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048 狂戦士の雛


エレベーターに乗って、融の部屋の階のボタンを押した。


不吉だ、危険だと言われているのに、その数字は幸運のナンバーなどとよく言われている数字だ。なんだか可笑しかったのを穂積は覚えている。




エレベーターのドアが開いた。

他の階との違いは無い。開いてすぐの場所に階数が書かれているだけだった。


穂積は、メイドたちが新入りの自分をからかうために、嘘を言ったのではないかと思っていた。彼女たちの説明では、エレベーターのドアの向こう側は血まみれの事件現場だと誤認してしまう。壁に血文字があるわけでもないのに。


通路もきれいな物で、本当に使用人たちが立ち入っていないのか、という疑問が浮かんできた。掃除ロボットが床を磨きあげている音だけが、がらんとした廊下に響く。


扉を開けて部屋に入る。

部屋の床には、特撮ヒーローの人形やロボット、猫のぬいぐるみなど、子供のおもちゃが散らばっていた。


その中心に子供がいた。

床にうつ伏せに寝転がるようにして何かしている。

子供の周りには、白い画用紙が何枚も置いてある。どの紙にも拙い子供の絵が描かれていた。どれも同じものを書いてあるみたいだ。


子供、男の子は家族写真を見ながら、母親の顔を描いている。


一見、普通のことのように見える。しかし、穂積には違和感がある。

普通の子供が、母親の顔を写真で確認するだろうか?


男の子、融は描いていたクレヨンを止めた。

ゆっくりと起き上がって、じっと穂積を見ている。

融の目の奥に何かを感じる。飲み込まれてしまいそうだ。

穂積の体が硬直する。頭の中に逃げろという命令が駆け巡っているのに、体の筋肉が言うことを聞かない。


「部屋には誰も入れるなと命令したはずだ」


穂積は自分の体が浮き上がるのを感じた。

信じられなかった。あんな幼い子供が、持っていていいようなレベルの力ではない。穂積の服についている金属製のボタンに、強く超能力が作用していることを、この時の穂積は気が付いていない。


融が立ちあげると、穂積を部屋の扉へと叩きつけた。

超能力者で、肉体を鍛え上げていた彼女だからなんとか耐えられた。それほどの一撃だった。

扉は壊れて、穂積は部屋の外へと弾き出される。

融は、部屋の中と廊下の境界に立っている。床に倒れる彼女を見ずに再び持ち上げると、エレベーターの方へとさらに吹き飛ばした。

途中で掃除用ロボットぶつかった。ロボットは壊れ、穂積はその破片で怪我をした。


顔を上げると、融が見下ろすように立っている。


エレベーターまで逃げた。とにかく他の階へ逃げなければ。頭の中にはそれしかなかった。足を引きずり、這うように、服で血の跡を描きながら逃げた。

ボタンを押して、扉が開くまでの時間が、それまで生きてきた時間の中で一番長く感じた。

ドアが開いて中へと乗り込む。ドアが閉じるまでの光景は、彼女の心に焼き付いた。



怪我して流れた穂積の血の跡を、融がまるで子どものような顔で見ていた。



エレベーターに乗って、ボタンを押した後の記憶が曖昧だ。

気付くと医務室で傷の手当てがなされていた。

現代医療は素晴らしく、あれほどの怪我でも三日後には骨も完治していると言われた。額の傷にも再生シートが張られている。わずかな傷跡さえ残らないだろう。失った血液分を補給する錠剤を水で流しこんだ。


気が付いた穂積に、友人は抱きついて泣いてくれた。本気で心配してくれて、喜んでくれて、怒ってくれた。


穂積が生還してから、今まで以上にあの部屋には誰も近づかなくなった。


たまに、赤い塗料やマネキンなどを持ってくるようにとの注文が来る。

あの部屋がどうなっているのか、誰にもわからない。


もうすぐ、融はこの屋敷から外へ出て、学校に入学する。



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