068 恋愛は、実践あるのみ
雪村鏡子の未来の夫(仮)甘野敏を恋愛で積極的な人物になるようにしようとたくらんでいた。
この件に関しては、未来のことが関わって来るから鏡子は勿論、美涼たちにも協力は頼みにくい。
融は一人で問題を解決しなければならないと考えていた。
でも、歴史は得意だけれど、恋愛の経験が無い。どんな行動を起こしたらいいのかわからず、思いだけが先行して焦っていた。
そんな時、ちょうどよさそうな協力者を偶然手に入れた。
協力者の名前は、気仙沼 征治という。
融は相手のことがわからなかったけれど、相手は融の顔を見ただけですべてを思い出した。
顔を見ていきなり逃げ出した相手を、融は逃がさなかった。
すみません殺さないで、とわめく迷惑な男を人気のない空き教室に連れ込んで、正体を問い詰めた。
ちなみに、この様子は複数の生徒に目撃され、融の悪名はさらに轟くことになる。
融と彼の出会いは初等科三年の頃。
二股をかけて女の子を泣かせた彼を、融がウナギの養殖プールに突き落とした。
(そんなこともあったような?)
融は全然覚えていなかった。
その日の映像データを融が確認する。ほとんどが走る武東鋼や焼き芋を頬張る晶たちのデータだった。
その中に数枚だけ画像データに幼い彼が映っていた。
(あの美少年が随分と、やさぐれちゃったな)
「あれ以来、俺はお互いに遊びの関係だとわかっている相手としか付き合っておりません。
ちゃんとした恋愛がしたい堅気の女に手を出すことなく、アドレスを消去するだけで簡単に縁が切れる相手とだけ遊んでいます。
普通の女を泣かせるようなことはしておりません。信じて下さい!」
発言は最低だけど、彼なりの線引きが感じられる。
土下座の姿勢で、ウナギだけはやめてくださいと懇願してくる彼を見て、融は計画を彼に手伝わせてみることにした。
(ナンパな男だけど、恋愛については本能で行動するこいつの方が問題解決には良いかもしれない)
融は、気仙沼征治に甘野敏のことをぼかしながら相談してみた。
もちろん歴史のことは話さない。言ったところで理解されるはずもない。
同じ部活の先輩甘野敏が恋愛にあまり興味がなくて心配だ。
このままでは一生彼女ができそうにない。もっと積極的にさせるにはどうしたらいいだろうか?
気仙沼征治は、融の頼みを断れない。断ったら何をされるかわからない恐怖がある。
「恋愛は、実践あるのみです。
わかりやすいように、この学校の対ロボット戦闘訓練を例に説明します。
いきなり人型ロボットや大型ロボットと戦闘はさせません。
はじめからそんな強敵と戦っても勝てないからです。
だから、訓練では量産型の警備ロボットや、偵察用無人機を想定した訓練からはじめます。
弱いロボットから慣らして、徐々に戦闘経験を積み、戦いとはどういうものか、どのように戦えば勝つことができるのかを知ることが重要なのです。
恋愛もこれと同じです。大事なのは練習。
はじめから上手くいくはずがない。失敗の経験を重ねることで、やがて成果を得ることができるようになるのです」
(声に説得力を感じる。なぜだか一理ある気がする)
「わかった。お前に任せる」
融は信じてみることにした。
征治は、いきなり一対一で話すよりも、複数対複数での方が話しやすいと言った。そう合コンをすべきだと提案してきた。
融は、武器研の先輩たちの顔や趣味嗜好を征治に伝えた。
情報を得た征治は、彼らと話が合いそうな胸が大きくてかわいい女の子を探して連れて来ると言った。
「まかせてください。俺の手にかかれば、女を騙すのなんて……。
女の子に協力してもらうのなんて簡単なことです。
ロボットや武器に興味のありそうなこの学校の女子を連れてきます。
転法輪さんには、その先輩たちに説明しておいてください」
夏休みが明けて、もうすぐ学校では文化祭が行われる。
文化系の部活や演劇や合唱に参加するクラスの生徒たちは、展示発表の準備や練習に明け暮れていた。
融は文化祭で特別何かをするつもりはない。それまで通りに一人でセンサーの研究開発を続けていた。
夏季休暇前までと違って、先輩たちの融に対する態度が妙によそよそしい。
かわいい女の子たちとの交流の機会があるとわかれば、先輩たちは喜んで参加するだろうと考えていた融の予想は外れた。
(なぜだ?夏季休暇の間に先輩たちにいったい何があったと言うのだ?)
融は原因が自分にあるとは思っていない。
「今度の休みなんですけど、ちょっと顔貸してもらってもいいですか?」
なんて他校にまで悪名轟く番長に言われて、断れるわけがなかった。




