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084 探偵ごっこ



「私たちの意見は聞かれないまま、協力する流れになっているわ」

「予定が数日伸びただけだと思えばそれでいいじゃないか」

エミリヤがいた事件現場の城からホテルへと帰ってきた。部屋に戻った美涼と融が、控えめな声でぼそぼそ話していると、晶が割り込んできた。

「実に面白い。

安心しなさい。事件はすぐに解決するわ。

この名探偵の手にかかればね!」

その手にはホテルの部屋に置かれていたらしいミステリーの古本が握られていた。前の宿泊客の忘れ物かもしれない。晶は読んだ本に影響を受けたようだ。


自称名探偵月城晶は融たちの部屋の中に、いつの間にかいた。

招き入れてはいないので、二人の後をこっそりついてきて、扉が閉まる前に中に入ったのだろう。


ポーズを決めている晶を美涼が冷めた目で見ている。

「ちょっとよろしいかしら?あんた、もしかしなくても暇なの?」

「え!」

「さっき偶然聞いたのだけれど、研究者たちの観光案内の仕事が無くなったのでしょ?

調査の協力しなくてはならないから、今後の予定が立てられない。

博覧会場の側からあまり離れないようにすること。

いつでも連絡がつながるようにすること。

夜はホテルに戻ること。

それらを守ってもらって、あとは自由行動ってことになってしまったから、月城結梨亜の手伝いもしなくてよくなった。

だからあなた、暇なのよね?退屈を持てあましているんでしょ」


「……」

「おやおや?正解みたいね。目の前のお馬鹿さんよりも、私の方がよっぽど名探偵に向いているんじゃないの?」

「……そんなの盗み聞きをしただけで、推理でも何でもないわ。探偵というよりも怪盗、いいえ怪人よ!」

「なんですって!?」

「勧善懲悪、必ず見破られて逮捕されればいいわ」

「私を犯人扱いするつもり?

それなら言わせてもらうけど、名探偵を名乗るやつが一番妖しいのよ。

それに月城ってだけで、もう怪しすぎる。

昔から政治の世界で暗躍してきた一族なのだから。


あんたは一人部屋。

昨夜のアリバイが無いわ。

深夜皆が寝静まった頃にホテルを抜け出して、会場に行き、エミリヤを殺害したのよ。

なんて惨い。これが人間のやることかしら!」


未来を歴史で知っている融は美涼の妄想に同意した。

「確かに、一理あるかもしれない」

(裏切り者ならやりかねない)



「ないわよ!」

そんな無茶苦茶な迷推理で犯人にされてはたまらないと、晶は否定する。


「それともう1つ、複数犯の可能性もあるわ。

深夜ホテルを抜け出したのは月城姉妹。

二人で協力すれば、バラバラに解体するのもあっという間でしょう。

違いますか?

いとも容易く残酷なことを平然とやってのける。あんたの血はなに色なの」

美涼の妄想はさらに暴走していく。


「そんなことを言うぐらいなら証拠は?証拠はあるんでしょうね!」

晶は晶で、このタイミングを待っていたかのようだった。

犯人扱いされている自分に酔っている。

こんなセリフ言ってみたかった、という願いが叶った喜びが犯人役の演技で隠し切れていない。笑みがこぼれそうになっていた。


「もう、そんなこと言う時点で犯人確定よ。

断崖絶壁に追いつめられた犯人そのもの。往生際が悪いわよ。

あなたに残された選択肢は、その断崖絶壁から飛び降りるか、洗いざらい罪の告白をしてしまうか。それだけしか残されていないの」

ビシッと晶を指さした。

これから犯人の動機が告白されるしかなさそうだ。

聞いてもいないことまで、わかりやすく順序立てて説明してくれるだろうと予感させる。

その犯行動機を聞けば視聴者も犯人に同情的になり、ともに涙を流すのだ。



「待った!

月城晶には動機が無いじゃないか。

たまたま、結梨亜の手伝いで来ただけだから。

それとも計画性のない衝動的な犯行なのか?」


「仕事をサボりたかったんじゃないの?」

融に反論されて、美涼はどうでもいいとばかりに言い返した。

彼女にとって、真実よりも結論ありきで犯人を決めている。

自分が気に入らないやつが犯人なのだ。


「異議あり!

現に、こうして暇を持て余して困っている。

学校では常にだれかが側にいるから、一人でいる状況に慣れていなくて、どうしたらいいかわからずに困っているのだ。

むしろ、事件は晶にとって損でしかない」


「なるほど。でも、アリバイが無いじゃない。怪しい容疑者の一人よ」


「アリバイが無くても、動機と手段が無い。

晶は湖の城のカードキーを持っていない。それじゃあ犯行現場に入れない。移動手段のバスは深夜運行していない。歩いて行けないこともないけれど、目撃される危険性が高まる。

そうまでしてエミリヤを壊さなければならない動機もないだろう?

それに、アリバイが無いのは他の研究者たちも同じだ」


「じゃあ誰が犯人だって言うの」

融にいちいち否定されて、美涼はムッとしている。


「犯人探しは、それこそ警察や保険調査員の仕事だ。彼らに任せておけばいいさ。僕らには関係ないね。

それよりも博覧会で見に行きたい物が…」


犯人役も面白かったけれど、やっぱり探偵役をやってみたくて仕方が無い晶が復活した。

「いいえ、名探偵の出番なのよ。

事件を解決し、幸せな結末に導くのが名探偵の仕事なの」


「ハッ!あんたに解決できるぐらいなら、私がやった方が早いわ。迷探偵さん」

美涼は探偵ごっこに興味は無い。

でも、晶にぎゃふんと言わせてやりたくなった。


「じゃあ、どちらの推理の方が正しいか。どちらが先に犯人を捕まえられるか。勝負しましょう!」



晶が探偵宣言して事件の捜査を開始した。



「事件は必ず解決して見せる。月城の名にかけて!」

「真実はいつもひとつ!脳細胞がトップギアだわ」



(これじゃあ迷宮入りだな)

二人のお嬢様にたいして、バカなのですかと毒舌を言いたくなった。眼鏡の位置を指で直してため息をついた。



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