089 試合、やります!
融はこの広大な空間を画面越しに観察した。ライトで照らされているけれど、どこか薄暗く感じる。
高い天井にはスプリンクラーらしき配管が並んでいる。
コンクリート製の四角い柱が何十本も並んでいる。柱と言っても、この地下空間を支えているわけではない。途中で途切れており、天井と接していない。
この障害物を利用して戦えということらしい。
攻撃を避けるための壁、矢を作るための材料、姿を隠すためにも使えそうだ。
この広い地下空間のどこかに、対戦相手のA045Gがいるはずなのだ。おそらく六機の小型ロボットを既に展開させているに違いなかった。矢を作らせて準備しているだろう。
考えている間に残りのカウントが一ケタになっていた。
「とにかく、敵の人型ロボットを見つけるか。
それを中心にして小型ロボットが展開しているはずだ。
この戦車は防御力が低い。そして僕はまだ操縦に慣れていない。
まずは無理に責めずに、距離を取って様子見かなぁ?」
0
ゼロの数字が表示された。
戦闘開始と同時に、小型ロボットの矢による攻撃が放たれた。
「うわぁあああ!」
とっさに融の勘が働いて直撃は避けられたけれど、車体左側面に矢がかすった。金属が削り取られるような音が車内に響く。
画面の端に写る小型ロボットを発見した。コンクリートの柱にへばりついて矢を作っているようだ。
融が乗った多脚戦車は、追撃を避けるために柱の影に隠れた。
「かすっただけなのに、すごい音がしたな。
まともにくらえば一発で行動不能になるかもしれない。
機動力優先させすぎでしょ。帝国製の多脚戦車なら、もっと防御力高いのに」
融は戦車の脚やアーム、機能に問題が無いかを確認し終えた。
「問題なし。まだまだ戦えそうだ」
融はこれまでの行動データからこの地下空間内の簡易地図を作製して、小型ロボットの位置を表示した。
「ここに配置されていたということは、本体の人型ロボットA045Gはこの辺りか?」
予想範囲はまだまだ広い。情報が少なすぎた。
「距離を取りつつ、ガトリング砲で攻撃してみよう。
無理せず、出来たら小型ロボットの数を減らせたらいいなってくらいの目標で」
柱の影から出ると、すぐに矢の攻撃が始まった。
「防御はダメでも、かなり速いぞ!これならかわせる」
柱の影を利用しながら、ジグザグに走行する。
「当たれ!」
ガトリング砲を小型ロボットの一体に狙いを定めて撃った。
コンクリートに次々と弾丸が当たり、柱が削れていく。
「結構威力も反動もあるな。
でも当たらなかった。距離が遠すぎるみたいだ。もっと近づいて撃たないとダメかな」
回り込むようにしながら前へと進んで行く。
地図上のデータが増え行く。
融は急停止して、後ろを振り返った。
(なんだかいやな予感がした!)
後ろの画面を見ると、小型ロボットの何機かが回り込んでいた。
「後ろを取られた!囲まれている!?
まずい、このままではやられる!」
戦車を反転させて、柱を背後にした。
多脚戦車の二本アームのガトリング砲を構える。
小型から射出された矢を次々と撃ち落として行く。
「正面に二機、ということは今人型の本体はおそらく後方にいるはず。挟撃される。このままここにとどまっているのはまずい」
なんとか撃ち落として防ぐのがやっとの状態なのに、融は前に出る選択をした。
自由連合系多脚戦車の機動力を利用して、一気に包囲網を抜ける。
ガトリング砲を使って防御に専念しているとはいえ、すべての攻撃を防ぎきれるわけではない。
致命傷にならないように最低限の防御を優先する。
画面の地図に敵小型ロボットの位置にマーカーをつけた。
そこから遠くに離れて逃げる。
「逃げる時に大分攻撃を受けたな。
前方のメインカメラが壊された。右アームのガトリング砲も矢に破壊されたみたいだ。映像で見て想像していたよりも無茶苦茶強いぞA045G。
でも、こっちだってただやられていたわけじゃない」
融が反撃の準備をしていた時、ランツ博士からの通信が入った。メインカメラが破壊され、何も映さなくなった正面の画面に彼の顔が表示された。
「かなりやられたみたいだね。もう戦えないだろう。
元々A045Gの方が有利な地形で、戦車の火器にも制限があった。それに操縦にも慣れていなかった。
メインカメラも潰されている。これ以上は危険だ、リタイアした方がいいと思うけど?」
「たかがメインカメラを潰されただけです。まだ戦えます」
融の返事を聞いたランツは、その声に勝機が残っていると思っている融の意思を感じ取った。
「わかった。そこまで言うのなら止めないよ。応援している」
ランツからの通信が切れた。
融はモニターの設定を変更する。
両側面の映像と後方の映像を合成して、前方の映像をでっち上げる。
「さあ、小型ロボットども。こっちに向かって来い」
融もただ逃げ惑っていたわけではない。
粘着性のあるワイヤーを張りながら逃げていたのだ。
小型ロボットの移動しそうな所に重点的に罠を仕掛けた。
「蜘蛛をモデルにデザインした兵器というだけのことはある!」
融が張った蜘蛛の巣に小型のロボットが四体も引っかかったのだ。移動用のワイヤーで、こんな攻撃をしてくるなんて予想していなかったのだろう。
「B05Hと同じように、まずは小型ロボットの数を減らす」
融は一つだけ残ったガトリング砲で一体ずつ小型ロボットを減らしていく。
「B05Hと違い、A045Gに切り札があることがもうわかっている」
融は蜘蛛の糸に捕まっていない二機の攻撃をかわしながら一気に距離を詰める。
粘着性のワイヤーで、A045Gの二本の腕を拘束した。
「勝ちはもらった!」
融はガトリング砲をA045Gに向けた。
そして、背後から飛んできた矢によって戦闘不能にされてしまった。
「なぜ負けたのかわからない」
試合がA045Gの勝利で終わった後、破壊された戦車の中から回収された融は、観戦していたランツ博士に尋ねてみた。
「原因はガトリング砲だね。
矢の攻撃を受けた時に、残った左アームのガトリング砲にもダメージがあったのだろう。
そのせいで狙いがわずかにずれていた。
先に撃破したと思っていた小型ロボット四機の内、一機が完全には破壊されていなかった。
君を背後から攻撃してきたのはそれだよ。
惜しかったけど、十分いい試合だったよ。
僕はこの戦闘データを利用して、更なる改良をするつもりだ。
おっと、忘れるところだった。
はい、これ。約束していたお礼だよ」
融は段ボール箱をランツから手渡された。




