075 謎のはじまり
引き分けなどあり得ない。
どちらか一方が完全に動けなくなるまでこの戦いは続く。
鉄筋コンクリートの廃ビルが今回の戦場に選ばれた。
戦うために生まれた二つの存在。
それ以外の影は無く、この戦闘を邪魔する者はなにもいない。
勝敗は複数台並べられたカメラによって中継される。
ただの見世物だ。
この戦いで賭けられて失うものなど無い。
せいぜいプライドくらいのものだろう。
これは遊びだ。
真剣勝負といいながら、ただ楽しむために戦わせるのだ。
一応はそういうことになっている。
万国ロボット博覧会。
これから行われるロボット同士の対決はその開会のデモンストレーションとなっている。
戦場に仕掛けられた無数のカメラ映像は全世界に配信される。
一方は帝国、もう一方は自由連合代表のロボットだ。
技術力や工業力を比較する代理戦争という見方をすれば、この勝敗の結末で失うものは国家の威信となるのだろうか?
B05H。
一体のロボットの呼称である。
この大会規定で決まられている限界ギリギリで作られたロボットだ。
全長、重量、モーター、バッテリー、装甲。
ルール上問題の無い所まで攻撃力と防御力を高められるだけ高めてある。スペックが最高ならば最強、という子供の落書きを抜き出したようなロボットだ。
見た目、デザインなんてものは気にせずに、強さだけにこだわったのに、むき出しのフレームがかえってそのシンプルな強さを表していた。
その対戦相手のロボットがA045Gだ。
人型ロボットの中でも飛びぬけて大きいB05Hに比べると、A045Gは平均的なサイズなのに小柄で頼りなく見える。
特徴は、背中に装着されている六つの箱のような物体だろう。
高級車のように塗装されているロボットA045Gは、これから行われるロボット同士のぶつかり合いで傷だらけになったら目立ちそうだ。そんな心配が浮かんで来るほど豪華絢爛なデザインになっている。
戦闘開始の合図が為された。
B05Hの戦い方に細かい駆け引きのような物はほとんど無い。先手を取り、その優れた性能を生かして、まっすぐ敵に突っ込む。
敵、A045Gはすぐ下の階に立っていた。
敵の位置を確認すると最短経路を割り出し、真正面から斬りかかった。
B05Hのようなロボットでなければ、このやり方は避けただろう。
なぜなら、A045Gが装着していた箱が無くなっていたからだ。
B05Hがただ一つの武器、ぶ厚さと重さがそのまま攻撃になる凶暴な凶器、金属の塊のような斧を振り下ろそうとした動きは、その箱の中身によって妨害された。
A045Gが開始早々に解き放っていた箱の中身は、六体の小型ロボットである。
小型とは言え六体ものロボットを外してしまうと、大型に比べてA045Gは、さらに小さく頼りなさげに見える。でも、それでよいのだ。これからA045Gの主な役割は、分離した小型ロボットたちの指揮なのだから。
小型ロボットは、B05Hを囲むようにしてズラリと配置されていた。
小型ロボットの特徴は、矢を射出する独特の攻撃方法にある。
小型ロボットには、もともと準備してある矢は無い。
小型は廃ビルのコンクリートを砕き圧縮して形を整える。それをさらに接着剤で固めて矢のような形の武器を作り上げる。
それをいくつも作り上げ、保持してA045Gの指示に従って打ち出すのだ。最大の利点は弾切れが無いことだろう。家やビルのコンクリート、自然の岩石、金属片などなんでも砕いて固め、それを矢にするのだ。時間はかかるが、無くなったらまた作ればいくらでも攻撃できる。
斧を振りかぶっていた不安定な姿勢のB05Hは横から打ち出されたコンクリートの矢に邪魔されて、攻撃を外した。
前後左右から打ち出される矢はまともに食らい続ければ、頑丈なB05Hといえども脅威になる。
金属の斧を盾にし、それでも足りない時は空いている自分の鋼鉄のアームで弾いた。
一度コンクリートの壁の影に隠れて体勢を立て直す。
B05Hの人工知能は先ほどの戦いを分析する。
ただ一方的にやられていたわけではないのだ。
A045Gの守りが最も堅いのは、メインの人型の個体を狙った時だ。六機の小型ロボットの攻撃を受けることになる。
B05Hは戦闘の方針を変更する。
目標変更。小型ロボットの内の一体を狙う。
A045Gの周りに配置されたロボットたちは、その配置から離れることができない。陣形を崩せば、人型の本体が危険になるからだ。
しかし、小型同士は基本的に守り合えない。人型中心の陣形では、互いをカバーしきれないはずだ。
B05Hはまず小型の数を減らすことに狙いを変えたのだ。
一本ずつ手足をもいでいくように、徐々に追い詰めて行こうと考えたのだ。
コンクリートの壁面を突き破り、小型ロボットに襲いかかった。破片が撒き散らされ、土煙が舞い上がる。
向こうも狙いがわかったのだろうけれど、陣形を崩すことはできない。その瞬間、B05Hが斬りかかってくることはわかっている。
対策をとれない内に、まず一体目の小型ロボットが撃破されてしまった。
残された五体の小型ロボットは、攻撃を続けている。
二体目が撃破されたのは、A045Gが陣形の立て直しを指示した時だった。その乱れを狙われた。
B05Hが壁を蹴った。
天井付近に配置していた小型ロボットが斧でぶち壊された。
一体、また一体と小型を潰し戦力を削ぐB05Hの作戦は成功していた。
三つ潰し、攻撃力が半減する。
B05Hの人工知能は狙いを人型ロボットに戻す。
B05Hの前進を、矢の射出だけでは止めることができない。
斧の攻撃がとどめに見えた時、小型ロボットの一体がA045Gを庇った。
自分からB05Hへぶつかっていったのだ。
B05Hにあっさり破壊され、これで小型のロボットも残り二体。
観客たちはこれで勝負あったと思った。
しかし、B05Hの動きが変だ。身体に何か付着している。
小型ロボットがやられた瞬間、機体の体内から接着剤が撒き散らされたのだ。
はじけた接着剤に矢を作っていたコンクリート片も一緒にくっ付いている。足が床に貼り付けられているだけでなく、破片の重さもあって身動きが取れない。
そんな絶体絶命のB05Hに、残された二台の小型はありったけの攻撃を重ねた。一斉掃射で土煙が舞い上がった。
煙が晴れて、B05Hがその姿を現した。
矢を全身に受けてフレームから装甲まで矢が刺さり、穴があいてボロボロになっている。
観客には立ち上がり拍手をする者までいた。
「まだよ!」
観客の一人、画面の向こう側で一人の少女がつぶやいた。
そう、B05Hはまだ終わっていない。この時を待っていたのだ。
自分が攻撃されて、表面の接着剤がはがれるこの時を。
もう二体の小型ロボットに矢は残されていない。今から矢を作ったところで間に合わないだろう。
装甲が剥げ、傷だらけになりながらも大振りの最後の一撃を振りかぶり特攻する。
胸が熱くなる感動的な逆転劇になるはずだった。
A045Gの腕の装甲が開いた。
小型ロボットと同じ形の矢が内蔵されていた。
両腕から二本。金属の矢が放たれ、B05Hの頭と胸を穿つ。
こうして戦いは終わったのだ。




