090 レアカード
「前座の露払いは終わったみたいね、真打登場かしら。ロボットごときに負けるとは超能力者の面汚しよ。
まあ、融なんて我々三人の中では一番のザコ。
ここからが本番なのよね」
美涼がプロテクターを付けて、一足先に地下空間に現れた。
先ほどの試合で、融に破壊された小型ロボット四体の補充と、腕のワイヤーを外すためにA045Gは一旦回収され、エレベーターで地上に戻されていた。直接ダメージを受けてはいないのですぐに戻ってくるだろう。
破壊されたコンクリートによる土煙を抑えるために、スプリンクラーで水がまかれている。
「まだ、水を撒いているのね。足元に水たまりができている。
屋内なのに雨が降っているみたいだわ。ふしぎ!
光の当て方次第で虹が架かりそうね」
美涼は、まだエレベーター内から降りていない。
A045Gを待っているのではなく、水で濡れたくないからだ。
「水ね……。
そうだわ、いいこと思いついちゃった」
美涼がまた悪巧みしている時の顔になった。
A045Gが修理を終えて、降りてきたのは美涼が降りてから三十分ほど過ぎてからだった。
放水はもう止まっている。床にはまだ水が残っていた。
「待たせてしまって、ごめんなさいね」
カジネナから美涼に通信が入った。
「いいえ。たいして待っていないわ。御気になさらないで」
(ありえない!)
三十分も待たされたというのに、まったく怒っていない美涼に融は強い不信感をいだいた。
(杏菜が待ち合わせに三分遅れただけで、不機嫌になるのに、三十分、十倍だよ。
妖し過ぎる。絶対、何かたくらんでいるな)
融の時と同じように、30のカウントダウンが開始された。
しかし、美涼はその場から動こうとしない。
「5、4、3、2、1、ゼロ!」
美涼がゼロと言った瞬間、戦闘は開始され、そして終了した。
地下空間は戦闘開始とともに氷の世界へと変わった。
ほんの僅かでも濡れていた場所は、その水が凍りついて固まっている。そうでない場所の霜が降りたように真っ白だ。空気中の水分までが凍ってしまったみたいになっていた。
人型ロボットA045Gやその小型ロボットも凍りついている。
足元の水たまりだったものは、氷になって地面とロボットを接着してしまっていた。ロボットたちは行動不能。
吐く息が真っ白になっていた。
「ふー、瞬殺、秒殺、完全勝利かしら?」
この氷の世界で美涼は笑顔で勝利を喜んでいた。
超能力者、波川美涼の圧倒的な力に、非超能力者のカジネナやランツ達は呆然としていた。
カメラで映像を見ていた自分たちまで氷漬けにさせてしまいそうなほどの能力だった。
しかし、帝国の超能力者である月城晶と転法輪融にはその勝利が偽りだとわかっていた。
融が晶の方へ視線を向けると、晶も融の方を見ていた。お互いに頷くと、晶がマイクに向かって結果をしゃべった。
「波川美涼の反則行為により、勝者A045G」
「なんでよー!」
美涼は地団駄を踏んで怒りを露わにしていた。
なんで美涼が反則負けなのかわかっていない地上の非超能力者の面々に、晶が説明を始めた。
「超能力者も人間です。限界があります。
さすがにあの広さの空間を一瞬で氷漬けにするのは無理です。
では、なぜ波川美涼にはそれができたのかといいますと、彼女が地下に降りてから戦闘開始まで約三十分の時間がありました。
その間に地下空間内に徐々に超能力を込めていったのだと推測されます。
目に見えない様に、わかりにくく巧妙にカモフラージュして、そして、戦闘開始とともにその力を爆発させる。
試合開始の合図の前に戦闘の準備をしていたフライング行為。
そういうわけで、波川美涼の反則負けです」
晶が説明していると、美涼が地下から戻ってきた。
「どう見ても私の完全勝利でしょうが!
反則負けって何!」
「お前わかっていて言っているだろう?」
融にそう言われて美涼は目を逸らした。
「な、なんのことかしら?」
「スタートの合図の前から能力を使っていたことよ。
私たちが気付かないとでも思ったの?」
「はぁ?あんたたちがばらしたの?
黙っていれば絶対にばれなかったのに!」
美涼の顔には勝つことがすべて、勝つためには何をしても良いと書いてあった。
「勝手に共犯者にしないでくれる?
まったく、帝国の恥だわ」
「なに言っているの。
私よりもそっちの負け犬の方でしょう」
「正々堂々戦わなかった時点で、あなたはその負け犬以下の存在なの。わかる?」
「ちょっと待って。負け犬を否定してくれ」
「犬以下の存在って何?猿?雉?」
「グチグチうるさいなぁ、もう。
とにかく、氷漬けにしてしまった地下空間をなんとかするわよ。あれじゃあ明日になっても解けない」
「ちょっと、私たち二人は戦闘で疲れているんですけど!?
特に私は能力使い過ぎて体がだるいの。
あんた一人でも大丈夫でしょ?
何にもやってないし、能力値だけは無駄に高いのだから」
「私はあくまでも手伝って、あ・げ・る、立場なのよ?
自分の後始末ぐらい自分でしなさい」
嫌がる美涼と、逃げだそうとしていた融を捕まえて晶はエレベーターに乗り込んだ。
凍った地下空間の氷を溶かしきる頃には日が暮れていた。
あと始末を終えて、三人ともぐったり
「美涼のせいで。あそこまでする必要ないだろ」
「反省なさい」
「私は悪くない」
ホテルに帰り、融はランツに渡された段ボール箱を開いた。
中身は箱いっぱいのスナック菓子(おまけカード付き)の袋と、ランツが食べて手に入れたおまけカードだった。
「何コレ?
お礼の品がこれって、子供扱いしないでほしいわね。
超能力者をバカにしているんじゃなくて?
融、抗議しに行きなさいよ」
「美涼、放っておきなさい。
融君の様子を見て。キラキラしたカードをたくさんもらって喜んでいるわ。男の子っていつまで経ってもお子様なのよ」
融が喜んでいた理由は、それらのカードが未来では骨董的な価値が付くことを知っていたからだけれど、現状では少し珍しいだけのカードでしかない。
彼女たちに説明しても理解されないだろう。
「そういえば、そもそも何しに行ったんだっけ?お菓子をもらいに行ったわけではなかったような」
「それは勿論、帝国の超能力者が最強であると証明しに……?
ん?なんか違う気がする」
融と美涼は当初の目的をきれいさっぱり忘れていた。
「美涼の推理が正しいのか証明するために、会いに行ったのでしょ。何で提案した本人が忘れるのよ」
晶に言われて融は思い出した。
「ランツ博士は多脚戦車に乗れないよ。太った体が大きすぎて乗れなかった。だから美涼の推理は間違いだ」
融はスナック菓子(おまけカード付き)の袋をバリっと開けて、美涼に差し出した。自分の推理を否定されてまた不機嫌になるかと思いきや、全然怒っていない。
疲れて怒る元気がないのか、それとも推理したこと自体忘れているのか。
「悪くないわ、うん」
袋に手を突っ込んでぱりぱりと食べ始めた。
晶も勝手に袋を開けて食べ始めた。
同じお嬢様でも、こっちは養子だ。こういったスナック菓子も食べたことがあるのだろう。
「今日、試合を見ていて思いついたのだけれど、犯人が地下から入った可能性はあるんじゃないかしら?
あの地下空間は、ロボット博覧会場の地下にあり、上にある建物、様々な場所とつながっている。
研究者ならそれを知っていたし、自由に利用できたはずだわ」
「ならランツだけではなく、カジネナ博士も怪しいわね」
美涼がジュースを飲みながら言った。
「動機は自分が作った物よりも優秀なロボットを排除するためかしら?」
晶はカジネナ博士が犯人だった場合を推理し始めた。
「待った。
あの地下空間は、AH‐040エミリヤがいた事件現場の城とはつながっていない。
だから晶の推理も間違いだ」
融は地下空間の設計図と、博覧会の会場の地図を重ねた物を晶の情報端末に送信した。
「いつの間にこんなデータを調べたの?」
晶はデータを見ながらつぶやいた。
「ちょっとね」
戦車のデータを盗む時に、ついでにコピーして来たとは言えなかったので、融は誤魔化した。




