12 -月華-
翌日の朝。
普段より少し早く目覚めた私は、二度寝したいという欲求に抗い、アヤメを魔石から出す。
「......っぷは!狭かったっす~!ルミさん、やっぱりアヤメも外で寝させてほしいっすよ~」
「無茶言うな。1人分の部屋でぎりぎり生活しているんだ、出たかったら金を稼げ」
「お金っすか?じゃあ今から稼ぎにいくっす!」
馬鹿を言うな。今からダグレスに夢魔法を見せに行かなくてはならないんだ。
昨日彼が言っていた事を覚えているのなら、間違いなく面倒なお披露目になる。
覚えてろ、なんてむこうの世界では絶対に聞くことのない言葉だからな。
少し笑ってしまいそうになった。
「また魔石にしまわれたくなければ、黙って付いて来い。今日の用事が済めば金を稼ぐのも難しくないし、稼げれば部屋もご飯も選びたい放題だからな」
「わ、分かったっす!よーし、ぶっ殺すっすよー!」
そこまでしろと言ってないし、今回アヤメに戦ってもらうつもりはない。
夢魔法で仲間にしているわけでもないから、こいつが強くても意味がないのだ。
しかし、このお披露目が終われば正式にダグレスが便宜を図ってくれる。
それはつまり、私の夢への大きな第一歩というわけだ。
良くも悪くも、ターニングポイントだろう。しっかり私の力を見せつけなくてはいけない。
「せっかく早く起きたんだ。少し身体を動かすのに付き合ってくれ」
「了解っす!」
さて、身体を起こすとするか。
△▼△▼△▼△▼△
「ギルドマスター?何故この子達がここにいるんですか?」
私が訓練場に着くと、昨日の少年達がダグレスの隣で立っていた。
「僕達は『勇なる剣』だ!それに、君の方が年下だろう!」
そう言えばそう名乗っていた気もする。
剣士はレイン、重戦士はゴウ、魔法使いはジェーナ、治癒士はマリンと名乗った。
一応私も名乗り、改めてダグレスに尋ねる。
「今日のお披露目に必要だから連れてきた。残りの奴らが来たら説明......と、来たな」
ダグレスが向いた方向にいたのは、昨日の揉め事で少年達の師匠扱いされていた金髪優男と、燃え上がる炎のような赤い長髪の、ガタイの良い女性だ。
ダボっとした服装と魔力を見るに、後衛......それも攻撃系だろう。
魔力量は中の上、しかし少し違和感があるな......ああ、あの指輪か。
恐らく、魔力をため込む指輪だ。あれも含めれば上の中くらいにはなるか。
「さて、今回はここにいるルミがミノタウロス・バーサーカーを討伐した魔法を披露してもらう為に『勇なる剣』と『月華』に来てもらった。しかし、ルミの魔法はとても特殊でな、念の為ここで見た事は全て他言無用、という契約魔法を結んでもらう」
彼らはそれを既に聞いていたのか、特に文句も言わずに契約に応じた。
強いて言えば、レインがこんな子供が?みたいな表情をしていたが、契約には応じていた。
そして、ダグレスは説明を始める。
「今回やってもらう事は、護衛依頼に見立てた模擬戦だ。ルミには、『勇なる剣』を守りながらAランクパーティである『月華』の二人を相手してもらう。まずは互いに自己紹介をしておくか」
「俺はヴェーロン。ヴェンってよく呼ばれる。当然前衛だ」
「アタイはアリアンナ。ヴェンとパーティを組んでる後衛さ」
こちらも適当に自己紹介をしつつ、アリアンナとかいう女性の雰囲気に違和感を覚える。
しかし、違和感の正体に気付くことなくダグレスの説明が再開する。
「本来、『月華』と戦ってもらうだけのつもりだったんだが、昨日の娘っ子の態度が気に食わなかったから『勇なる剣』を守らせることにした」
なるほど、あいつの言ってた台詞はそういう事か。
ガキの御守は面倒だが、仕方ない。機嫌の悪かった昨日の自分を呪うしかない。
「ルミは『勇なる剣』の4人を守りつつ、『月華』を戦闘不能にしたら勝ち。当然殺しは無しだ」
『月華』の2人はガキ共を狙っていれば良いわけだな。
大分不利な条件だが、まあなんとかなるだろう。
「『勇なる剣』に致命的なダメージが入る攻撃をルミが護衛できないと判断した場合、俺が止めに入るから『月華』の2人は遠慮せず攻撃してくれ」
遠慮してもらった方が楽だが、それはないか。
私は全力で守り、攻めるだけだ。
「説明は以上だ。ルミもいいな?」
「はい。では私の魔法、夢魔法のいくつかをお見せしましょう」
私はグラフェノスの魔石を5つ放り、夢魔法を発動する。
「夢魔法・転魄の章《贋》」
《贋》によって5体のグラフェノスが仮初の命を宿し、私とガキ共を守るように立つ。
しかしこのままでは、Aランクである彼らによってグラフェノスが討伐されて終わりだ。
よって、グラフェノス達の剣に強化を施す。
「夢魔法・修羅の章《骸砕》」
剣に込められた魔法は、純粋な破壊のみ。
魔力に命令を刻むのにも少しは慣れてきたので、5体の剣は崩れることなく強化出来た。
「魂を操作し、魔物を好きな場所・タイミングで召喚できます。そして、魔力に命令を刻むことで、通常より強力な強化を剣に施しました」
これだけで、彼らは唖然としているようだ。本来であれば《睡天》なども見せてやりたいが、あれは死にかねないので封印だ。
私は準備が出来た事をダグレスに伝え、配置につく。
『月華』の2人も配置につくが、少し聞きたいことがあると声をかけてくる。
「すまない、そこのグラフェノスは?配置につかないようだが」
......ああ、あいつを連れていた事を忘れてた。
夢魔法で戦うのだから、《贋》の命令が効かないアヤメを戦いに参加させるわけにはいかない。
さきほど貰った従魔証を首にかけ、戦う気満々だったアヤメを止めるのは苦労したが、食べ物をちらつかせたらすぐに黙った。
「ちょっとありまして、私と共にいるだけの魔物です。夢魔法とは何ら関係ありませんので、今回は不参加です」
「そうか。分かった」
少し怪訝そうな顔をしたが、彼女を参加させることは今回の趣旨に反すると理解してくれたようだ。
「準備は終わったな?では、ルミ対月華の模擬戦、開始!」
私の運命を左右するだろう模擬戦の、幕は上がった。
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