046 世界平和にとって大切なこと
晶は融と遊んだ。
こっそり抜け出してきているため、晶は『まじめなお友達たち』とは遊べない。
晶の親友、武東鋼は身代わり中。
仲の悪い美涼は論外だ。
「一人で泳いでもつまらないわ。ここまで連れて来たのだから、最後まで付き合いなさいよ!」
晶は泳ぎも速い。三回も競争させられたけれど、三回とも融が負けた。
連勝して機嫌が良くなった晶が、さらに勝負を挑もうとした時だった。
生徒たちが持っていつ通信端末に、教師たちからの緊急連絡が入った。
「海から上がって、ホテルの部屋に戻れだってさ。鮫でも出たのかな?」
「まあいいわ。勝負の続きはまた今度よ!」
抜け出してから三十分ぐらいしか泳いでいないのに、晶は満足したみたいだ。
(これで少しは生き残る可能性が上がったかな?)
本来の予定ならば、海岸での自由時間は正午までとされており、昼食を済ませた後、バスに乗って帰ることになっていた。
まだ十一時を過ぎたばかりなのに、教師たちは生徒たちに急いで荷物をまとめるように指示を出す。
「なんで早く帰るんだろう?」
「もっと遊びたかったのに」
海水浴の時間が短くなって、不満を言う生徒も多かった。
しかし、教師たちから理由の説明は無い。どの教師も慌てていて、生徒たちが理由を尋ねても誤魔化すばかりでまともに答えてくれない。
本来なら昼食を食べているはずの時間に、送迎のバスへと乗り込んだ。
バスの中でも、教師たちはどこかと連絡を取り合い、生徒たちにかまってくれない。
「お腹すいたね」
「なら、これを食べろ」
融は、あの親子からもらったお菓子の詰め合わせを、お腹を空かせた鏡子にあげた。
「ありがとう」
「お礼は言わなくていい。これは鏡子のだ」
「?」
鏡子はよくわからないままに、お菓子を食べ始めた。
「私にも頂戴!」
「私にもくれるわよね?」
杏菜に美涼も当然のように鏡子にお菓子を要求する。
やさしい鏡子は二人だけでなく、他のおなかをすかせている生徒たちにも快く分け与えた。
進馬や他の生徒たちも、自分が持っていたお菓子を食べ始めた。
さんざん運動したあとで、昼ごはんが食べられなくてみんなおなかをすかしていた。周りを気にして我慢していた生徒たちも、融たちが食べ始めたから、遠慮せずに食べられるようになったのだ。
融はビーフジャーキーをかじっていると、美涼が袋に勝手に手を突っ込んで食べ始めた。
「なかなかいけるじゃない。どこのお店よ?」
美涼は融から袋を奪って、販売元を調べる。
「通信販売もやっているみたいね。今度注文してみようかしら」
(その店はお前の天敵、月城晶の実家だぞ)
泉さんのためにも、融はお店の売り上げに貢献すべく、そのことを教えないでモグモグと肉をかじる。美涼は自分の腕輪型情報端末にメモしていた。
帰りは観光スポットを巡ることも無く、まっすぐ静かにバスは走る。
生徒たちも遊び回った疲れが出ていて、バスの中はとても静かになった。
どの生徒もぐっすり眠ってしまった。
楽しかったことを思い出して、みんないい寝顔をしている。
その頃、工場では調査が行われていた。
重度の土壌汚染のデータは調査隊により、間違いだったことがすぐに判明した。
しかし、問題はそれだけで終わらなかった。
工場には明らかに爆発による破壊の痕跡が残っている。
ただちに対テロ部隊が突入して、内部にいた不審人物を拘束する。
工場内部には人型ロボット製造にかかわる違法化学薬品の製造が疑われる証拠が次々に発見された。殺傷能力の非常に高い軍用ロボットも発見され、使用された痕跡も確認される。
中央から派遣されてきた警察組織がさらに調べると、地元警察に多額の賄賂を渡していたことが判明した。
同時に、通信の痕跡から、地元紙など報道関係者も事件に深くかかわりがあると判明して拘束された。
敵である自由連合が民間企業を装い、テロを起こそうとしていた。
この事件をきっかけに、国内のほかの自由連合系企業への監視の目がさらに厳しくなった。
そして、国内にある同様の治安の悪い地域の改善が計画されることになる。
夏季長期休暇前のある日、融の元へ倫から通信があった。
「融、久しぶり、元気にしてた?修学旅行楽しかった?
お土産ありがとうね。部下たちも感謝していたよ。
ところで、母さんはいろいろあって代表の仕事も、軍の仕事も今大変なのよ。
今度モラヌランガ自治区の都市計画の見直しがあるのだけれど、融はどう思う?せっかくだから、融の意見も参考にしたいな。旅行でいろいろ見て回ったんでしょ?」
融は旅行中のいろいろを思い出した。
「……バーベキュー」
「ん?なに?」
「あ、いや、上から命令するだけじゃ絶対よくならないと思う。地元の人たちみんなを集めて、みんなで決めないとルールを守ってくれない、かな?」
「フムフム、トップダウン形式よりもボトムアップこそが都市計画に重要と。他には?」
「あとは、バスの中から観光地を見て回るだけじゃなくて、地元の人ともっと自然に触れ合えるようにしたら、友達になれてもっと楽しくなるよ。
地元の人とごちそうを食べて、歌って、踊って。
それに、若い人がたくさん余っているって言っていた」
「ほうほう、観光による交流。若者が多いのに、職場が少ない。治安悪化の原因の一つはそれだな。ところで融、誰が言っていたの?」
「お土産を買ったお店の泉さんって人。
地元の人たちの協力が必要だったら、旦那さんの勇助さんに頼んでみるのがいいと思うよ」
(なにしろ、僕の知る歴史では、その辺り一帯を取りまとめた武装集団のトップになったカリスマのある人だから)
「ジャーキーの袋に書いてある住所ね。わかったわ。
良い情報ありがとう。いやー本当に助かったよ。代表の一人としての仕事が、かなり楽になりそう」
「プレゼントするなら、地元の商店街で肉を買っていけば、大喜びされるよ」
「肉??」
市民の意識改革と協力によって、治安は徐々に良くなり、ユニークな観光地として再出発する。
モラヌランガ自治区の悲劇の歴史は、ほんの少しずつ変わり始めていた。




