13 -炎の鉄拳-
グラフェノスが飛び出し3体がヴェンに、2体が私とガキ共を守る。
正直あのパーティの戦法が分からない以上、私は攻めるしかない。
本来情報を集め、入念に準備するのが私の戦い方なのだ。
それが出来ない時点で私に不利なのだから、不利な状態から守りに入るわけにもいかない。
「《防護》、《加速》」
アリアンナが強化魔法を掛け、ヴェンは長剣でグラフェノス達に対峙する。
どんなものかと思って見ていると、意外と普通だ。
確かに、《骸砕》を施したAランクの魔物相手に3対1を繰り広げているのだから、達人の領域ではあるのだろう。
しかし、とんでもない動きをしているわけでも、見たことも無いスキルを使っているわけでもない。
まだ余裕がある、ということだろう。
試しに《火弾》をいくつか発射するが、アリアンナがしっかりとシールドを張って防御してくる。
そして、私が強力な魔法の為に魔力を込め始めると、何かしらの魔法で妨害してくる。
......面倒だな。
「《微睡み》......状態異常無効化か」
「おっと、状態異常がメインウェポンかい?それは残念、私のスキルは《剛健》、病気や状態異常に強くなるのさ。それをレベル5にして、ヴェンにもその効果が付与されてる」
非常に相性が悪い相手を連れてきてくれたものだな、あのギルマスは。
どうにかそれを突破するか、他の攻撃であのシールドを破壊するか、か。
そういえば、さっきからアリアンナから飛んでくる魔法は火属性ばかりだ。
得意なのか、適性がそれだけなのか......。
「夢魔法・冥護の章《絶一門》」
火属性を無効化する結界を展開し、風属性中級魔法《風刃》を放つ。
それに接触するようにアリアンナが火属性上級魔法《炎槍》を発射するが、《風刃》に触れる前に完全に消え去る。
私の魔法を消すことは出来ず、そのままヴェンに降り注ぐ。
「あれま、不思議な魔法だね」
彼女は一切気にしていないらしいが、当然私の《風刃》を喰らったヴェンは鬱陶しげにする。
しかし彼の防具には、《風刃》程度では大きなダメージにならないようで変わらずにグラフェノスの相手をしている。
「おい、ちゃんと防げ!」
「うるさいねェ!中級魔法くらい斬っちまいな!」
「こっちはグラフェノス3体相手してんだ!ざっけんじゃねえ!」
彼らは喧嘩をしながらも、グラフェノスの対処をしている。
喧嘩をしているうちに攻撃してしまうか。
「夢魔法・修羅の章《骸砕》......替えの剣を買っておくべきだった。失敗したか」
魔法で生成した水だの岩だのに破壊の命令を刻むと、魔法自体が崩壊する。
その為剣に付与していたのだが、ミノタウロス・バーサーカーとの戦いでなまくらに力を付与したところで大した攻撃にならない事を学んだ。
あの程度の剣では、二人に大したダメージを与えることは出来ないだろう。
仕方なく魔力に破壊ではなく威力増強の命令を刻み、余分に魔力を込めて《岩弾》を放つ。
これが当たれば、間違いなく戦闘不能には出来るはずだ。
ヴェンは当然グラフェノスの対応に追われており、アリアンナ以外にこれを止められない。
「流石ダグレスさんの警戒する魔法使い、手を抜いたアタイじゃこれは守りきれないね」
彼女もそれを悟ったか、瞬時にローブを脱ぎ捨て、魔力を拳に込める。
それは大きな鉄拳と化し、燃え上がることで完成した様子を見せる。
そして刹那、彼女が拳を振りぬいたと同時に《岩弾》が砕け散る。
「炎の鉄拳と呼ばれるアタイの拳技、見せてやるよ」
「イアハ......王国に住む民族の言葉ですか」
以前習った国の歴史で、舞踊を戦闘に取り入れた民族が王国の端に住んでいるという情報があった。
その民族は総じて魔力が多いことから、研究対象になっていることも。
「驚いたね!まさかアタイの故郷を知ってるどころか、言葉まで知ってるなんて。じゃあ、アタイらの戦い方も知ってるね?」
「ええ。でも、そうはならない」
前衛のヴェンを守りながらこちらに近接戦を仕掛けてくる腹づもりなのだろうが、私も睡眠の為に負けてはいられないのだ。
アリアンナが前に飛び出し、ヴェンより前に出た辺りで異変に気付く。
「......ん?これは、糸」
「夢魔法・修羅の章《骸砕》。糸ごとその装備、貰っていきますよ」
彼女の着ていた、質の良さそうな革の装備が少しずつ崩れていく。
私が地面に仕掛けていた、粘着力を極限まで上げた糸を通じて『破壊』の魔力を送り込んだのだ。
「魔法の耐性が高いこの靴で駄目なら、素手で触れたらしばらくは仕事にならないね」
アリアンナの言う通り、生身で触れればその部分が崩れてなくなってもおかしくない。
それが私の付与している魔力だからだ。
「なら、これならどうだい?」
彼女が足にも同じように炎を纏わせ、それを糸に向ける。
すると、炎属性に対する耐性がない糸は燃えてなくなっていく。
「悪くない判断ですが、やめておいた方がいい」
「一丁前に高説垂れる暇があるのかい?」
彼女は私の反応を遥かに上回るスピードで、こちらに向かう。
グラフェノス達はそれに対応するように私とガキ共を守るが、その必要は全くないのだ。
「.......さっきの結界、あの一瞬だけじゃなかったのかい」
「解除したと言った覚えはありません」
《絶一門》は、解除していない。
そして、私が拒絶した属性は炎。
彼女の纏うものと同じ属性だ。
つまり、彼女の最も得意な魔法は封じられたのだ。
その上、辺りは触れた瞬間に終わりと言っても良い糸まみれ。
「アタイは降参。ここから動けない」
「アリアンナ、降参!残りはヴェンだけだ!」
ダグレスが宣言をしたので、私が風魔法でアリアンナを場外まで運ぶ。
残りはヴェンだけだが、このままなら遠距離で魔法を放ち続けて終わりだ。
なんなら、アリアンナのいない今《微睡み》で眠らせても良い。
「馬鹿、無茶して俺の負担を増やすなよ......」
心底くたびれたような声を絞り出し、グラフェノス達から少し距離を取るヴェン。
「《十戒・神速》」
そう唱えると、彼の相手をしていたグラフェノスの内の2体が膝から崩れ落ちた。
見ると、関節を破壊されているようだ。
「お速いんですね」
「まぁ、な。続けていくぞ」
今の私では、あの動きを認識することすらできない。
ひとまずはあの動きを見る必要があるな。
読んでいただき、ありがとうございます。
ブックマーク、いいね、評価、感想、レビューなどなんでも励みになりますので気が向いたときにお願いします。




