5-3 舞い降りたトラブル
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ナータが襲われます。
試合も終わり、いつもの生活に戻ったクーヤ達。その頃ナータはファティマ王国に戻って家族と過ごしていた。
〇王都 某所 転移172日目
滔々と流れるナイル川の中州に建てられた王城。それを頂点とする三角州に巨大穀倉地帯があり、この国の胃袋を満足させる。
王城のある中州に渡る橋の近くにあるあばら家にそいつらは居た。
「くそー、こう監視がきついと何もできねえじゃないか」
「隊長、そろそろ潮時ではないですか」
「バカヤロー、何の土産もなしに帰ったら、皇帝陛下に首を刎ねられるぞ」
彼らは中東を支配するペルシャ帝国からの密偵である。
ペルシャ帝国皇帝はファティマ王国が魔人と互角に戦える理由が知りたかった。
ファティマ王国が魔人を退ければ、ペルシャ帝国に手を伸ばす。そう皇帝は思っていた。
戦術などはその前線に人員を出しているので、彼らの使命はファティマ王国からペルシャ帝国を守るため、武器の生産や兵站などの戦略の秘密を手に入れることであった。
ファティマ王国はその周辺への一般人の出入りを禁止し、怪しい人間の監視などをしているため、彼らは秘密に近付けないでいたのだ。
何かしらの土産を持たずに国に帰れないし、自分達の周りはどんどん包囲の圧力が強くなっている。
そんな時に朗報が飛び込んでくる。
「王族と思われる少年を発見しました。護衛もなく一人のようです。いま、相棒を着けています」
「なぜ、王族とわかるのだ?」
隊長は本当なら国に帰れるかもと喜ぶがそれを顔に出したりしない。
「はい、白銀の髪の毛、暗褐色の肌、服も上等な絹です」
「良し、馬車を用意しろ。そいつを包囲して拉致するぞ。国まで運べれば勲章物かもしれん」
隊長は部下たちに指示を出した。
「お前はそいつを見失なわないように後を着けろ」
「お前は連絡係として一緒に行け」
その風体だったら、王の近く・・血縁者だろう。
まあ、誘拐して調べればいい。
秘密を知っているかもしれんし、人質にすればいろいろ余禄が付いて来るかも。
隊長は突然舞い込んだ幸運に、顔が緩むのが堪え切れなかった。
部下とともにその少年の居る場所に怪しまれないような早足で向かうのだった。
そのころナータは市場に向かう道を歩いていた。
道の両側には市場を追い出されたのか、ちょっとした食べ物を売る屋台が並んでいた。
「もう、ずっと見張ってるから着替えられなかったよ」
ナータはクーヤに見せる動きやすい服ではなく、王族の飾りのついた高級な服を着ていた。
世話を焼くメイド達を振り切って瞬間移動で外に出たので少し後悔してる。
「やっぱり、この格好は目立つよね。危ないかなあ?」
こないだ父が言ってた密偵とかが目を付けるんじゃないかとか思ったが
「まあ、私なんかを捕まえたって仕方ないよね。もし出てきたら瞬間移動で逃げれば良いんだし」
ナータに警戒心はあまりない。
すでにナータの周りには数人の密偵が囲んでいたが、ナータは気付いていない。
20mほど先を歩く男が急に振り返って、彼女をじっと見つめ始めた。
流石のナータもいぶかしみ、立ち止まって振り向いて逃げ道を探す。
しかし後方10mにもナータを見つめる男が居た。
『囲まれてる?』
ナータは怖くなってきたが、100mほど向こうに数人の衛兵が、こちらに向かってきているのが見える。やった。もうすぐこちらに気付いてくれる。
ここで密偵の目論見に乗ってやれば、捕まえられるかも。
と父親が聞いたら卒倒しそうなことを考えるナータ。
ナータが正面をみるとこちらを見ていた男は居なくなっていた。後ろを見ると後ろの男も居なくなっていた。こうなると衛兵に見つかるとまずいのは自分である。
城に戻されるのは嫌だ。
瞬間移動はそばに人がいると思考が混じって出来ないから捕まるのは拙い。
こんなところで重力制御で浮かび上がるのも目立ってできない。
その時狭い路地が目に飛び込んで来た。
とりあえず、あそこでやり過ごしましょ。
密偵もどっかに行ったみたい。
ナータは二人が並んで歩けないような路地に飛び込んだ。
路地には誰もいない。
振り返ると衛兵が通り過ぎていく。
「ホッ」
私が外で遊んでいるのはバレなかった。
衛兵が離れたことを確認しながら、ナータが路地を出ようとした時だった。
後ろからいきなり口を塞がれた。
「ウグッ!」
ナータは強い力で路地に引きずられていく。
脇に倒れた露店の小父さんが見えた。
密偵が露店の小父さんと入れ替わっていた?いつの間に?
どんどん路地の奥に引きずられていくと、入り口に二人の男が現れた。
「自分から路地に入ってくるとは、バカな奴だぜ」
ナータは密偵の隠れたところへ入って行ったらしい。
「おい、縛り上げろ。暴れるなよ。暴れたら手足の一本は無くなると思え!」
リーダーらしき男は大型のナイフをナータに付きつけた。
彼女の口を塞いでる男も小さなナイフを見せる。
もう一人の男がロープを用意していた。
『これ以上拘束されたら逃げられなくなる』
ナータは逃げるにはどうしたら良いかを考える。
ナータは後頭部を口を塞いでる男の顔を思い切り打ち付けた。
彼女を掴まえてる力が緩む。
今だ!重力制御!
ナータの足が地面から離れる前に左手に強い痛みが。
左手の肘から先が地面に落ちる。
少し浮き上がった時に今度は腹に痛みが。
口を塞いでいた男がナータの腹にナイフを突き立てている。
「ギャアアア!」
なーやは痛みにこらえきれず叫んだ。
「痛いよ、助けて、クーヤ」
何とか密偵を振り落としたナータは、10mほどの高度に上がると消えた。
ナータの悲鳴を聞いて駆け付けた衛兵が見たものは、返り血で血塗れの密偵と落ちている左手だった。
******
〇闘刃姫寮 執務室
俺は朝からナオジから上がって来た、製鉄所の学習指導要領の見直し資料をうんうん言いながら見ていた。
視界の隅に何か赤黒いものが現れた。
それはドサっと音を立ててソファーの上に転がった。
え、子供!?
それをじっと見ていると血塗れの子供に見えた。
深い褐色の肌と白銀の髪の毛、ナータか?
机を飛び越えてナータらしき子供に向かう。
うつ伏せになった顔を上げる。やっぱりナータだ。
見ると左手の肘から先がない。
腹にナイフが刺さっている。
傷からは今もどくどくと血が流れている。
助けられるのか?
そうは思いつつも再生の異能を掛ける。
駄目だ。血が止まらない。
『ご主人様。ナータのケガが複雑で血が流れ過ぎています。治療を変わります。ご主人様はナータの従者契約の制約を説いてください』
俺はナータの制約を解いて、完全な従者とする。
血が止まっていく。さすがナビさん。
身体強化がナビさんの制御下に移ったので、治療速度が数倍に跳ね上がる。
それと同時に俺の魔力がすごい速度で吸い上げられる。
「誰か!蓄石を持ってきてくれ!」
食堂と従者通信で全員に呼びかける。
多分、従者のほとんどは近衛と警らに訓練に行っているが、何人かはこちらに残っているはずだ。
蓄石はゲートの向こうの作業部屋に置いてある。
寮に居ればすぐに取りに行けるはずだ。
暫くしてミヤが蓄石を持って来た。
「ご主人様、どうぞ」
俺は蓄石から魔力の供給を受ける。
今はナータの傷はほぼ塞がった。
『ご主人様、なったの血圧が下がりすぎです。魔力で血液を作っていますが、魔力で作った血は使用可能時間が短いので輸血が望ましいです』
「輸血!?誰の血液型が適合するんだ?」
『アオイの血液が一番適合します』
アオイは魔道具工場に居るはず。
俺はすぐにアオイに連絡する。
『アオイ、今どこにいる。執務室に至急来て欲しい』
『今、そちらに向かってる。10分待って!』
困った。着替えは用意しないと、この子の体も綺麗にしてやらないとだし、・・・ああ、もう。
ミヤに男の子の着替えやら、体を拭くとかちょっと抵抗があるよな。
こういう母系のことはマシロに頼めばいいんだけど、あいつは警らの訓練か・・。戻るのに15分は掛かるか?
「ミヤ、その子の服を脱がせられるか?」
「はい、それは可能ですが。代わりの服がありません」
そうだよ、日本で買うにせよ、彼女に選べって言うのは荷が重いよな。
とりあえず今の気温なら、裸にしても風邪は引かないだろ。
「今のままじゃあ、この部屋から出すこともできないよ。裸にしてシーツを掛けときゃ良いだろう」
「分かりました」
ミヤは妙に恥ずかしがることもなく、バケツを用意して、ナータの服を剥ぎ取りにかかる。
うん、胸が膨れてないか?
「ご主人様、この子、女です」
ミヤが呆れたように言う。
ええーっ、と驚いているとミヤが下の下着も剥ぎ取る。
「やっぱり付いてません」
もう間違いなくナータは女だ。
ミヤはすっぽんぽんになったナータを起こして、血を拭こうとするが倒れてくるのでうまくいかない。
「ご主人様、この子を支えてくれませんか。うまく拭けないんです」
仕方ない。
俺はナータの脇に手を入れて立たせる。
「そのままにしておいてください」
ミヤは冷静かつ素早くナータの汚れを拭き去っていく。
綺麗になったナータを汚れていない長椅子に寝かす。
ミヤがシーツを掛ける。
さてそろそろみんながここへ集まるころだ。
俺がナータの裸を見たのは不可抗力だと教えなければ・・・。
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次回はクーヤがファティマ王国に行きます。




