19話 開戦
進藤は梅雨入りを境に部活に来なくなった。「しばらく部活に参加できない。件の依頼はお前たちだけで解決に導いて欲しい」それだけの言葉と陰鬱な雰囲気を残して去っていった。そして進藤はぽつぽつと授業すら休みがちになった。
六斗が例の依頼主を今日連れてくるらしい。名前は服部あいな、六斗曰く普通に可愛い女子生徒だが、性格に難ありらしい。面白そうじゃないか。
「こんにちは、服部あいなです。わざわざ見つけていただきありがとうございます」挨拶と自己紹介に相手への気遣いを混ぜている、常識はあるらしい。「どうもこんにちは、支援部佐藤真です。こちらこそご依頼ありがとうございます、尽力させていただきます。それで、お相手はどのような方なのですか」六斗が目配せを送ってきた、相手に問題があるのだろうか。「そうですね。相手の方は、宇宙人なんです」
静謐。六斗が大袈裟に笑い声をあげた、しかしそれはフォローになっていない。こういうタイプか、ともかく情報だ。この程度で狼狽えてたまるか。「その彼は何部なんですか?」「バレー部です」おぉ、バレー部なんだ宇宙人。「名前と学年は?」「ハント央輔。同じ2年です。英国とのハーフです」たったこれだけでモテそうな男だとわかる。「それで、あいな先輩は彼と話したことくらいはあるのですか」「はい、そのくらいは。LINEももっています」デカい情報だ。「あいな先輩は容姿も可愛らしいので、アタックしたらすぐ付き合える可能性もありますよ」「それはないですよ」「どうしてだ」急に声を発するな六斗。「だって彼、彼女がいますもの」なるほど。
「一筋縄ではいかないと」「そうです」あいな先輩の気持ち次第だ。「手を引くつもりは?」そうわたしが聞いた途端、彼女はその可愛らしく綿雲のような雰囲気を鋭角に、顎をツンと上へ突き出してこう言った。「更々ないわ」その見下すような瞳は恋する乙女らしく、赤く光っていた。
少し談笑をした。わたしはこの先輩を女として気に入った。好きになった男を本気で堕とす覚悟を決めた女は強い、その強さがわたしは好きだ。フィーリングだが、先輩もわたしを気に入った気配がする。六斗は童貞らしく彼女持ちの男を奪おうと結託するわたしたちに理解を示さない。そこでわたしはこの件をわたしと天音ちゃんで解決することを決定した。
「そういうことで先輩、よろしくお願いします」「はい、よろしく頼みます」固い握手を交わした。
帰り道。湿ったアスファルトが夜を待っている。「すげえなあ。ハント先輩って言ったらかなりの上玉だぜ。その彼女もチア部のリーダー高橋麗愛、人気者の頂点だ。あの先輩、なかなか決まってるぜ」「そうだろう。それでこそ恋だ。」「はは」六斗は珍しく大人しげに笑った。「まあ、後は頼むぜ。難航したら是非頼ってくれ、このブレインに」「そうするよ。ご苦労だった」解散し、それぞれの帰路につく意識が芽生えたが、わたしはそれを堪えて六斗に依頼をした。
「六斗。実はまたお前にやって欲しいことが1つあるんだ」「なに?」六斗の口調は優しい。「進藤のこと」「それか」「LINEを送っても取り繕ったような明るい返事だけだ。家もわからない。なにか事件性は無くとも、学校に来ないというのは精神的な問題があるかもしれない。調べてくれないか」「ああ、俺も心配だ。そうだな、少し下見をさせてくれ」「下見?」「俺は勝てない勝負はしないんだ」「勝負じゃない」「勝負さ。今の俺を支えるアイデンティティ。俺にとって調べ物は戦なんだぜ。探偵による孤独な捜査のようにな」こいつは厨二病じゃない、己の心に忠実なんだ。「生粋のホモ・サピエンスだな」「格好いいな、それ。」わたしたちは口角を同じ角度に曲げて笑った。
人はコーペレイションを生きる術とする。わたしも同じ、みんな同じ。どうせ人だ。今日はそんなレヴェリーが疾走する夜だ。脳内会議は程々にしておこう。




