072 そして、伝説へ
(サプライズなんて嫌いだ。驚かされたってなんにもうれしくない。
サプライズプレゼントとか、サプライズパーティーなんて主役に喜ぶことを強要しているだけさ。
傲慢だとは思わないのかね?
先に気が付いてしまったら場が白けるし、全然嬉しくないことされてがっかりしたら空気読めないレッテルを張られてしまうのだ。
迷惑この上ない!
自己満足じゃなくて、相手の気持ちを第一に考えてやれよ!
それが大人の礼儀ってやつだろう)
融はいたずらして回っていたら、月城結梨亜にばれて捕獲されてしまった。
それまで成功していた分、不機嫌にもなる。
融は月城結梨亜と一緒に、文化祭を回るとこになった。
「月城会長、その人誰なのですか?」
「うふふ、私の大切なお友達よ」
月城結梨亜は目立つ。文化祭の人混みの中でも、彼女のクラスメイトや後輩たちが積極的に話しかけてきた。
腕を組まされて逃げられない様にされている女装中の融も、それまで以上に目立っていた。
二人とすれ違えば、誰もが振り返った。
融にも羞恥心はある。
たとえ、正体がばれていないとしても女子の制服姿で衆人環視の中にいては、気持ちが休まることはない。
「ほら、そんなに不機嫌そうな顔しないで。あ~ん」
いじめの標的を見つけた時の美涼ほどではないけれど、結梨亜もいたずらっ子の顔をしている。
屋台の一つで買った揚げドーナツを指でつまんで融に食べさせた。
きつね色に揚げられた丸い形をしていて、表面はカリッと中はもちもちしている。甘さ控えめで、細かく砕いた大豆が生地に練り込まれており、それが味のアクセントになっていた。
「どう?」
「おいしい」
「そう、よかった」
それからも、融は学校中を連れ回された。
結梨亜は生徒会の仕事の一環として、文化祭中の校内の見回りを行わなければならないことになっていた。
屋台を出品しているクラスの生徒たちは、二人がやってくると自分たちの商品をプレゼントしてきた。
結梨亜が生徒会長で人気者だからというだけの理由ではなく、中には二人が仲睦まじくおいしそうに食べていると、宣伝になるからということもあった。
結梨亜は融に食べさせる行為が気に入っていた。一瞬照れる彼女(女装融)の表情を楽しんでいる。
「あ~ん」
口元をハンカチで拭いてあげるなど、甲斐甲斐しく世話を焼いて楽しんでいた。
月城結梨亜に捕まったせいで、融は月城晶のクラスの出し物の演劇を見ることができなかった。それを口実に逃げ出そうとしても、放してはくれなかった。
結梨亜から解放されたころには上演時間が終わっていた。
劇の余韻を楽しんでいる生徒たちとすれ違ったので、その内容がよく出来ていたことを物語っていた。
(生きるとは、人間とは何か、という哲学的なテーマも内包した深い内容の芝居だったらしい。もっと気軽なコメディーとかでいいんじゃないの?学生演劇なんだから)
この学校の文化祭には、非公式なイベントも催されていた。
秘密裏に行われるミスコンやベストカップルコンテストだ。
非公式とはいえ、学校内にある秘密結社が毎年開催している伝統ある大会なのだ。
ミス・コンテストは、この文化祭が行われている会場内にいる人物が対象になる。
かわいい女子生徒や、きれいな教員、美しすぎる保護者など、女性を勝手に撮影して、本人の許可も得ずにエントリーさせられる。
学校の裏サイトで投票を行い、独断と偏見で優勝者を決めるのだ。
ベストカップルコンテストも同様の方法で決まる。
こちらの場合、匿名の投票者のコメント欄が荒れる。
直接本人たちにぶつけられない怒りや嫉妬などの醜い感情が男女関係なく燃え上がる。
大炎上する。
祝福の言葉の影で、呪いの言葉が飛び交うのだ。
ミスコンの上位入賞者には、月城晶や月城結梨亜。三崎杏菜に波川美涼の名前もある。
雪村鏡子の名前もひっそりとあった。コメントを見る限り、知る人ぞ知るレアな存在扱いされている。隠れ美少女って何だ!
そこに謎の美少女と名前の欄に書かれた人物がいた。
彼女、いや彼は美涼や杏菜よりも高い順位にいた。
ベストカップルコンテストも上位入賞者たちの一覧が表示されていた。
老若男女の嫉妬と怨念がこもっている。ああ、迷える魂に幸あれ!
そんな中に、今年は見ていて和むとコメントの書かれたカップルが特別賞を受賞していた。
画像の彼女、いや彼は相手に差し出されたドーナツをおいしそうに食べているのだった。
生徒会長と共に写るその人物の正体は不明で、他校の生徒に生徒会長が制服を着せ偽装したものではないかなどの予想が出ていた。
文化祭にだけ現れた謎の美少女はこうして伝説になったのだ。
「これは、さすがにまずいわ」
蛇の道はヘビ、ベストカップルコンテストの噂をどこからともなく耳にした美涼は、次々に燃料を投下して炎上した嫉妬の炎をさらに燃え上がらせていたのだけれど、そこに融の画像を見つけてしまった。
自分の悪ふざけが、伝説扱いされてしまっている。
「こうして記録に残っているのがばれたら、どんな仕返しをされるか想像もしたくない。百倍返しや土下座じゃ済まないかもしれない。絶対に秘密にしておこう」
やりすぎたかもと後悔する美涼だった。




