088 ロボには乗ってみよ人には添うてみよ
「帝国の超能力者は子供のころから多脚戦車の操縦を習うんだってね?」
「子供の頃って、習ったのはついこの間ですよ。
あなたの言い方だと、赤ん坊の頃からおもちゃとして遊んでいるみたいじゃないですか。
乳母車じゃないんだから」
「ついこの間か。
それはちょうどよかった。君が操縦してくれないか?」
「はい?子供ですけど、僕はこれでも一応帝国の人間ですよ?
そちらで操縦者を用意できなかったのですか?」
「ロボット博覧会はただの展示会に過ぎないからね。
兵器武器の見本市、戦争を助長させる、死の商人の暗躍がどうこうと非難されて、軍が過剰に参加できなくなっている。
大丈夫、グローバルスタンダードだから問題ない。
基本的な操縦方法は一緒のはずさ。
そうだお礼もしよう!乗ってくれるだけでいいから」
「勝てなくてもいいというわけですか?」
「いや?そんなことは言わない。
乗ってくれた分のお礼をすると言っただけ」
「あなたが乗ればいいじゃないですか」
「研究者は客観的、論理的に思考しなければならない。
僕は自由連合式多脚戦車のことは一番詳しい人間の一人だという自覚もある。根本的な思想から細かな設計図まで頭の中に入っている。もし僕が帝国に亡命したら、この兵器の秘密は丸裸になることだろう。
もちろん操縦方法も知識として知っている。
でもね……」
ランツは立ち上がり、ハッチを開いて多脚戦車の操縦席に乗り込んだ。
いや、乗り込もうとして出来なかった。
彼の巨体が邪魔をしているのだ。
大きな腹がつかえ、でっぷりと脂ののった臀部がはみ出している。
「知識としては熟知しているけれど、一度たりとも乗ったことが無い。
論理の限界、机上の空論と笑ってくれてもかまわない。
それでも、僕は自分の頭の中にある物を形にしたい。
僕の想いでより良い物を作りたい。
ただ、それだけでいい」
ランツはスナック菓子(おまけカード付き)の袋をバリっと開けた。
袋を融に向けて差し出しす。
「君も食べる?」
「……頂きます」
融は勢いに流されて多脚戦車を操縦することになってしまった。
支給されたのは自由連合側の作ったプロテクターだ。
帝国軍が装備しているプロテクターよりも、学校で融たちが普段使っている訓練用プロテクターよりも、質の悪い物だった。
超能力者を守るあのプロテクターは自由連合側ではまだ再現できていない
アレの製造技術は帝国の重要な国家機密の一つとされている。
アレの製造には超能力者がかかわっているのではないかと噂されていた。
「着る時にも感じたけど、伸縮性があまりないな。動きにくい。着心地も悪い。吸湿性の問題か?」
融は腕を曲げ伸ばして、プロテクターの調子を試していた。
「ランツさんにさっき、ちょっとこのプロテクターのデータを見せてもらったけど、大丈夫なのかコレ?」
メガネ型情報端末に記録したデータを表示した。
帝国製のプロテクターに比べて、重たいのに弱い。
金属片や化学繊維で補強されているのに、帝国の物よりも脆い。銃弾を受けても着用者がケガしない帝国製とは違って、場所によっては骨が折れてしまう可能性がある。
「ないよりマシか。
防御力が低そうといえば、多脚戦車も大丈夫かな?」
多脚戦車の数値は見せてもらえそうになかったので、隙を見てデータの一部を盗ませてもらった。
そのデータと帝国の戦車のデータを比較する。
「数字で見ただけで、すべてがわかるほど僕は戦車に詳しくないから、あとは動かして体感してみるしかないかな?」
この多脚戦車は一人乗りだ。
帝国では、超能力者の移動手段の一つとして設計されているから、多人数乗りの戦車もあるけれど、搭乗型ロボット兵器として製作されている自由連合性は一人乗りが一般的だ。
六本の足と二本のアームにガトリング砲が装備されている。
それと、蜘蛛を元にデザインされているためか、粘着性の糸を射出できるようだ。
あくまでも展示用の多脚戦車だったため、さらに強い火力の兵器は装備していない。
帝国の多脚戦車よりも一回り小さいのに、中は少し広く感じた。
「車体は小さいのに、中が広いってことは装甲が薄いってことじゃないか!プロテクターがもろくて、装甲が薄い。
大丈夫かよ、本当に遊びで怪我したくないぞ」
乗った姿勢は、椅子のように座り込んでいる。
球体に触れて操縦するやり方は確かに同じだった。
起動すると、画面が表示された。前方の画面が一番大きく、左右、後方とだんだん小さくなっている。
「帝国みたいに全面に表示されるわけじゃないのか。小さい画面が四つ。前後左右ということか。
視野は狭いけど、なんとかなるかな」
機体の前後左右に設置されているカメラの映像を、そのまま画面に表示している。
「動きが軽い。
ちょっとコントローラーを動かしただけで、スイスイ曲がる。
速度もすぐに上がるし、ブレーキの効きも悪くない。
運動性能がこんなに違うものなのか」
前面にある画面に映像通信が入った。
「準備運動は終わったかしら?
そろそろ試合と行こうじゃないの?」
対戦相手の人型ロボットA045Gを持ってきたカジネナ博士だった。
「はい、わかりました」
融は出来ればガトリング砲の試射もやっておきたかったけれど、会場の一部であるここでそれができないのはわかっていた。
画面にナビが表示された。
「地図は表示されているかしら。
この地図の案内に従ってエレベーターまで向かって欲しいの。
もちろん戦車に乗ったままでいいわ。
試合会場はこの博覧会会場の地下よ。
お互いの機体が地下に降りたら、カウントを始める。
数字がゼロになったら戦闘開始よ。
細かいルールはなし。とにかく相手を行動不能にした方が勝ち。
では、いい勝負をしましょう」
カジネナ博士からの通信は切られた。
画面の端にナビと、30という数字が表示されている。
融はナビに従ってエレベーターまで向かった。
多脚戦車や重量のある物資を運搬するためのものらしい。
搭乗したまま乗り込むと、操作しないのに勝手に地下へと向かって下りはじめた。
がたんと音がしてエレベーターが止まり、鉄の扉が開いた。
画面の端の30という数字が電子音と共に1秒ごとに減っていく。
ピッ、ピッ、ピッ。
戦闘開始の時間が迫っていた。




