4-25 ヒイ対ボウ
ご愛読、ありがとうございます。
アカネの決着とヒイの試合が始まります。
試合は進み、ライヤとマシロが敗れたことで3勝2敗1分けとなった。アカネの試合が始まったが押されている様だ。
〇 玄武国 闘技場 転移161日目
スピアは槍を握った左手を先端にバレリーナのように伸びる。
槍はアカネの胸に向かって高速で伸びていく。
完全にアカネは虚を突かれていた。
アカネはとっさに右手を体に寄せる。
槍の穂先が上がる。
アカネの片鎌槍の鎌の先端にスピアの槍の先端が当たる。
槍の軌道が逸れ、アカネの顔面に向かう。
アカネは首を傾げて避けようとする
ボッ!!
槍の穂先はウィッグを貫いた。
アカネのパーソナルカラーの茜色の髪が飛び散る。
片手での体を伸ばした突きは、簡単にその軌道を変えられたのだ。
「おのれ!」
奇襲に失敗したスピアは急いで槍を戻す。
一方アカネは少し姿勢が崩れているので態勢を立て直す。
攻撃態勢が取れたのはアカネの方が早かった。
一歩踏み込んでスピアの腹にめがけて槍を繰り出す。
かろうじて防御の姿勢を取ったスピアは、アカネの槍を左に流す。
アカネは止まらない。
穂先を流された勢いを利用して、石突での打撃に切り替える。
いきなり接近戦を仕掛けられたスピアも、槍の両端を使って接近戦に応じる。
数分この攻防が繰り返されたが、お互い決め手のないまま別れて間合いをとった。
アカネは考えていた。
さてどうする。
・・・何も思いつかない。
そうだ考えるのはマシロやアオイの仕事だ。
アタイはただ突っ込んで行くだけ。
「たあー!!」
アカネは気合を入れながら突進する。
反射神経に任せてコンビネーションを叩きこむ。
相手も同じように応戦する。
アタイの方が速い、俺の方が強い。
二人の想いが交錯する。
アカネの突きが相手の胸に!
スピアの突きがアカネの腹に!
避けられない!!
アタイの方が!
俺の方が!
二人が同じように後ろに跳ばされる。
二人は自分の力を槍に乗せて、同時に相手に有効打を与えた。
「相打ち!、両者引き分け」
審判は双方に有効打を認め引き分けとなった。
クーヤはまた飛び出してきてアカネを抱き起す。
「大丈夫か?」
「うん。イテテテ」
アカネは腹に手を置く。
「まあ、衝撃があれば結界が働くように服に仕掛けておいたから、そう酷いことにはなってないと思うけど」
本当は長袖のTシャツと矢何時に仕込む予定だったけど、暑いって断られたからな。服のあるところで良かったよ。
「うん、でも結構痛かった」
「そりゃ、どうしても作動までに時間がかかるから、表面のケガは仕方ない」
アカネは服をたくし上げてけがを見せた。
少し痣になってるが内臓までは届いていない。
俺は再生をかけて、ケガを直してやる。
「まあ、あいつに比べれば、どうってことないな」
スピアは薄い皮鎧しか付けてないから、倒れたまま唸っている。
担架が運ばれてきたので、そのまま連れていかれるみたいだ。
「なあ、あいつも治してやってくれないか?」
「良いけど。どうした?」
「いや、なんでか分からないけど、アタイが治してもいいんだぞ」
「分かったよ」
クーヤは迎えに来たマシロ達にアカネを預けて、スピアの元へ行った。
救護員をしている下級魔人に異能で治療したいと申し出ると簡単に許可された。
まだ唸ってるスピアの胸は陥没していた。
あばらが折れて危険な状態だった。
俺が再生を掛けると、穏やかな顔になり呼吸も静かになった。
「あなたの3勝2敗2分けですか。おや、何か嬉しそうですね」
貴賓室に戻った俺はラッソにそう声を掛けられた。
「ああ、センクウが優しい心を持っていることが嬉しいのさ」
ラッソは俺の方を真面目な顔をして覗き込んで来た。
「あなたは時々老成したような態度をとるときがあります。見た目の歳ではないような」
クーヤは、やばいなあ。俺が若返っていることは秘密だ。
「なんか失礼だなあ」
「あ。申し訳度座いません」
何とかごまかせたようだ。
「それはそうと的の用意とかまだなのか?」
クーヤは、次はヒイの試合だ。弓の試合だから的が用意されると思っていた。
しかし地面の整備はしてるが的は一向に用意されない。
「え。的ですか?」
ラッソはなんですか、それみたいな顔をする。
「いや、いや、弓の試合と言えば的にどれだけ正確に当てられるかじゃないのか?」
ラッソはキョトンとした顔をして言った。
「いえ、両側に分かれて矢を撃ちあって貰いますよ。的ですか・・・」
想定になかったみたいな顔をされたクーヤは、ここが日本でないことを痛感した。
クーヤはまったくもって、どういう展開な試合になるか想像もできなかった
「それって観客席に矢が飛び込まないか?」
「四方に結界を張れる人員を配置するので大丈夫です」
結局クーヤはヒイは心配だが見守ることにした。
ヒイは闘技場の中央に立った。
審判の話を聞いてから闘技場の端と端に分かれるようだ。
今貰った箙には10本の矢が入ってる。
矢の先端にはやわらかい錘が矢じりの代わりについている。
相手も出て来た。
小さい、ヒイよりは大きいがミヤと変わらない。
仮面から透き通るような金髪が溢れてる。
恐らく少女だろう。
弓は結構大きなものを使ってる。
しかし普通の弓だ。そんなに強いものは使えないだろう。
ヒイのコンパウンドボウは引き切った時の反動が緩くなるので、比較的強い弓が使える。
「金狼対ボウの試合を行う所定の位置について」
ヒイは会場の壁際に行く。
そこには10本の矢の入った箙が置かれ、矢が無くなった時には空の箙と交換できる。
空にならないと交換できないそれがルールだ。
「始め!」
審判が開始の合図を叫ぶ。
ヒイは矢を番えて、ボウめがけて放つ。
相手までの距離は40数m、ボウは余裕を持って避ける。
今度はボウが矢を放つ。
ヒイも余裕を持って避ける。
「誤差は10cmか」
ヒイが呟く。
矢の出来が悪い。
日本製の矢ばかりを使ってたから、こちら製の矢の性能を試したら悪すぎる。
速度の落ちが速すぎる。
「これじゃあ近付かないと避けられる」
ヒイの言葉を受け止めてくれる人はいない。
ヒイは走る。
相手の的にならないように速度方向を変えながら。
相手の矢が来る。
ヒイの動体視力はずば抜けている。
当たることは無い。
そうか、相手は追加できる矢がすぐそばにあるから、平気で当たらない矢を放ってくるんだ。
ここらからだったら・・・。
矢を番えると向こうから矢が飛んでくる。
矢を避けながらこちらも矢を放つ。
「え、弓で弾かれた!?」
ヒイが当たったと思った瞬間、ボウが弓をくるっと回すと、矢は明後日の方に飛んで行った。
コンパウンドボウを使ってるヒイには考えられないことだった。
コンパウンドボウは複雑な作りをしているので、乱暴に扱うとすぐに壊れてしまうのである。
『ねえ、センセー、父さんの弓に変えて良い?』
ヒイはちょっとイラついて従者通信を送って来た。
クーヤの次元収納庫にはヒイの父で英雄シュバルツの弓が入っている。
『駄目だよ。相手が弓を変えられないなら、不公平になるでしょ』
『そっかー、そうだよね』
近寄ったら自分が不利になることが解って、ヒイは距離を取って元の位置に戻った。
元の位置からいくら矢を放っても避けるか払われるかで、進展がない。
もちろんヒイの方も確実に避けてる。
「おい、これって勝負がつかないんじゃないか?」
クーヤはラッソのクレームを入れる。
「そうですね。困りましたね」
ラッソも困り顔だ。
「いやあ、うちの者にやらせた時は、すぐに勝負がついたんですけど。じゃあ、的当てをやりますか」
軽い、なんて軽さだ。
試合を止めて、ヒイに様子を聞いた。
とりあえずそこらに有った板に10cm~1mの同心円を描いた。
「真ん中が10点、あとは円が大きくなるごとに1点ずつ減る。これでどう?」
「良いですね。何本射るのですか?」
「3本くらいで良いんじゃないか」
的まで40m、矢は新しく鏃の付いた矢を使用。
まず20本くらい用意した矢から自分が良いと判断した矢を選ぶ。
先攻はボウとなった。
ボウは5分くらいかけて1本目の矢を選んだ。
ボウは矢を番え、弓を弾き絞った。
1射目は真ん中の丸に当たった。
「ボウ、10点」
次はヒイの番だ。
まず矢が真っ直ぐで、鏃や羽根が曲がっていないものを選ぶ。
『良く解んないよ』
ヒイが音を上げた。
彼女は普段日本製の矢を使ってる。
見なくても真っ直ぐ飛ぶ矢だ。
クーヤもそう言われても助言はできない。
試合でそれに参加するのは不正だ。
ヒイは良さそうなのを選ぶ。
ヒイは矢を番え、弓を弾き絞った。
1射目は真ん中の丸に当たった。
「キンロウ、10点」
余程緊張していたのだろう。
フーッと大きく息を吐いた。
またボウが矢を選ぶ
今度もボウは10点だった。
『どうしよう。真ん中に当たらなかったら』
ヒイはかなり追い詰められてるようだ。
『負けたって3勝3敗になるだけだ。自分を信じてやってみろ』
クーヤにはそれぐらいしかできなかった。
ヒイの精神は少しマシになったようだ。
流石のナビさんでも完全に落ち着かせるのは無理みたいだ。
ヒイは矢を選んで射る。
「キンロウ、10点」
ボウの番だ。
ボウはちょっとイラついた仕草をして矢を選んだ。
気に入るものがなかったみたいだ。
「ボウ、9点」
ボウが真ん中を外した。
矢が悪かったのだろう。
ヒイも選ぶのに苦労していた。
所詮、この矢は戦争用の物で試合用ではない。
その中でマシなものを選び使うしかなかった。
「キンロウ、9点」
やはり狙いがずれたようだ。
ここからは2本ずつのサドンデスになる。
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次回はヒイの決着とクーヤ対ラッソです。




