063 後輩の正体
明日から夏季休暇の放課後、融は部活に参加していた。
ふざけていることも多いけれど、先輩たちの知識は本物だった。
融がロボットやプログラムや銃火器について質問すると、マニアックなレベルで詳しく解説してくれた。
最近融が研究しているのは、歴史通りの死の運命を回避するための道具だ。
融が戦うことになる改造人間は、まだ完成していない。今ごろは敵である自由連合のどこかの会社の研究室で、秘密裏に人体実験を繰り返しているはずだ。
改造人間は、一見普通の人間と変わらない。それどころか従来の対ロボット兵器センサーの網を潜り抜けてしまう。人型ロボット兵器以上の戦闘力を有しながら、その存在を事前に察知できない。
旅行者などの非戦闘員に紛れて、簡単に帝国内に侵入されてしまう。
歴史では残念ながら、改造人間の行動を事前に察知できるようになるのは、転法輪融が戦死したあとになる。
(僕が殺された後に発明されても意味無いじゃん!)
死神融が千人の改造人間を倒し、残された遺体の情報から、その正体が解明された。
それまでは、新型のロボット、生物兵器、敵の超能力者などと噂される、正体不明の存在だったのだ。
そう、正体がはっきりしないことこそが改造人間対策が遅れる一番の原因だった。
生体部品で武器を作りだし、それを人間に埋め込んで超能力者と戦える人間兵器に造り替える。
その正体を知っている融は、自分のためにそのセンサーを作ってみることにしたのだ。
(改造人間識別センサーを発明して、歴史に名を残した開発者さんには悪いけど、僕が先に完成させてもらう!
だって死にたくないんだもの!)
現在、融はロボット兵器用のセンサーを研究中だった。
(改造人間識別センサーはロボット兵器用のセンサーの応用で作られた。
基本的な仕組みは歴史書や開発秘話のドキュメンタリー映像で大体理解している。でも、それを実際に作るのは僕の技術力では簡単じゃない)
センサーの実物を買ってきて、分解し、それを組み立てる。そうやって改めて構造を理解していた。
機械のことは甘野が詳しく説明してくれる。ソフト面は久世に質問すれば淡々と教えてくれた。
生体部品による兵器開発については大澤が知っていた。数年前に発表されたけどあまり話題にならなかったらしい。
(大体分かってきたぞ。夏季休暇の間に先輩たちがそれぞれ調べてみるって言ってくれたから、新学期からはセンサー開発がはじめられそうだ!)
融は先輩たちとアドレスを交換していなかったことを思い出した。
(何か困った時に相談できないのは不便だからね)
それぞれの趣味に没頭していた先輩たちに融がアドレスを教えてもらおうと話しかけようとした時、部室の扉が開いて意外な人物が中に入ってきた。
「よかった、まだ帰っていなかったのね。探したわよ、転法輪君。
また会った時にでも話そうと思っていたのに、あれからなかなか出会わないのですもの。
連絡を取ろうにも私とあなたはまだアドレスを交換していなかったから、こうやって私直々に探しにやって来るしかなかったのよ」
突然現れた月城結梨亜は、金とガラスを融合した置物みたいな物を持っていた。
「はいコレ、あなたが合同体育大会で優勝した時のトロフィーよ。
確かに無理矢理頼んだのは私かもしれないけど、表彰式にはちゃんと出て欲しかったわ。
あなたの寮の部屋、もしくは実家の住所に郵送するという手もあったけど、こういったものはそれじゃ味気ないでしょ?」
月城結梨亜は姿勢をただし、真面目な顔をして恭しく融に手渡した。
「おめでとう、転法輪融君」
そして、自分の腕輪型情報端末を指さして、にっこり笑って言った。
「それではアドレス交換してくれるかしら?」
融とアドレス交換が終了すると、結梨亜は生徒会長の顔になって大澤たちに話しかけた。
「この同好会の会長は大澤君でしょ。転法輪融君の正式な入部届けが提出されていませんでしたよ。おかげで転法輪君の居場所を探すのに大変苦労させられました。
もうこれ以上待てないから私が代わりに書類を作成しておきました。今後こういったことが無いようにお願いします」
大澤たちに一方的に注意すると、結梨亜は融に笑顔を向けて部室を後にした。
「じゃあね」
(先輩たちが静かだな?生徒会長に叱られたせいかな?)
「先輩」
融から話しかけると、甘野たちはビクッとして融の方を向いた。
「先輩たちともアドレスの交換をしておきたいので、教えてもらえませんか?」
「あ、ああわかった」
まずは大澤や久世とアドレスを交換した。
甘野と交換している時に、彼が融に尋ねてきた。
「トールの苗字は転法輪というのかい?」
「はい、そうですよ。言っていませんでしたっけ?」
融はそう言うと、トロフィーに書かれていた自分の名前を甘野に見せつけた。
「へ、へー。トールは戦車引きで優勝したんだ……」
それから融は先輩たちに話しかけたけれど、何時もみたいに会話が弾まない。
(月城結梨亜に叱られたのがよほど堪えたのかな?結梨亜はああ見えて怒らせると怖いやつなのかもしれない)
融はセンサーやその部品を箱に片付けて、トロフィーと一緒に鞄につめた。
「それでは僕も帰ります。次に会うのはたぶん夏季休暇明けになると思います」
融は先輩たちに手を振って部室から出た。
(ロボットのこと以外あまり興味の無い先輩たちだって知っていたぐらいだから、この優勝トロフィーは僕の思っている以上にすごいものかもしれないぞ。
弟の衣虎に見せたら喜んでくれるかな?)
融が、衣虎へのお土産ができたと喜んで帰り支度をしていた時、部室の中では甘野たちが可愛い後輩トールの正体が、悪名高き番長だったことに気が付いて、どうしたらいいのか苦悩するのであった。




