069 歴史改変失敗
(あれ?四対四の合コンだと思って、あれこれ考えていたのに、女の子の人数が三人だ)
融は自分も参加するつもりで興味津々だったのに、気仙沼征治は先輩たちだけが参加すると考えて人数を集めていた。
噂の番長は女子生徒たちを常に侍らせているのだ。わざわざ出会いの機会を作ろうなんて思わなかったのだろう。
集まった場所は武器研の部室である。自由に使えて、お金もかからない。
テーブルと椅子は空き教室から勝手に借りてきた。
男子と女子が向かい合うように座った。
気仙沼征治は男子側に座っている。
(僕は先輩たちの隣に座るべきだろうか?
でも、それだと三対五でバランスが悪い感じがする)
迷った結果、融は女子側に座った。
(どうせならば女の子の隣に座りたいよね)
場の空気は変化した。
しかし、融に空気を読む能力なんてものは無い。
女子たちは気仙沼征治に半ば騙される様に連れて来られている。
それでも、事前に説明は受けていた。
その内容は三対三だった。相手の顔と名前も教わった。
あくまでも気仙沼征治は司会進行に徹する。
三人の女子生徒の疑問は、融の存在だ。女子側に座った男子生徒の正体は何者なのだろうか?
番長に文句を言えない男たち。場の空気は冷め始めていたけれど、征治が無理矢理盛り上げようとしていた。
まずはお互い自己紹介をすることとなった。
「えっと、名前は転法輪融って言いま~す。中等科一年生で~す。
趣味は、映像撮影。特技はビルの鉄骨を捻じ曲げること。
部活では武器センサーの改良を行っています。
好みのタイプは~、裏切らない人です。よろしく~」
エアをリードできない。
これでも努力しているのだ。
まずは男子が自己紹介した。
多少、美化したプロフィールだった。甘野も好みのタイプで胸の大きい人なんて言わなかった。
そして女子のターン。
三人の自己紹介が終わった後、融は自分の番が回ってきたと思った。
思っちゃったのである。
女子側に座っていたため、それらしく演じねばと努力したのだ。
空気を読む能力が欠けている融の努力は、場の空気を凍りつかせた。
まず、名前が問題だった。
他校生でも噂を知っている存在。悪逆の限りを尽くし、女子生徒をとっかえひっかえ、その上超能力は最上級。
大人しい女子生徒なら、おびえて逃げだしたとしてもおかしくない。
でも、そうならなかったのは融の自己紹介の仕方にある。
融が女子を演じて自己紹介したため、それが本当なのか冗談なのか判断が付かなかったのだ。
混乱した場を、なんとかするために気仙沼征治が立ちあがった。
「ちょっとごめんね。すぐ戻るから」
そう言い残して、融の腕を引っ張って部室を出た。
「転法輪さんは俺に任せてくれると言いましたよね」
「うん」
「じゃあ、後のことはすべて俺に任せて帰ってもらえませんか?
女の子たちも男が多いと緊張して上手く話せないみたいなんですよ。
部屋の中の空気が冷凍庫みたいになっていたでしょ」
「そうかな?」
「そうです!甘野先輩のことは俺が絶対に何とかします。だからこれ以上の協力は、いりませんから」
言葉は丁寧だったけれど、融は部室を追い出された。
(まあ、自信があるみたいだから任せて大丈夫だろう。結果は後で聞いてみるかな)
あくまでも融の目的は、雪村鏡子の元に起こりうる悲劇の回避だ。
融は大人しく従った。
次の日。
融は気仙沼指示を呼び出した。
「どうなった?」
「バッチリですよ。
あれから、俺がいろいろ話題を提供したり、ゲームで親交を深めようとしたんです。
でも、なんかぎこちなくて、このままじゃダメかなって諦めそうになったんです。
偶然目に入った部室に飾ってあったロボットの部品の話を振ってみたら、甘野先輩が熱く語りだしちゃって、これでもうおしまいだと思いました。
そしたら、食いついて来た子がいたんですよ。
ロボットのメーカーとか部品の性能とかマニアックな話になって、内容はさっぱりわかりませんでしたけど、会話が弾みだしたんです。
そしたら他の女の子や先輩たちも自分の好きなことを語りだました。
もう俺はいない方がいいみたいだったので、そっと帰りました。
結果はその目で確かめてみてください。部室にいますよ」
部室に行くと、武器研の部員が増えていた。
正式な部活動として認められたため、ちゃんとした部室へと引っ越す準備をしていた。
「トール。君のおかげで新しい部員が増えて、正式な部に昇格したぞ。
俺たちはトールを誤解していた。すまない、そして、ありがとう」
部長の大澤が荷物の整理をしながらお礼を言った。
久世は何も言わずに、融にデータを送信してきた。新しい部室の位置と部員名簿のデータだった。
今回の件もあって、先輩たちは心の整理が付いたみたいだ。
(新しい部の名前はロボット部。新しく増えた部員は全員二年の先輩女子で、あのあと、意気投合したみたいだ。小さい先輩が嬉野で、細めの先輩が雨根)
融にとって、問題はもう一人の女子部員だった。
何気ない動作が二人の関係を表している。
引越の準備をしていて喉が渇いて甘野が自販機で買ってきた飲み物を付属のストローで飲んでいると、女子部員河合千草が同じストローから一口分けてもらっていた。わずかに照れが残り、初々しさがある。彼と彼女の関係がまだ始まったばかりだというのがわかる。
近くにいると、甘野が彼女の髪を触らせてもらって、二人仲良くじゃれていた。
「トールが帰った後、ロボットのことで話が弾んでな。あいつにとっての初めての彼女ってわけだ。
あいつがあれほど自然に会話できる女なんて、これから一生出会えないだろう。友としで出来ることは、素直に祝福することだけだ。
我々は、からかったりせずに温かく見守ろうではないか」
大澤は融の肩にポンと手を置いた。
甘野敏と河合千草が幸せカップルになってしまっていた。
ラブラブで、とても別れそうにない。
(歴史改変に失敗した!
どうしよう、鏡子の未来の夫(仮)がほかの女と付き合っている。
経験を積むだけのはずだったのに。
まずいぞ、歴史上でも甘野敏は一途な男だった。恋人と別れるなんて絶対にしそうにない)




