4-16 ラッソの計画
ご愛読、ありがとうございます。
クーヤがラッソと会います。
ラッソは玄武国の王城を占領したが、それは憑依体との整合性が極端に悪かったため精神に異常を来していたためであり、異常から復帰後の彼はそのことをどう処理するか悩んでいた。
〇玄武王城前 転移151日目
結局、俺が玄武国に来る羽目になってしまった。
ここは玄武国の王城、ラッソのいる大連から北へ350kmくらいのところだ。
アカネが日本から転移した場所だ。
理由としてはすでに巫女は城外に出ているため、王族のことや新しいことは分からない。
もし、魔人と戦いになりそうでも瞬間移動で逃げられるだろうと言うことだ。
まあ、そうなんだけどもうちょっと優しさが欲しいよね。
実際瞬間移動って言うのは制約が多い訳で、移動する場所に障害物があると重なる可能性がある。
空気や埃なんかだと押しのけられるので問題ないが、大きなものだと危ない。
ここへの移動もアカネが転移した時のポイント(移動場所)を持っていたのだが、人がいるとか荷物が置かれてるとか分からないのだ。
俺は飛行機で3時間半かけてここまで来たわけだが、これは仕方がないことじゃないだろうか。
なんかドーテの時も同じようなことを言っていたような気がする。
まあいいや、どうやって調査しようか?
郊外で飛行機を降りて、バイクで城の近くまで来て、今は徒歩だ。魔人に見つかりたくないからね。
今は城の正門前にいる。
正門前に広場があるのだが、そこには数百名の兵がいる。
魔人に追い出された兵かな。
なにせ、憑依した魔人には普通の兵器は効かないから、一般兵では対処ができないんだよ。
俺が兵隊に近付いていくと兵隊は槍を構えた。
「近寄るな!城は閉鎖されている!」
「俺は帝国相談役だ。天帝様の命によりこの城の調査に来た。責任者を出せ」
出来るだけ尊大に言ってやる。下っ端の兵にへりくだるのは下策だ。
「ちょっと、待ってください」
兵隊は近くに居た下士官を捕まえた。
「什長、相談役って人が来てるんですけど」
二人が何やら話し合った後、下士官が俺のところへ来た。
「相談役さんでしたか、何か証明するものを持っていますか。そうでないと責任者にちょっと合わせられないんですがねえ」
下士官は横柄な口を聞く。
俺は天帝様の押印のある命令書を見せる。
「天帝様の命令書だ。解るか?」
下士官の顔が青ざめた。
地方の下士官が解るぐらいには天帝様の押印ってすごいんだ。
まあ、大国の独裁者だもんな。
俺は下士官に案内され壁際に立つテントに案内された。
テントにいたのはここの司令官だ。
30前半の若い男だ。金髪で耳が横に長い・・・。
「エルフ?」
まあ、ダークエルフも居たんだからエルフも居るか。
「私は玄武国王家に連なるエルフ族のカークと言う。
あなたが帝国相談役のクーヤ殿か?」
「ご存じでしたか。今日は天帝様の命で魔人に襲われた玄武国の調査に参りました」
司令官がゴホンと咳ばらいをする。ちょっと雲行が怪しいかも。
「昨日巫女通信で天帝様に連絡をしたばかり、なのに天帝様の命令とはおかしいじゃないか」
「いえ、あなたは天都で飛行機が飛んだことを知らないのですか?私はそれに乗って来たのですよ」
「な、なに、本当の事だったのか!」
「分かっていただけましたか?」
赤い顔が青くなったりして忙しい。ここでの優位を取りたいみたいだ。
そうだと良い考えが浮かんだみたいな顔をする。
「知っての通り、四天王の管轄する王国では各王家の自治が認められておる。口出しはご遠慮願いたい」
「その王家が捕らえられたと伺いましたが?違いますか?」
「ウグッ!」
「カークさん、私は調査に協力いただきたいだけなのです。どうかお願いします」
どうもカークさんの様子がおかしい。ここまで俺を押さえる必要があるのだろうか?
「く、このまま・・王・・に復帰出・・い。マー・・いな・・ったと言・・に・・・」
何やら小声で呟いている。
俺も気が長い方じゃないのでここは押し切ろう。
「とにかく新しい情報があったら教えてもらえませんか?」
「特にない。昨日から動きはない」
俺はこれを聞くために長い話に付き合わされたのか。
「人質になっている王族は何人ですか?」
「王、王妃、王太子、王子が二人、王女が二人、それに側妃が二人だ。全員で9人か」
ちょっと多いな。一人で助け出せる人数じゃない。
「そうですか。では独自に調査するので失礼します」
「へ、それだけでよろしいのですか・・・」
なぜか気の抜けた顔をする。
「それだけですが何かありますでしょうか」
「いや、兵権を寄越せなんて言われるのかなと・・・」
それで警戒していたのか。そんなこと言う訳ないのに。
「失礼します」
俺はテントを出たが、何かあてがあるわけじゃない。
仕方ないので城の周りを歩いてみる。
空にいた兵隊の中に、魔人に追い出された兵隊が居た。
青龍国で見たような魔人も居たし、憑依している魔人も居たそうだ。
憑依した魔人は人間と見分けがつかないみたいだ。
さあ、困ったぞ。これ以上調べるなら城の中に潜入するしかない。
ふとミヤの顔が浮かぶ。
いかんいかん、ミヤにそんな危ないことをやらせられるか。
とりあえず、ナータに貰ったもう一つの異能、重力制御で城の壁を飛び越える。
城の中から見えないように気を使いながら、覗き込む。
ふーん、魔人は多いが、あまり警戒はしていないな。
ときどき魔人は見えるが目的があって動いているようには見えない。
アカネのマップで王族のいるところは目安は着くが、人質人数も多いし、俺一人じゃ無理だな。
さあて、これぐらいでいいかな。
天帝様には人質の奪還は難しいと言わざるを得ないな。
うちの娘達を使っても無理だ。
さあ、帰るか・・・。
あれ、なんだ。
南の方からなんか飛んでくる。
すぐに物陰に隠れた。
空飛ぶ絨毯・・・そうとしか表現できない。
子供の頃、アニメで見たアラビアンナイトに出て来た空飛ぶ絨毯だ。
乗っているのは貴族風の男とチャイナドレスのお嬢さんだ。
仕方ない、もう少し覗いているか。
男が絨毯を降りた!!
消えた!
俺は危険を感じ、ジャンプする。
俺が居たところに男が現れた。
何て奴だ。
俺は見つかっていたようだ。
俺は男から20mほど離れて、重力制御で浮かんでいる。
「クーヤさんですね?」
「お前は誰だ!」
「お忘れですか?ラッソですよ」
ラッソ!?また人間に憑依したと言うことか?
「顔が違うので分からないんだが」
「ああ、失礼しました。この姿では初めてでしたね」
本当にラッソらしい。
「この城を占領したのは俺が目当てか」
「もちろんです」
ラッソは大きく頷いた。
「それでどうするつもりだ」
「ここに拘束している玄武国の王族ですが、あなたがこちら条件を満たしてくれたら釈放と言うか、この王城も返します」
「俺の異能を寄越せと言うのならお断りだ」
俺の異能は天帝様から預かった物、彼女の許可なしに渡すわけにはいかない。
「いえいえ、私の要望は私達とあなた達の試合をここで受けていただくことです」
「試合だと、生き死にの戦いにはならないと言うことか」
「そう言うことです。木製の武器に限ります」
どういう意味があるのか。
「もし私達が勝ったら異能を下さい。私達が負けたら今代の天帝の御代では、魔人は信帝国を侵略しません」
「そう言うことか」
天帝様がそんな試合を許さないだろう。
「あなたには判断できないでしょう。ですが私達はあなたに要請をしたことを公表します」
「どういうことだ」
「天帝が貴族から突き上げを食らうと言うことですよ」
奴の言ってることが良く解らんが、天帝様に判断を仰ぐしかあるまい。
「判った。こちらで天帝様に判断する時間と俺の従者を運ぶ時間が必要だ」
「分かりました。10日間の時間を上げます。ただし返事は3日以内にお願いします。出来るでしょ」
「試合を断ったらどうなる」
これを聞いとかないとな。
「もちろん、王族を殺して、玄武国を侵略します」
「信帝国をなめているのか?」
「我々魔人に対抗できるのは、今のところファティマ王国とあなた達だけです」
ヨーロッパ大陸を席巻した実力を侮るなということか。
「試合のルールは?」
これも聞いとかないと。
「木製武器を持っての1対1、有効打を認められれば勝ちと言うことで」
「お前の方は大連で武芸者を集めてたってやつか?」
「本当は違う方に使うつもりだったんだけど、ちょうどいいので彼らを憑依させて使います」
「憑依させてって、そいつら大丈夫なのかよ」
「試合が終われば金を渡して解放します。安心してください」
うーん困った、こんな決断を俺に求められても、俺は軍人じゃねえし、技術者だ。
そりゃ、相手がかかってくれば戦ったけど・・・。
でも俺達しか戦えないんだよなあ。
それを天帝様におっかぶせるのもなあ。
「まあ、いいや。それじゃあ、もし受けるなら、詳しいことはその時に話し合おう」
「受けて頂かないとせっかく用意したことが無駄になるし、無辜の民がたくさん死ぬことになります」
「それを俺のせいにするなよ」
「まあ、良い返事をお待ちしますよ」
俺は寮に瞬間移動した。
******
〇 ラッソ視点
「ラッソ様流石です。見事にあの設定を変換されました」
後ろに現れたラミアが手放しで褒める。
「いや、さほど変えてないよ。しかし、クーヤが来てくれて助かった」
私としては憑依後のハイテンションでの失敗をどうするか迷っていたが、クーヤが居てくれたことで誤魔化せた。
「クーヤはどうするでしょう?」
「ここでの話が広がるのにあと一日は居るだろう。巫女通信でこちらの状況がはっきりしてくれば、天帝は貴族に突き上げられる。貴族を守ってくれないのかとね」
「天帝は貴族に屈すると?」
「まあ、そうなるかな」
「ではクーヤは?」
「彼は自分のせいで人が死ぬのに耐えられないだろう。必ず出てくる。わざわざ従者が死なないように考えたからね」
「では木製武器と言うのは、そのために」
「それより、武芸者たちを憑依させ、鍛えないとな」
「それは私が・・・」
「いや私がやる。君は大量の見物客が入るような闘技場を探してくれ」
「はい、かしこまりました」
ラミアはチャイナドレスの裾を腰までたくし上げ走って行った。
「やれやれ、慎みと言うものを教えんといかんな」
面白かったですか?何かで評価して頂けると参考になります。
天帝とクーヤの決断はいかに?




