077 迷子同士遭遇
「なんであんたがいるのよ」
万国ロボット博覧会場内。
人混みの中ぶつかった人物は、お互いによく知っている人物だった。お互いによそ見をしながら歩いていて、ぶつかった瞬間はよそ見をしていてすみませんと謝ったのに、相手が誰なのかを認識してから空気が変わった。
お互いにそう呟いてから、波川美涼がまず答えた。
「私の勝手でしょ。あんたなんかに教えてやる義理は無いわ」
美涼がぶつかった相手は月城晶だった。
「私は教えてあげる。別にやましいことなんて無いから。家の用事よ。そういう意味じゃ仕事としてここにいるの。
あなたは遊びに来たのでしょ?暇そうだものね。
あなたのお兄様は波川家の次期当主として、いくつか仕事を任されていろいろとお忙しそうにしていらっしゃるみたいだけれど、少しはお手伝いでもしてあげたらどうなの?血のつながった家族なんだから」
「うるさい、だまれ、うるさい!
うちのバカ兄貴のことをあんたなんかに口出しされたくないわ。兄弟姉妹の仲がいい月城家の人間からは特にね」
美涼の言葉は兄弟で後継者争いをする宿命にある月城家への嫌味である。
額と額がぶつかり合う距離でにらみ合っている。
普段学校では知り合いの目もあり、感情を抑えているのだけれど、不意に出会ってしまったのもだから抑えが利かなくなっていた。
互いの超能力の力も漏れ出している。
熱気と冷気がぶつかり合い、辺りの空気が歪んで見える。
人混みは彼女たち二人を避けるように流れ、大変目立っていた。
だから、こんなに早く発見できたのだ。
「やっと見つけた。だからはぐれない様に気をつけてって注意しておいたのに、入場早々一人で突っ走って、迷子になるなんて。
手をつないでおいた方がよかったかな?」
美涼を探し回っていた融の出現で、殴り合いでも始まりそうだった二人の表情が変わった。
波川美涼の表情は恥じらいで赤くなり、月城晶の顔がニヤニヤと嫌らしい笑顔になった。
「ふ~ん、いいこと聞いちゃった。
迷子になって慌てていたからよそ見して私にぶつかったのね。
外国で心細くなったのかしら?
転法輪君がここにいるということは、いつもの五人で来たの?
もう迷わない様にリードでも付けてもらえば?」
にらみ合いから一転、美涼は一方的にからかわれる展開になってしまった。
「私が迷子になったんじゃないわ、あれが遅れたから迷子になったのよ。迷子を捜してあげていたのは私の方」
「あなた一人で?数が少ない方がはぐれたってことになるんじゃないかしら?」
「二人で来たのだから、数は同じよ」
「それは、二人きりで来たということ?あんたたち付き合っているの?」
「馬鹿なの?ありえない。あなたの目は節穴なのね」
「はぁあ?」
「なによ!」
表に出ろ、望むところだ、となってまたケンカが始まりそういなっている。
なぜ月城晶がこの場にいるのか?
途中から混ざった融には会話の内容も状況もさっぱり理解できない。警備員が集まって面倒なことになる前に逃げる算段を考えていると、さらに面倒な人物を人混みの中に発見した。
会うのは卒業式以来となる。
向こうも融を見つけて驚いているみたいだ。
月城結梨亜が立っていた。
「ああ、よかった。
妹の晶さん、見つかったようですね。
人混みではぐれてしまって、とても心配していたのですよ」
結梨亜の背後から現れた男は、固まっていた彼女の肩にポンと手を置いて親しげに見える。
大柄なその男はスーツ姿だけれど一般人ではない風格をしている。鍛えられた体と隙の無い目つき、黒い肌に短い金髪。短く刈り上げられた清潔感のある髪形をしていなければ、ヤクザかマフィアにしか見えなかった。
「彼女たちは知り合いみたいですけど、いったい誰ですか?」
「ええと、彼女は波川美涼、彼は転法輪融。
私がこの春卒業した学校の後輩で、晶とは同学年になります」
「なみかわ、てんほうりん……」
結梨亜が自分の落ち着きを取り戻しながら答えると、男は融たちの名字をつぶやき少し考えてからこういった。
「ここで会ったのも何かの運命、折角ですから一緒に昼食を食べませんか?」
融には別に断る理由が無い。
美涼の意見を聞かずに了承した。
第三者が現れてから美涼も大人しくなったけれど、嫌そうな表情を隠し切れていなかった。
「向こうの展示を見に行っていた研究者たちもそろそろ戻ってくるだろう。
彼らとも連絡を取って、合流しよう」
月城結梨亜には、その知り合いらしい大柄な男以外にも連れがいるみたいだ。
「今、向こうから連絡がありました。
合流するよりもまっすぐ向かった方が近いから、先に行って待っているそうです」
「現地集合か。
僕のわがままで二人を誘ってしまったけれど、大丈夫かな?
事前に予約してあるのだろ?」
「個室をまるごと貸し切ってありますから問題ありません。
お気遣いありがとうございます」
結梨亜の丁寧な受け答えから判断して、大柄な男はそれなりの立場の人間らしい。
「それじゃあ、行こうか。美涼ちゃん、融君」
そう言うと男が歩きだし、人混みが避ける。
背が高くて、彼を目印にしてはぐれないよう付いて歩けば、迷うこともなさそうだ。男は歩くスピードを緩め、のんびりと歩いている。時々後ろを振り返り子供たちがちゃんと付いてきているのか確認していた。
「あんたの言っていた仕事って、あの男を案内する義姉の手伝いなのね。
月城家は政治にうるさいから、外交上の接待かしら?
家の仕事を覚える義姉の手伝いといったところのようね」
側を歩く晶と融にしか届かない声で美涼がつぶやいた。
「迷子になって心細いとか私に向かって言っていたけど、自分のことだったのね。
手伝うつもりが迷子になった上に、客にまで探させるなんて。
それでよくもまあ偉そうに私に説教しようなんて考えたものね。
せめて義姉の仕事の邪魔にならない様にしなさいよ」
男や結梨亜がいる前で怒れない晶は、店に着くまで一方的に美涼にいじられ続けた。
その挑発のせいで、融まで晶ににらまれた。
(なんで!)




