4-26 クーヤ対ラッソ
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いよいよ、試合の決着が付きます。
魔人対クーヤの試合も3勝2敗2分けで従者最後のヒイ対ボウの対戦になった。
矢合わせでは決着がつかず、的を射る試合に変更。
3本ずつを放った時点で29対29の同点、これから2本ずつのサドンデスに突入する。
〇玄武国 闘技場 転移161日目
「どうして2本ずつなのですか。1本ずつなら試合も早いのに」
貴賓室でラッソがクーヤに尋ねる。
「彼女らの腕なら、この距離では中心を外さないだろう」
「でもお互い3本目は真ん中を外しました」
「それは矢が悪いからだ。今使ってる戦争用の矢は量産品、品質も試合用に比べれば悪い。狙ったところから10cm20cmとずれてしまう。だからばらつきを抑えるために2本ずつだ」
それでもヒイが異能”狙撃”を使えば当たるのだろうが、直接の結果に結びつく異能は禁止だ。
「ではこれからの展開は?」
「良い矢を選ぶ目にかかってる。ボウの方がその目は良さそうだが・・・」
クーヤは日本製の良い矢を使わせ続けてきたことを後悔していた。
サドンデスでは先攻後攻が入れ替わる。
ヒイは矢の中から少しでも真っ直ぐ飛びそうな矢を探している。
矢竹が少しでも曲がってるもの、鏃が真っ直ぐついている物、羽根の取り付けが真っ直ぐで毛羽立っていないもの。
最初選んだ時に比べると少し難がある。どれを選べばいいのか迷ってしまう。
「あと1分」
審判が選ぶ時間が少なくなっていることを告げる。
これかこれ最後の2本で迷っている。
こっち!
選んだ矢を弓に番える。
お願い当たって。
放たれた矢は真っ直ぐ的に向かう。
さっきはここで曲がった。
矢は中心を少し逸れて的に刺さった。
「キンロウ、10点」
やった、ぎりぎり10点の円に入ってる。
次にあの選んだ残りを使えば、勝てるかもとヒイは思っていた。
しかし、その解りやすい所に置いた矢をボウが取った。
振り返ったボウが仮面の下で笑った気がした。
「残しておいたのにい」
ヒイが呟くがボウは相手にしない。
「ボウ、9点」
ボウの矢は10点の線に触れるかと言うくらいの9点だった。
「やった」
ヒイは次で9点取ればまず負けない。
もう10点が取れるような矢は残っていないから。
ヒイは次の矢を選ぶ、少なくても9点が取れる矢を。
最初の試合の時の誤差は10~20cmが多かった。
ならば15cmの誤差までが9点になる。
「あんた、もう勝った気でいるんか?」
「え?」
ヒイは初めて聞くボウの声に驚いた。
「そんなつもりはないけど」
「ワイは負けん」
「僕らが負けたら、魔人の世界になるんだよ」
「そんなことは知らん、私は勝って独立する」
声は若いと言うか少女だ。でも言葉は荒いし、魔人の味方だ。
ヒイは深く息を吸うと言った。
「僕も負けない」
ヒイは選んだ矢を持って、射撃位置に着いた。
集中して矢を放つ。
う、ズレが大きい。
そんなにズレるはずがない。
「キンロウ、8点」
バカな、・・・そんなはずは。
その時ヒイは頬をなぶる感触に気付く。
「風?」
「なんだあ、風に気が付かなかったのか。注意力散漫だぜ」
こいつか、こいつが話しかけて、注意を逸らしたのか。
「卑怯だぞ」
「ふん、なんとでも言え。お前の落ち度だ」
「フェ、フェ」
ヒイの眼に涙が溢れる。
ボウは風を計算に入れ、9点を取る。
「キンロウ、ボウともに18点で勝負は次の回に持ち越し」
また両者2射ずつの合計の勝負になる。
今回はボウの先行となり、また矢を選んだ。
姿勢も安定しており今回も9点だ。
ヒイの心は乱れていた。
まだ前回の失敗から立直っていなかった。
ぎりぎりまで少なくなってきた矢を、時間一杯選んでも自信が持てなかった。
集中できないまま矢は放たれた、
「あ、」
明らかにズレた。
戻って・・・無駄な願いだ。
審判の声が無情に響く。
「キンロウ、7点」
ヒイの心は壊れる寸前だ。
「こんな子供を出した奴が悪い」
チッと小さく舌打ちをして矢を放った。
「ボウ、9点」
「ボウ18点で、キンロウが10点を取っても逆転は不可能。よってボウの勝利」
審判の声が響く。
センセー、助けて。
深く心を締め付ける黒い想いにヒイは負けそうになる。
クーヤは慌ててヒイの元へ走った。
「センセー、ごめんなさい。負けちゃったよお」
ヒイはクーヤに抱き着いた。
「よく頑張って、最後まで試合を投げずにできたな。偉かったぞ」
クーヤは優しく頭を撫でる
いつの間にか他の従者も周りに集まっていた。
「大丈夫よ、ヒイ、ご主人様はきっと勝ってくれるよ」
ミヤがヒイを抱き寄せるとワッと声を出して泣いた。
ハイジが彼女の頬をなめて慰めていた。
「整備が始まったわ。戻りましょう」
マシロが皆を入場門に導いた。
クーヤは整備を続ける魔人たちを眺めていて、貴賓室には戻らなかった。
「クーヤさん、どうしたんですか?」
ラッソは声を掛けたが振り向いた顔に驚いた。
今までにない真剣な顔をしたクーヤがそこにいた。
「うん、俺が負ける訳にはいかなくなった」
真剣な顔を崩さずそう言った。
ラッソは確かに3勝3敗2分けで最後の試合で勝負が決まるが、クーヤさんはそこまで勝負にこだわっていなかったように思った。
「クーヤさんはそんなに勝って、異能を守りたいですか?」
「いや、今は異能より娘の心が大事だ」
「娘ですか?」
「彼女は今敗戦の責任に圧し潰されそうになっている」
「はあ、」
「だから、俺はお前に危なげなく勝たねばならない」
「それが良く解りません。確かに3勝3敗2分けで最後の試合に勝った方に、この試合全体の勝利が決定する。でもそれにあなたの今言ったことが関係するのですか?」
「当たり前だ。あの子の不安を解消せねばならん。それには俺が必死になって戦って勝つのではいかんのだ」
「はあ、」
もう何を言わんとしているのか分からないが、真剣に戦ってくれるならいいかと思うようになった。
クーヤは大きく息を吐いた。
「すまん、興奮していたようだ。ただ、君達を侮って、従者達を危険な目に合わせた自分が許せなかった」
先程まで訳の分からないことを言って興奮していたくせに、もう冷静に自分に反省しているこの少年は一体なんだろうか。ラッソは不思議なものを見る目でクーヤを見るのであった。
ただ単にヒイを泣かせてしまったために取り乱し、それを反省するただのおっさんに過ぎない。
ラッソにそれが分からないだけなのだ。
クーヤとラッソは木刀を持って、闘技場の中央に出た。
「クーヤさん、勝っても負けても、あなたには大切なお話があります」
「解った」
審判の説明を聞き、両者は開始線に立つ。
「始め!!」
両者は中段の構えのまま、ゆっくりと近付いていく。
ラッソの攻めをクーヤが受けて鍔ぜり合いの様相に。
ラッソが押し込もうとするがクーヤはビクともしない。
ラッソは、魔人が憑依した武芸者が、クーヤの従者に力で優っていたことで。力なら勝てると思っていた。しかし現実はラッソの全力でもクーヤは微動だにしない。
自分から仕掛けた鍔ぜり合いだったが、パッと離れる。
クーヤは静かに離れた間合いを詰めてくる。
初めてラッソは人間に恐怖した。いや、彼を人間と言って良いのか?
ラッソはわずかでも先手をクーヤに渡したくなかった。
強い一撃をあらゆる方向から打ち込むが、すげて受けられる。
一歩下がって上段に構えて、クーヤの脳天に振り下ろす。
やった、ラッソは瞬間そう思った。
しかし彼の斬ったクーヤはカスミの様に消え去り、自分の頭上にはクーヤの木刀が止まっていた。
「グッ!」
「まいった」
ラッソは小さく言った。
「勝者クーヤ!」
審判の声でこの長い試合は幕を閉じた。
真っ先にヒイがクーヤに飛び付いた。
「センセー、すごい!」
クーヤは、良かった、ヒイは敗戦を引きずっていないようだと思った。
抱き着く従者達を押し分けて、ラッソに言った。
「玄武国の王族と憑依された武芸者たちを解放してもらおうか」
「もちろんです。今、城にいた魔人たちは引き揚げさせました。武芸者たちも憑依は解除してケガも直しました」
「え、父ちゃんは?!」
ドーテが叫ぶ。
「え、どなたですか」
「俺と戦った武芸者だよ!」
ラッソはラミアに聞いた。
「はあ、武芸者たちは礼金を渡すとみんないなくなってました」
ラミアの言葉にドーテが叫ぶ。
「せめて、母ちゃんに会いに行けってんだ!」
ラッソは俺達と一緒に王城に行って、城門が解放され、すでに魔人がいないことを証明した。
城門付近は玄武王の軍隊がひしめいていた。
「最後にあなたに言っておくことがあります」
ラッソは去り際にクーヤを人気のない場所に呼んだ。
「ああ、何か言いたいことがあったんだっけ」
「あなたには魔王になって、魔人を率いて欲しい」
「はあ、何言ってんの」
クーヤは呆れる。
「返事は今じゃなくていいです。あなたは世界の王となるべき存在です、これからその問題にあたる機会があると思います。その時に考えてください」
ラッソは静かに去って行った。
「おーい、城に入って玄武王様に挨拶するぞう」
クーヤは従者の皆を引き連れて城門を潜ろうとした。
当然のように兵隊に止められた。
クーヤは面倒くさそうに言った。
「帝国相談役のクーヤだが、カーク殿を呼んでくれ」
前に来た時に相手をしてくれたエルフ族の指揮官を呼んでもらった。
暫くしてその男は現れた。
「オオ、相談役殿。貴殿の活躍で王族は解放されました。ありがとうございます」
「王に挨拶したい。天帝様にも報告せねばならんしな」
「は、了解いたしました」
俺はおうに挨拶に行くことになった。
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次話で4章を終わります。
クーヤを待っていた者は?




