087 探偵ごっこにもう飽きた
「もう、あいつが犯人でいいんじゃないの?」
美涼の顔には、もう飽きたと書かれていた。
「あいつって誰だ?」
「ええと、たしかランツって言ったっけ?
肥った男の研究者。
自立型ロボットが嫌いみたいなことを言っていたじゃない。
動機は完璧ね。
きっと見た目通りの粘着質な性格だから、バラバラなんて陰湿な殺人方法を選んだのよ」
「犯行手段は?ランツ先生はカードキーを持っていない。
湖を渡れないし、城の中に入れない。
犯行は不可能よ」
晶の反論にも美涼はあっさりと答えた。
「別に、鍵を使って正面から入る必要ないでしょう。
銃があるのならわざわざ鍵を探さずとも、壊してしまえばいいじゃない。
斧を使うとか、窓を破ってもいいわ。
今回の事件の場合、ロボット博覧会の場内にはランツ先生お得意の多脚戦車がゴロゴロ展示されていた。
帝国の多脚戦車に慣れている私たちとは違って、彼は自由連合の人よ。
自由連合軍の蜘蛛を取り入れたデザインの多脚戦車なら、あれくらいの湖ならぴょんと軽々跳び越えられる。
城門も同じように、多脚戦車の運動性能があれば簡単よ。
城の中に入ってしまえば、ロボットの研究者なのだからバラバラにするのもあっという間に出来る。
そうなると、ホテルから会場までの移動手段も多脚戦車かもしれない。
オートでホテルまで迎えに来るようにあらかじめ設定しておくだけでいい。
帰りはその逆に設定し直せばいい」
「特に、反論する点は、思いつかない…………」
晶は何だかすごく悔しそうだ。認めたくないのかもしれない。
「やりたくないことはやらない。やらなければならないことは手短に、終わらせたまでだわ」
「波川美涼!あなたそれで推理勝負に勝利したつもりかしら。
いいえ、まだ決着はついていないのよ。
どちらの推理の方が正しいか。どちらが先に犯人を捕まえられるか。
そういう勝負だったはず。
いいかげんは許さないわ!」
真面目な性格の晶は、美涼の推理だけでは納得がいかないみたいだ。
「じゃあ、どうするっていうの?
警察に答え合わせに行ってみる?
ここは帝国じゃないの。月城、波川、転法輪。名家の権力は使えない。それとも、ダメ元で買収でもしてみる?
どうせ外国人の子供では捜査情報は教えてもらえないわ」
「本人に会いに行ってみれば?」
悩んでいる二人に融が提案してみた。
「本人って、ランツ先生のこと?」
「そう。
昨日、ランツとカジネナと美涼が約束していたよね?
二人に連絡して会えないか聞いてみたらどうかな。
実際に会って話してみれば何かわかるかもしれない。
部屋の中、三人だけで考えるよりも面白そうじゃない?」
融は美涼にも提案してみた。
「晶、早く二人に連絡なさい!
この波川美涼が帝国の超能力者を代表してお相手するとね!
果たし状だわ!」
探偵ごっこに飽きてきていた美涼は、元気よく立ちあがった。
ふっかーつ!
「私に命令するな!
まあ、会って確かめるのには賛成よ。
でも、二人とも事件があった後だから、そんな遊びに付き合ってくれるかしら?」
晶が二人に連絡を取ると、彼女の予想に反して二人とも賛成してくれた。
「非日常、事故、病気、事件、想定外の事態が起きた時は、出来るだけいつも通りの日常を過ごすように努力する」
ランツは博覧会の会場で、約束の準備をしていた。
「ぐっすり休んで、たっぷり食べる。
あとは好きなことにだけ頭を使う。僕の場合はロボットだね」
人が乗って操縦するロボットと、自立人型ロボットと、超能力者。
どれが一番強いのか?
ロボット博覧会の期間中に、実際に戦って決めるという約束だった。
事件が起きた後、暇を持て余していたのは晶だけではなかったということだ。
事件現場を見に行った後、ホテルには帰らずに会場の多脚戦車の展示場にすぐ来たらしい。
ロボット博覧会の会場の一部はロボット兵器の見本市みたいになっている。多脚戦車だって並べて展示されている。
きわどい格好をした美人のおねえさん達と一緒に写真が撮れる人気スポットになっていた。
ランツは美女たちには目もくれず、機械と向き合っている。
「ショッキングなことがあったら、独りで考えるよりも別のことをして気を紛らわせた方が精神衛生上いいでしょ?」
ランツがいじっている多脚戦車の周りには、彼が食べたと思しき食べ物の包み紙が散乱していた。本当にずっとここで作業していたらしい。
この分野においてランツは世界的権威らしく、多脚戦車の所有者である企業法人は快く彼に協力していた。
「大人が遊びに本気になるなんて……」
美涼は子供との約束、しかも単なる遊びに全力で勝利を狙うランツにあきれている。
「はっはっはっ!何を言っているんだい。
大人だから遊びに本気になるのだよ」
少年のような純粋な目をして大きな子供が笑っていた。
大人な女性であるカジネナにも晶は連絡していた。
「ちょっと準備があるから待っていてくれるかしら?」
さすが、大人の女。
歳をとっただけで大人になってしまったどっかの男とは違う。
美涼と晶はそう思っていた。
「なんて大人げない。子供相手の遊びに、本気で勝ちに来やがった」
ガールズの期待は裏切られた。
彼女の準備した対戦相手、人型ロボットはA045Gだった。
「お待たせしてごめんなさい。ちょっと借りてくるのに時間がかかちゃって」
大人な美女は微笑んだ。




