31 -護衛-
「魔物の素材を使った布自体は意外とたくさん売ってると思う。ただ、それは基本的に防具としての運用だ。嗜好品としてとなると、オークションかオーダーメイドになるだろうね。どっちがいい?」
「オーダーメイドでお願いします」
そんなやり取りをコルボと行い、情報を得た。
私がよくナァナ様の治療に向かう、ファーリア侯爵領の西側に魔物素材の製織を研究している場所があるらしい。
なんでも、『魔物の糸こそ至高の素材』という事だ。
私としては魔物だろうが何だろうが質が良ければそれで良いのだが、熱意があるのならそちらの方が信用してみる価値がある。
という事でファーリア侯爵領へ向かう事にした私だったが、それをギルドに伝えると高ランク冒険者を探している依頼がある為ついでにそれをやっていけという。
それが護衛任務。
私はめったに護衛任務を受けないのだが、それはギルドにあまり私に回さないように言ってあるからだ。
夢魔法もあまり見せたくないし、アヤメを怖がる相手も多い。
それでも私に声を掛けてきたと言う事は、他の高ランク冒険者......月華などが出張っており、私クラスでないといけない護衛対象という事だ。
貴族か、はたまた他の厄介な相手か......。
「本日は、よろしくお願いします」
「よろしくお願いいたします。私は従魔を使いますが、よろしいですね?」
背筋のピンと伸びた初老の男性が首肯する。
馬車の中にいるのはほぼ間違いなくやんごとないお方だろうし、この男の立ち振る舞いを見るに下位貴族ですらないだろう。
少し不可解なのは、幌に描かれるはずの家紋のようなものがないのだ。
馬車の質、鍛えられた馬......いや、こいつは魔物の馬だな。魔石のような魔力を体内から感じる。
状況で言えば完全に上位の......それもファーリア侯爵より上の......辺境伯?
______やめだ。
これ以上考えると、厄介事に巻き込まれる気がする。
私は依頼を受けた冒険者、護衛対象はこの馬車。それだけだ。
「それと、仮に人間に襲われた場合頭領を殺さずに捕縛していただきたく......」
「ふぅむ......相手の練度によりますが、最大限努力いたします」
不穏な事を言う男だったが、口を出す事はしない。
少し馬車に細工だけさせてもらい、さっさと向かう事にした。
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「アヤメ、リーダーらしい奴は斬るなよ。食べてもいけないからな」
「分かってるっすよ!大体、ルミさんと一緒に来てから人間を食べた事は無い筈っす!」
______おいおい、冗談だろ?
そんな馬鹿話をしつつ、私達は馬車と並走していた。
これが私のした細工、馬車並走用・硬化糸荷車だ。
馬車に糸を繋ぎ、糸で補強した荷車をそれに連結することで歩かずに馬車について行くことが出来るようになった。
走ることも出来るには出来る______アヤメに運んでもらう事にはなる______が、馬の質が良いならこちらの方が体力面や快適具合が違う。
そんな奇妙な乗り物に乗っていたところ、幌から覗き見る好奇の視線を感じた私は気付かないフリをした。
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温かな日差しを感じる。
完全な昼寝日和、護衛任務なんぞ受けるべきではなかったと考えていた。
その一瞬だ。
私は何かの魔力を感じ、即座に周囲を見回す為に立ち上がった瞬間だ。
______ドォン!!
地面が突然爆発し、馬が大きくよろめいていななく。
「罠が張られています!馬車を急いで止めて、可能な限り防御を固めてください!」
「分かりました!守護せよ!《要塞》」
御者をしていた男は、地属性上級魔法を詠唱短縮で発動した。
やはり只者ではなかったようだ。
岩が馬車を覆い、要塞のように固くなっていく。
「アヤメ、私を守れ!罠を探知する!」
「了解っす!」
先ほどの爆発然り、《要塞》を即座に破壊できるほどの魔力を今のところ感じていないので、一旦地雷らしき罠を探知する事に注力する。
「......かなり複雑な魔力構造だな。無形魔法か」
定型化された学術魔法ではなく、自ら編み出した魔法。
それが出来ると言うだけで、木っ端魔法使いとは一線を画している。
警戒の度合いを数段上げ、探知の範囲を広げていく。
すると、盗賊のような出で立ちをした輩が森からぞろぞろと走ってくるのを感知する。
「統制のとれた動き......相手を襲うのに十分な人数......素人ではないな」
私は、これが男の予想していた敵であることを即座に理解した。
《微睡み》を使って制圧しても良いが、私の護衛としての能力は永久に《微睡み》頼りになってしまう。
私は腰を据えて、こいつらを制圧するのに《微睡み》に頼らない事を決意した。
「夢魔法・冥護の章《絶一門》。これで馬車付近の罠は解除しました!爆発を警戒する必要はもうありません!」
「ルミさん、アヤメも行くっす!《石楠鎧》!」
アヤメは棘の生えた鎧を纏い、敵を倒しに駆けて行った。
さっさと終わらせるためについて行きたいところではある。
しかし私までそれについて行くと、護衛にはならない。
初めて月華と会った時の事を思い出し、自分を律する。
「勝利条件は全員を倒す事ではない。馬車を無傷で守ることだ。夢魔法・転魄の章《贋》」
私は魔石を15個放った。
その全てが光り輝き、魔物が現れる。
かつては御しきれなかった数の魔物だ。
「いつまでも弱いままでは駄目だ。進化した私を見せてやろう」
円月輪などいらない。
夢魔法こそ私の真髄なのだ。
週3(くらい)投稿継続中です。
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