071 悪戯
融は、校内を歩いていた。
仮装の出し物を宣伝しているのなら、彼女も何かに仮装したらいいのに。
そう思われるくらいに融は自然に見えていた。
やるのならば、ちゃんとやろう。
融は真面目にやっている。
ただ見た目だけではなく、細かな仕草も女性のそれだった。
これは友人たちを参考にしている。普段からの観察が役に立っていた。美涼に杏菜を足して、鏡子で割った感じ。
気品があって上流階級のお嬢様のようだ。何気ないしぐさに愛らしさが感じられる。それでいてどこかさっぱりとした印象を与える。
(木を隠すなら森の中。学校の中なら制服姿は目立たない)
融はそう考えていたけれど、すれ違う人々が振り返るくらいには目立っていた。
すぐに教室に戻れば、早過ぎるなどと美涼にイチャモンをつけられて、また別の女装をやらされる可能性が高い。
後でやり返すと釘を刺した程度で止まるような女ではない。
きっとそれは学校の女子制服よりも難易度が高い何かを着させられるのだ。
融の頭の中に露出度の高いあれこれが浮かんだ。
融が時間を潰すために食べ物の売店を見て回っていると、声をかけられた。
「あなたは、波川美涼さんたちのクラスの人ね」
実行委員の腕章をしているのは、月城晶だった。
「彼女たちは、また何か悪ふざけをして問題を起こしてないかしら?
何か迷惑をかけられてない?無理難題を押し付けられたりとか?
大変でしょうけど、最初からはっきり断った方がいいわよ。
問題があったら、早めに私たち実行委員に相談してね。私はこの見回りの後クラスの劇に参加しなければいけないけれど、先輩たちは頼りになるから」
そう言ってから、月城晶は忙しそうにほかの生徒に注意しに行ってしまった。
月城晶は、彼女の正体は転法輪融が仮装した姿だと全く気が付いていない。
文化祭はクラスの演劇や文化祭実行委員の仕事も重なり、忙しさから普段よりも視野が狭くて余裕が無くなっている。
融が持っていたプラカードから、女子生徒に見える人物のクラスを判断したに過ぎない。
(ビックリした!まさか月城晶に出会うとは思ってなかった。演劇の準備で忙しいって言っていたのに。
それにしても、意外と気付かれないものなんだな。自分ではそんなに見た目が変わっているようには見えなかったのに。
進馬が気づかなかったのは、てっきり僕をからかっているだけだと思っていたけど、そんなに別人に見えるのかな?)
融は、知り合いを探して試してみることにした。
佐々倉晴がいる場所は知っている。
今頃はステージの近くで演劇の小道具を準備している時間のはずだ。
「あの~、佐々倉晴君を呼んで欲しいのですけれど……」
晴と同じクラスの生徒に頼んで晴を呼び出してもらった。融はスカートの裾をつかんでもじもじしているけれど、照れているのではなく、ふざけているのだ。
「おーい、晴!かわいい子がお前のことを呼んでいるぞ!」
男子生徒は他の生徒たちにも聞こえる声で晴を呼び出した。
晴は男子生徒たちに茶化されて、動揺しながらやってきた。
「あの?どう言った御用件でしょうか?」
男子生徒に限らず、女子生徒たちもこちらの様子を気にしていた。
野次馬たちの存在を確認した融はいきなり晴に抱きついた。
「え、うわ、誰?何?」
いきなり見知らぬ女子生徒に抱きつかれたと思っている晴は、顔を真っ赤にして硬直してしまった。
「本当に、気付かれないものだな。ほら、僕だよ」
融は、ボソッと晴の耳元で自分の正体を告げた。
「その声は、まさか!?」
「じゃあね~」
走り去った融の後ろでは女子の黄色い声と、男子の問い詰める声が聞こえる。
「きゃーー、抱き合っていたわ!」
「あの美少女は誰なんだよ!お前の彼女か?!」
融はいたずらが成功したことを喜びながら去って行った。
「そんなんじゃないって!あいつはただの友達で!」
融が行ってしまったせいで、佐々倉晴は上手く説明できなくなっていた。
抱きついて来た美少女が、実は男子生徒だと正直に話しても信じてもらえそうになかった。
融のいたずらのせいで、晴に美人の彼女がいるとのうわさが一部で広まってしまうのであった。
融はロボット研究会に戻って来ていた。
部員としてではなく、射的ゲームをしにやってきたお客の一人としてだ。
女子生徒の姿でいると、男子部員は少し甘くなる。
銃も軽くて狙いやすい物を渡すし、当てるためのアドヴァイスもしてくれた。
彼女がいるというのに甘野もその傾向にある。まあ、男子だから仕方がないのかもしれない。
台の上に乗っかるようにして、少しでも的との距離を縮めて撃つ。男である融は、スカートのことは気にしない。
融はさんざん放課後射撃の練習をやっているし、ロボット部で出し物を準備している時もテストで何百回も試した。
ほかのお客がなかなか豪華景品を手に入れられない中、これまでの最高得点をたたき出した。
飾ってあった景品のロボットを雪村鏡子が運んできた。
そもそも彼女は部員では無かったのに、融に手伝わされてなし崩し的に部員として働いていた。
「景品は遠慮しておきます~。部員の私がもらうのはフェアじゃないですから~」
そう、融が言うと、鐘やクラッカーを鳴らして祝福していたロボット部の先輩たちの表情に疑問が浮かんだ。
「あ、あなたは!」
女子部員の一人がその正体に気づくと、またもやいたずらが成功した融は優雅に去って行った。
融は次のいたずらのターゲットを探していた。
全然気づかれなくて、簡単にだませたから融は楽しくて仕方が無かった。
偶然すれ違ったのは、月城結梨亜だった。
(次は彼女にしようかな?
いいや、やっぱりやめた。好感度が下がってしまうかもしれない。
歴史で生き残るためには彼女と仲良くした方がいいだろう)
そう考えた融が、何も言わずに通り過ぎようとしていたら、突然腕を掴まれて引き留められた。
「あなた、もしかして……?」
(うわ、ばれた!)
いたずらしていた融が驚かされる立場になってしまった。




