面白いことを言う。隣のあいな先輩は怒髪天を下唇を噛み締める痛みで食い止めていた。天音は、限りなく気配を消していた。




