076 ラブコメ阻止
「あーもう!何で負けたのよ!」
美涼はシートに座ったままドンドンと足を踏み鳴らした。
美涼が応援していたロボットB05Hが負けてしまったからである。
前からこうしたロボット同士の戦いに興味があったわけではない。
自分の国のロボットだから応援していただけなのだ。
B05Hは帝国の企業が製作した人型ロボットで、それを倒したA045Gは自由連合企業の製作したロボットだ。
単なる親善試合ではなく、政治的軍事的要素も絡んでいる意味のある一戦だとも解釈できる。
この時代の戦争はロボットとロボットの戦いが主だ。
帝国の場合は超能力者も戦場に出るけれど、数でいえばロボット兵器の方が多い。
となれば、技術開発力、工業力の強さこそが国の強さに直結するとの見方もできる。
また、そこで比較しなければ国家の戦力が比較できない。
超能力者という人間の才能を戦力とみなしているのは帝国だけだからである。
美涼は政治や軍事的代理戦争の敗北に怒っているのではない。
もっと単純に、自分が応援してやったのに負けたことで腹を立てているのだ。
「人工知能の差だね」
融が機内のシートに備え付けられている画面を操作しながら言った。
「はぁああ?」
美涼が眉間にしわを寄せながらにらみを利かせている。
優しいお嬢様にしか見えないその顔、その声が台無しになっている。
「大型の人型ロボットB05Hと、キラキラした人型ロボットA045Gの戦力差はほとんど無かった。
いや、B05Hの方が単純な性能は上だった。
B05Hの敗因は防御に徹しすぎた姿勢だね。
たしかに、A045Gの小型射出ロボットの攻撃は強力なものだったけれど、それはB05Hにとって一撃必殺とまでの破壊力は持っていなかった。
おそらく、B05Hの人工知能は帝国で製造された他の人型ロボットのものを元にして作られたんじゃないかな?
平均的な性能の人型ロボットにとって矢の攻撃は致命的なダメージを与えることができた。B05Hの人工知能もそう判断したんだ。だから攻撃よりも防御を優先させた。後手後手に回って追いつめられてから攻撃させられたんだ
始めからある程度のダメージを受ける覚悟で捨て身でかかれば勝てた可能性が高いと思う」
「身体と心が噛み合っていなかったから負けた、ということかしら?」
「そう。最高の機体に新米のパイロットを乗せちゃった感じ。
その点相手のA045Gの人工知能の方が優れていた。
六機の小型ロボットを上手く制御していたし、最後まで切り札を隠せていた」
「ロボットの強さは、人工知能が優れているかどうかだとするのなら、私たちの国は余所と比べて遅れていて、劣っているのかしら?」
「劣ってなんかない。
今回見に行くこの博覧会の展示の目玉は帝国の人工知能ロボットだ。
他の国もこのロボットを見るために来ていると言っても過言ではないほどなんだよ」
融は自分の情報端末のデータを美涼が座っているシートの画面に送った。
女性型の華やかなロボットの画像が表示されている。
その人型ロボットの名前はAH‐040。
同じ人型とは言ってもA045GやB05Hとは違い人の形に近い人形なのではなく、人間と同じ見た目をしている。
愛称はエミリヤ。
肌も髪も真っ白、瞳の色は赤で宝石のような輝きがある。人間との区別をつけるためにわざとそうさせているとの噂もある。
彫刻家がデザインした顔、体はまさに芸術品だ。
でも、AH‐040エミリヤが注目されている最大のポイントはその人工知能にある。
人間と同じ心を持つというのだ。
プログラムの文字列では表しきれない複雑な感情。人なら生まれながらに持ち合わせている魂。
そういった何かを持つ初めての人工知能。
「こころ?何それ?すごいの?」
美涼が胡散臭い物を見る顔になっている。
画像を見る限り人間のモデルがSFめいた格好の仮装をしているようにしか見えない。優れた機械っぽく見えないのだ。
さらに、心などという不確かなものがあると説明されても納得しにくいと思う。
「僕も実物を見たわけじゃないけれど、実際に会って見たらその凄さがわかると書かれているよ」
春休み、融はロボット博覧会の見学向かっていた。
このイベントを知ったのは、ロボット部の先輩たちに聞いたからだ。
開催地はイアリ国。
帝国でも自由連合でもない中立国。
どちらにも属さず、距離的にも中間に位置する島国で、海の物流の中間地点でもある。
ずぐれた造船技術、金属加工技術を持つ工業国家で、ロボット博覧会を開催するのにふさわしい国だ。
船旅なら何日も海の上で過ごさなければならないけれど、飛行機を使えばあっという間だ。
融は放任主義というか、かかわり合いになりたくないと思われている父親に一応許可をとって旅行に出発した。戦争が始まっていないとはいえ海外旅行だ。無断で外出して、何かあってはいけない。
これは一人旅。
その予定だったのに、彼女は付いて来た。
「なんで自家用機じゃないの?他の客と一緒だなんて、面倒に思わない?」
飛行機の最高級席にゆったりと慣れた様子で美涼は座っている。
人間の客室乗務員が接客を担当していることからもこのシートが特別なものだとわかる。
もっと安い航空チケットで行くつもりだったのに、彼女が絶対にこっちにすべきだと言ってきかなかった。
客室乗務員を顎で使うその姿を見れば、確かにこの席でなければ美涼は納得しなかったことだろう。
一人で行くつもりだったのに、予約の操作を間違えてチケットが二枚手に入った。
それは偶然である。
「じゃあ、鏡子と行こうかな?」
相手の予定を確認するまでもなくスケジュールに空きがあり、融の誘いを断ることが無い。
融は春休み前に、いつもの五人で集まっている時に誘おうとした。
「じゃあ、私が行くわ!」
美涼は人の嫌がることを率先してやる子である。
別に融と旅行に行きたいわけでも、ロボットに興味があるわけでも、海外旅行をしたいわけでもない。
この旅行で鏡子とのラブコメ展開が起こる可能性を阻止したいだけなのだ。自分にそういうことがいっさい無いから嫉妬している。
相合傘?何それ面白いの?
どちらも中途半端に濡れてしまうなんて、非効率的じゃない?
雨の日に自分一人だけ傘が無いのが我慢ならない。みんなずぶ濡れになってしまえばいいのに!
「何よ、嫌だっていうの!?」
怒れる美涼に強く言えなかった鏡子は、泣く泣く諦めるしかなかった。




