044 みんなで海
融がホテルの売店で、水着やおもちゃ、お菓子におみやげを買っていると、教師から呼び出された。
連れていかれるままにホテルのロビーに行くと、知らない親子がいた。若い母親とヨチヨチ歩きの子供、このホテルに宿泊している観光客らしい。
母親が、昨日は助けていただいてどうもありがとう、などと感謝の言葉をかけてくるけれど、融は昨日ホテルにはいなかった。
(心当たりがない?何かの勘違いじゃないか?)
融が適当に相槌を打っていると、せめてものお礼にとお菓子の詰め合わせをもらった。
教師から根掘り葉掘りあれこれと尋ねられるも、知らないことは答えようがない。
「さあ?」
「よくわかりません」
「知らない」
「そうですね」
何を聞かれてもそんなふうに返していると、教師があたたかい目を向けきた。
「よし、先生には全部わかった。もう行っていいぞ」
「?」
融にはさっぱりわからなかった。
杏菜や美涼に、さっきあったことを相談してみた。
「たぶんツンデレだと思われたんだよ」
「つんでれ?なにそれ?」
「お年頃の男子生徒が、親切をしたことが照れくさくて、誤魔化していると勘違いされたのよ」
「昨日のことなんだけどね」
そう前置きをして、ポンプでマットを膨らませていた進馬が教えてくれた。
融のアリバイを証明するために、鏡子が融の顔マスクを被り、男子の制服を着てホテル内を散策していると、幼児が一人迷子になっているのを発見した。
アリバイ作りには、目撃者が多い方がいいと判断した鏡子は、幼児を連れて客室係と一緒に保護者を探した。
そして母親を見つけた後、名乗らずにその場を後にした。
下手に融の名前を出せば、学校の生徒ということで教師を呼ばれて、正体がばれるおそれがあったからだ。
「説明しておいてくれよ、焦ったぞ」
「水着を買いに行くって急いでいたし、まさか監視カメラの映像まで調べて正体を割り出すなんて思わなかったから」
「お礼のお菓子は、あとで鏡子に渡そう」
その鏡子は海水浴初体験で、学校指定の水着を着て浮き輪をつけて、波打ち際で恐る恐る波と戯れていた。
海岸には、水着姿の生徒は数多くいるものの、泳いでいる生徒がほとんどいない。
「ところでみんなは泳がないのか?」
準備運動をして、ゴーグルをつけた融は友人たちに聞いてみた。
「私泳げない!」
可愛らしい水着を身に付けている杏菜が元気に答えた。
「心の準備ができてない」
ビニールマットは空気で膨らんでいるのに、進馬は海へ向かう様子は無い。
「……日に焼けたくないのよ」
ビーチパラソルの下で、ブランド水着とサングラスをつけた美涼がゆったりしている。
「みんな泳げないのか。じゃあ、鏡子とちょっと泳いでくるね」
融が海に入り、泳ぐ。それを追いかけようとして、浮き輪の鏡子が海へと入る。
(融になる前の僕は、川でしか泳いだことが無かったから、海は初めてだ!
しょっぱい! 波!! たのしい!!!)
浮き輪の鏡子を引っ張って泳いでいると、ビニールマットに乗った進馬と杏菜が流されてきた。
「二人とも大丈夫なの?」
「だって、楽しそうだったんだもん!」
「……ちょっと怖いけどね」
「超能力者は、別に泳げなくても問題無いのよ」
美涼は、融が買ってきた水鉄砲を持って、海の上に立っていた。彼女の足元の海水が凍りついている。彼女の超能力で海水を凍らせて、ここまで歩いて来たらしい。
「くらいなさい!」
泳いでいる融たちを的にして、美涼が水鉄砲を撃ち始めた。
わいわい騒ぎながら、みんな楽しく遊んだ。
「私、なんで正座させられているの?いつの間にホテルに来たのかしら?
……………。
海か、みんな楽しそうだな」
月城晶を除いて。




