13話 温かい気温
わたしたちは花壇の前にいる。端から中央までがちょうど腕の長さ程の花壇が2つ、間隔を開けて2つ、合計4つ。まだ芽も出ていない。土の周りを囲んでいるレンガは磨かれて汚れがなく、土の上の雑草も除去されていた。わたしのいない29日に手入れされたのだろう。「長い間手入れされてなかったようでな、土から変えたんだ。用具倉庫に無造作に積まれていた赤玉土4割、腐葉土6割を混ぜて敷いた。石灰も撒いたな。天音が量る時一度土をまき散らしてしまってな。あの時は少しイラついた」「そうか。お前にもそういう感情はあるんだな」「そりゃあそうだろう」「ふん」「ああ、そうだ」「なんだよ」「そんな土作りだとか花だとかの知識を誰も持ち合わせていなかったんだ」「そうか、」「真が教えてくれたんだ」「なにを、その土作りだとかを?」「ああ、真が教えてくれた」「わたしにそんな知識はない」「でも、真が」「知らん。わたしはそこにいない」サッカー部は休憩中、野球部の怒号にも似た掛け声が賑やかに響く、体育館からはボールの弾む音、校舎の上の方からは合奏が聞こえる。きっと、昨日中の記憶がわたしの中から消え去ってしまったんだ。晴れの日の空がこんなにも荒んで見える。「そうだな。ともかくだ、今からお茶でもしないか」「どうして」「心配なんだ。」「ほっといて」「無理。」「もう大丈夫だから」「大丈夫じゃない。原因を突き止めるんだ。」失われてしまったんだ。もうどうだっていい。「どうでもいいわけがないんだ」エスパーやめろ。「行くぞ」「お前について行ってもなんの解決にもならない」「病院は休み明けに行け。今からは、俺のカウンセリングだ。」なんだそれ。「ドリンクバー付きのカウンセリング。精度は今のところ100パーだ」「0パーだろ」「これを見ろ」そう言って進藤は胸の衣嚢の中から眼鏡を取り出し、手に持っていた手提げカバンの中からキャスケットを取り出し、鼻背辺りと頭部にそれぞれドッキング。クエスチョンマークが止まらない。「俺は実は探偵なんだ。ミステリーは俺に任せろ」よくわからないが、これもわたしの頭がおかしくなったせいなのか?「手提げの中には他に何を入れてきたんだ?」「何も。キャスケットのみだ」なんだこいつは。少し面白いかもしれない。わたしの顔には笑顔。「わかった。探偵さん、この事件を解決してくださる?」「無論だ」
時刻は過ぎ、正午。わたしたちはイタリアンのファミレスに居る。進藤はメモ帳に可能性と調査結果を記している。わたしは彼の訊問に応えている。「これまでに卒然と記憶が失われた経験は?」「NO」このように。
「少し考える」進藤がそう言った時は、ドリンクバーに飲み物を補充しに行く。わたしは烏龍茶、彼は辛口のジンジャーエール。
「よし、そうだな。六斗に話を聞いてみる」
「どうして奴なんだ」「うん。まず精神疾患の線は薄い、真の心身は至って健康のようだし、新しい高校生活にストレスを感じているようなことも無いのだろう。薬物もアルコールも摂取していない。でも一応、休みが明けたら医者に行け。」「うん。わかった」「1番の原因は、まあ少々非現実的だが霊的なにかによる干渉の可能性が高い」「...。霊か」「ああ、昨日の真は確かに別人のようだった。そして現状、科学医学では説明がつかないことが多すぎる。六斗はそういうオカルト的な事象を調べているらしい、なにか情報をくれるかもしれない」「そうだな、聞いてみよう。連絡先は」「もっている。」
時刻は過ぎ、14時。わたしたちは神野六斗の家にいる。




