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11 -勘違い野郎-

「ルミふぁん、ほれ、おいひいっふよ!」


「分かったから、食べながら喋るな」


 ......疲れた。

何故こう、面倒な事に巻き込まれやすいんだ、私は。

腕から生えた剣をしまい______しまえることは知らなかったが、剣が消えているからそうなのだろう______先程よりは綺麗に食べているアヤメを見ながら、先ほどのことを思い出す。



△▼△▼△▼△▼△



「ルミさん、起きてくださいっす。ルミさんってば!」


「うるさい奴だな。もう着いたのか?」


 目を擦り、辺りを見回す。

正確な位置は分からないが、間違いなく街では無い。木々がそう物語っている。

ただ、少し不自然な音が聞こえている。

これは......剣戟?


「おい、近くで誰か戦ってないか?」


「やっと気付いたっすか!?アヤメが戦ってるんすよ!降りてくださいっす!」


 何?アヤメが私を下ろさないといけない程の相手と戦ってるのか?

アヤメの肩から、くるりと前回りをする様に降りる。

戦っている相手は、人間の子供______私より年齢は上だろうが______4人だ。

恐らく冒険者パーティなのだが、強そうには見えない。


「えーっと、あなた方は、冒険者で間違い無いでしょうか?」


 私が問うと、アヤメに斬りかかっていた少年がこちらを見た。


「はっ!君、僕の攻撃で出来た隙を逃さず魔物から逃げ出したんだね!こっちへ来るんだ、危ないよ!」


 ......眠気が覚めてないのが理由か?

この馬鹿の言っている事がよく分からないのだが。

私がアヤメに捕まっているように見えて、それを助けるためにアヤメに戦いを仕掛けたと?


「ただの馬鹿だ。殺してもマズいから拘束する。前衛を任せた」


「了解っす!《マジックシールド》!」


 アヤメは剣を交差させ、何やらスキルのようなものを使ったようだ。

名の通りなら、魔法に対する障壁だろう。

改めて、相手のパーティを見やる。男剣士、男重戦士、女魔法使い、女治癒士......バランスが良いな。

後衛からやれば、アヤメの剣で前衛の相手は問題なく務まる。

ならば私も、仕事をしなくてはならない。


「炎よ、赤き炎よ。今ここに顕現し、炎弾となりて敵を焼き尽くせ!《炎弾(ファイア・バレット)》!」


 詠唱、か。

魔法使いの女は間違いなく素人、前衛二人も見る限り素人だ。

アリー師匠相手に使った防御魔法《絶一門》は、自身の魂を切り取り、一時的に魔法の一部とする魔法。

そんな大層な魔法を使うまでもない。

水壁(ウォーター・ウォール)》、《岩錠(ロック・ロック)》を発動する。

後衛2人の口、両手、両足を岩で完全に塞ぐ。詠唱無しで魔法が使えないのであれば、これで十分だ。


 ______いや、治癒士の女は無詠唱でも魔法が使えるようだ。

少しずつ《岩錠(ロック・ロック)》が消えてきている。

この際だ、苦手な魔法の練習でもするか。


「えーと、こうだったか?光の神よ、彼の者の意識を奪え。《気絶(ノックアウト)》」


「んんッ!?」


 治癒士の女は、声にならない声を上げて気絶した。

それに気付いたのか、前衛の2人は狼狽えるような仕草でこちらを見た。


「ジェーナ、マリン!?き、君!何のつもりだい?僕たちは、君を助ける為に......」


「私が、そこの魔物の主人と言って信じますか?」


「信じるわけないだろう!君は、あの魔物に脅されているんだろ?もう大丈夫だから、こっちへ来るんだ!」


 何故あの剣士は、ガキの癖にキザな話し方なんだ......。

余計に腹が立つ。こいつの拘束は少し痛くしてやろう。

あの重戦士は、無口な上大した攻撃もしていないから拘束を弱くしてやる。


「短縮詠唱とはいえ、貴方に分かりやすくしてあげるのですから感謝してください。《炎牢(ファイア・プリズン)》《風牢(ウィンド・プリズン)》」


 小さい炎の牢と風の牢が、それぞれ剣士と重戦士にまとわりついた。


「熱、熱い!君、落ち着いて!この拘束を解くんだ!魔物を怖がる必要はない!」


「......もういい、鬱陶しい。アヤメ、少し怪我をさせてもいいぞ。《静寂(サイレント)》」


 私はアヤメに命令し、うるさくないように魔法で黙らせる。

アヤメは剣をしまい、拳で剣士を数発殴った。剣士は何やら言ったようだが、当然全く聞こえない。

この魔法、非常に便利だ。やはり闇魔法は良い。

眠るのにも、そこの馬鹿を黙らせるのにも役立つ。


「一度だけ言う。私はギルドマスターの命でここにいる。話を全く聞かずに、私と私の従魔に攻撃したことはギルドマスターにも伝えなきゃならない。黙って付いてくればこれ以上攻撃はしない。分かったか?」


 私の言葉を信用しているかいないかは別として、重戦士と魔法使いは頷いた。

見たところ、剣士は納得していないようだ。どうせ黙らせているし、そのまま引っ張っていくことにしよう。


「火力をあげて欲しくなかったら抵抗するな。アヤメ、ヒーラーを担げ。この馬鹿は私が引っ張る」


「了解っす!ほら、ルミさんが優しく引っ張ってくれてる間についてったほうがいいっすよ!糸でみじん切りにされちゃうってイタタタタ!糸を関節にこすりつけるのはやめるっす!切れちゃうっす!」


 馬鹿め、こんな糸で切れるようなら今すぐ魔石に封じ込めている。

せいぜい私の為に働け。美味い物でも何でも食べさせてやる。



△▼△▼△▼△▼△



 私の前には、ギルドマスターのダグレスと、受付のナドゥ、そして金髪の優男風の男性が立っている。


「で?これはどういう事だ?」


「ギルドマスターに求められた物を集めに行く帰りに、突然襲われたので拘束して連れてきました」


 私のその言葉に、熱いだろうに勢いよく首を横に振る剣士。

何か言っているようだが、何も聞こえない。


「魔法を解いてやれ」


「他の方ではいけませんか?この方は自分の立場がわかっていないようで話になりません」


 率直な私の意見に、ダグレスは心底面倒そうに勝手にしろという素振りを見せる。

なので私は一番能力が高く、話が通じる可能性が高い、アヤメに抱かれている治癒士の頬を軽くはたく。


「ん......あれぇ?何で私寝てたのぉ?」


 間伸びした話し方で、辺りを見回した少女。

彼女は自らをマリンと名乗った。剣士が叫んでいたのが後衛2人の名なら、魔法使いの方はジェーナだろうか。


「起きたばかりで悪いな。ギルドマスターのダグレスだ。君を抱いている魔物に攻撃をした経緯というのを聞かせてくれないか?」


 改めてダグレスが質問をすると、治癒士の少女は真上を見て、自分を抱いている存在に軽く驚く。

軽くなのかは、恐らくこの少女の性格故だろう。


「えっとぉ......レイン君がぁ、気絶した女の子を担いでる魔物がいるから、攻撃して助けようってぇ」


 ダグレスは真偽を尋ねるように私を見るが、私は今の証言の通り寝ていたのだから知った事ではない。


「アヤメ、答えてあげてください」


「......アヤメっすか!?ええと、ルミさんを担いでたのは本当っす。街に着いたら起こせって言われてたっすから、ひとまず対話を試みた結果問答無用で攻撃されたっす」


 初めから会話が通じていなかったのか。

どうしてこうも面倒な奴に目をつけられなくてはならないんだ、全く。


 そうやって自分の運の悪さにため息をついていると、ダグレスに剣士の拘束を解くように指示される。

どうしてもこいつじゃなきゃダメかと問うと、ダメだと言う。

私は仕方なく《炎牢(ファイア・プリズン)》と《静寂(サイレント)》を解除した。


「さて。確か君たちのパーティは固定パーティだったな。名は何と言う?ついでに君の名前も教えてくれ」


「は、はい!『勇なる剣』のレインです!」


 ゆ、勇なる剣?こいつ、正気なのか?

パーティというシステムには、依頼を達成する為に即席で組まれる臨時パーティと、基本的に一緒に依頼をこなす固定パーティがある。

固定パーティであれば、臨時パーティでは発生する依頼を受けるときの手続きが減るのだ。

そして、パーティ名を登録できるのだが。

それが勇なる剣らしい。

間違いなく名前負けしている。


「そうか。君たちはここにいる君たちの師匠に、魔物には問答無用で突っ込めと教わったのか?」


 そう言ってダグレスは金髪優男を指差した。

あぁ、こいつはこの少年達の師匠だから呼ばれたのか。

弟分が問題行動をしただけで出張ってくるとは、随分過保護な師匠だな。


「ダグレスさん、師匠じゃないですよ。俺は同郷のよしみで面倒を見てるだけだ」


「似たようなものだ。とにかく、私は君に聞いているんだよ、レイン君」


「......すみませんでした。以後気をつけます」


 ほう、この2人の言うことはしっかり聞くのか。

ただの馬鹿ではないみたいだな。


「さて、ルミ。君も反省してくれ」


「......はぁ?私は被害者の筈ですが。と言うか、ギルドマスターは寝起きの私の機嫌の悪さを知っているでしょう。その状況で、殺さずに連れてきただけ感謝して欲しいのですが」


 全くもって心外だ、とダグレスを睨む。

しかし、ダグレスは普段と変わらず胡散臭い笑みを浮かべている。


「君が寝ていなければ、誤解を解けた可能性はあっただろう。眠っている少女が従魔証も付けていない魔物に担がれていれば、勘違いするのも無理はない」


 ......一理ある。つくづく正論を振りかざすのが上手い男だ。

そして今の発言で思い出したが、従魔証も貰わなくてはならない。


「......すみませんでした。ですが、眠るのはやめません。ですので、次からは報告せずにその辺りに埋めておきます」


「そういう所を反省してほしいと言っているんだが......まあいい。明日のお披露目では覚えておけよ」


 最後のダグレスの発言には少し引っかかる所があったが、もう下がっていいと言われたのでその意を問うこともせずに、残った魔法を解除して部屋を後にした。




「して、どうかね。あの娘っ子は」


 ギルドマスター執務室。

ルミが退室し、レインを叱り終えたヴェンに問う。


「俺はあいつみたいに魔力が見える訳じゃ無いですから、そっち方面は分かりませんが......恐ろしいですね。俺たちの事を殺す事になんの躊躇いも無いような目でしたよ」


 それはそうだろう。

あの少女は、眠る事以外は全て些事なのだ。

それが国外逃亡であっても、殺人であってもだ。


「明日は頼むぞ」


 私は、あの少女を御する事がこの国の為になると思っている。

その為にも、明日は少しでもあの少女の情報を引き出してほしい。


「わざわざあいつまで呼んで、10歳にも満たない少女と戦えなんていうからおかしくなっちまったのかと思いましたが。あれを見たら俺でも力不足なんじゃないかと思ってしまう」


 それでもだ。

このギルドで、最もエクソーバーに近いパーティである君達に出来なければ、それもまた仕方のない事だ。


「では、今日はゆっくり休んでくれ」


「ええ、お休みなさい」

読んでいただき、ありがとうございます。

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