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073 告白と誤解



中等科の修学旅行は二年の冬に行われる。

毎年複数の候補の中から、旅行先が決められる。

伝統により、二年連続同じ場所が選ばれない決まりになっている。だから、二年生の先輩が行った場所に融たちが行くことはない。

甘野たち部活の先輩の旅行先は、大森林などの国立自然公園のあるカイノクツカ自治区だったはずなのに、お土産にそれらしい物はない。観光地ならばどこにでも売ってあるような24色ボールペンや光って踊るガイコツのキーホルダーの方がまだお土産らしさがあった。


融へのお土産は機械の部品だった。街を自由に観光していた時、有名な観光地へはいかずに、その地方のリサイクルショップや中古部品屋を巡り、古くてレアな機械部品を購入して回ったそうだ。

「トールの武器ロボットセンサーの研究の役に立つはずさ」

甘野は笑顔でそう言った。

修学旅行先のことを尋ねても、すぐにロボットの話へとすり替わる。


(せっかく恋人との旅行でもあるというのに、それでいいのか?)


融が甘野敏の恋人、河合千草の方を見ると、旅行先で買ってきたと思われるとても古い型のロボットを楽しそうに分解、修理している。


(ああ、これでいいのか。

とっても幸せそうだし。

恋愛に、しなければならない決まりなんて無いのだから)


鏡子はとても古い型のタッチパネル方式のゲーム機をお土産としてプレゼントされていた。故障していたバッテリー部分を河合千草が交換すると、問題なく動いた。

慣れない操作に苦戦しながらも、ゲームに熱中している。

「鏡子ちゃん、壊れたら遠慮なくいってね」

「うん、わかった」

(せめて画面から目を離してから、お礼を言いなさい)

河合千草は、自分のお土産を気に入ってくれている鏡子を見て喜んでいた。




同じくらいの時期に月城結梨亜が生徒会長を引退した。

三年生だから卒業の時期が迫っているのだ。ほかの部活動の部長の引き継ぎも、この時期に行われる決まりになっていた。

高等科もエスカレータ方式なので受験はない。けれど、中等科での最終成績によって優先順位が決まるため、希望のクラスに進学したければ自分を追い込まなければならない。




生徒会長は生徒たちによる選挙で決められることになっている。これも学校の伝統だ。

二年生が立候補して次の生徒会長に選ばれることが多いけれど、一年生が立候補してはならないルールはない。

一年生でも、月城晶が立候補してしまったらもう当選確実したようなものなのだ。

実際の選挙結果でも、ほかの候補に大差をつけて当選した。

前生徒会長が義姉の月城結梨亜だったからという理由だけではない。それだけ月城晶は有名人なのだ。

前生徒会長の結梨亜と現生徒会長の晶の交代のあいさつは、それだけで一つのイベントになった。

引き継ぎが月城姉妹によって行われ、あの姉妹は大変仲が良いと校内でも話題になっていた。




「ちょっといいかしら、結梨亜姉さまのことで放課後話したいことがあるの」


融は晶に呼び止められた。月城結梨亜と仲良くなると、こんな問題も起こりうる可能性を内包している。月城結梨亜と月城晶は血のつながりが無いとはいえ姉妹だ。

噂の番長が、大切な義姉にちょっかいをかけているとなれば、妹は黙っていなかった。


「最近よく結梨亜姉さまと話しているようだけれど、あなたいったい、どういうつもりなのかしら?」


二足歩行のロボットが接客サービスをする時代だというのに、校舎裏に連れて来られた。

一歩分踏み込んで、融のそばに近寄って睨みつけている。

殺気立っていなければ、見つめ合う恋人同士に見えないこともない距離だ。


「どういうつもりもない。ただ仲良くなりたいだけさ」



歴史上では、まだ晶は裏切らない。

安全なはずだ。

でも、万が一ということもありうる。未来は常に変化し続けているのだ。

動じていないように見せているけれど、融は内心ビビっている。

金貸して欲しいだとか、ジャンプしろ、などと命令されれば、はい喜んでと従って、早くこの場から立ち去りたかった




そんな融を助けてくれたのは意外な人物だった。


「そこでいったい何をしているのかしら?」


融たちの後を追いかけてきた月城結梨亜が声をかけてきた。


結梨亜は融たちの様子をじっと観察している。

ふぅと軽くため息をつくと、結梨亜は口を開いた。


「転法輪君。ちょっといいかしら?

これからお話したいことがあるのだけれど、一緒に来てもらえる?」


隠れて融をシメようとしていた晶は動揺していた。


「結梨亜姉さま!違うのです!」


「晶、あなたの話はあとで帰ってからゆっくり聞きます」

いいかしらと微笑むその顔は笑顔だったけれど、彼女の心の中はそうではないみたいだ。笑顔を向けられた晶が真っ青になっていた。



先を歩く結梨亜の後を融は黙ってついていく。何で彼女が黙っているのか融にはよくわかっていない。

融が連れてこられた場所は誰もいない学校の屋上だった。


「また晶なの?あなたまでもがそうなのね」


結梨亜はいつもの結梨亜ではなかった。

普段の彼女は年上の余裕のような落ち着きがある。

少なくともこんな感情を表に出すような女性ではない。


「私はずっとあの晶ちゃんのお姉さんだったのよ。

年が近いからって、いつも隣にいる。

中等科でも、あの子が入学したら私は晶のお姉さんになった。

それまでは優秀な生徒で、いい先輩で、生徒会長だったのに。

みんなあの子が持っていってしまう。

みんな、どうせ私なんかよりも、晶の方が好きなんでしょ。お母様たち、兄姉たちもそう。生徒会長をしたって、最後は晶に全部を持っていかれてしまった。

私はどんなにがんばっても特別な存在にはなれないのよ。

もしどちらかを選べと言われたら、私は選ばれない。

選ばれるのは晶なの。

あなただって結局そうなんでしょ!」



校舎裏での光景が結梨亜には一体どう見えていたのだろうか?

融を軽蔑するような眼で睨みつけている。

その目は少し潤んでいた。


「そんなことない」


成績や将来への不安のストレスもあるのだろうか。少し感情が高ぶって、心の中身が表に出てきている結梨亜の言葉を、融は力強く否定した。




(折角これまで築き上げてきた信頼関係を守らねば!

なにより、月城晶の未来を知っている僕にとって、どちらかと言われれば断然月城結梨亜の方を選ぶ!

最強最悪の裏切り者か、無能な味方かという選択肢。他に選びようもない。

同じ将来の被害者同士仲良くしよう)



「少なくとも僕は、違う」

結梨亜の両肩をつかんで融は言い切った。

融の言葉は本心だった。

結梨亜のご機嫌をうかがって出た言葉ではない。嘘いつわりの無い、心の底から出てきた言葉なのだ。

掴んだ手に思わず力が入る。融はここが正念場だと思っていた。月城晶との仲を誤解されては信頼関係が崩れ去り、将来の関係が険悪なものになりかねないのだ。

二人の悲惨な未来を回避しなければならない。


その二つの目は真剣に、真っ直ぐ結梨亜を見つめている。

伝えたい必死さからか、融の顔が徐々に結梨亜の顔に近づいていく。



「えっ、あの、その。私急ぐから!それじゃあね!」



人気のない場所で二人きり。

真正面から融に見つめられた結梨亜は顔を耳まで真っ赤にして、融を突き飛ばすと走り去ってしまった。



(誤解の無いように、はっきり伝えたはずなのに、何が悪かったのだろう?)


誤解を解こうとして更なる誤解が生まれた。

こうして運命の糸は複雑に絡まった。


それから、融は結梨亜に話しかけようとしても避けられるようになってしまった。

第三者から見れば結梨亜はただ照れているようにしか見えない。

でも、融にはそう見えていなかった。


二人きりになろうとすればするほど逃げられる。


避けられるようになった融は、どこで選択を間違ったのかと後悔するのであった。



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