043 旅の別れ
声の主は月城晶だった。
「大人しくお外で待っているように言ったじゃん!」
「私が助けに来なけりゃ、あんたやられていたでしょう!」
二人とも走って逃げている。
融が後ろを振り返ると、暗闇の中、ロボットの電源ランプの赤い光が猛獣の目のように輝いて見えた。
「さっきの攻撃は何だったんだ?炎じゃないみたいだけれど?」
「ここは化学薬品工場だから、火はマズイかなと思って、これを使ったの」
晶の手にはジュースのペットボトルが握られていた。
「水を浮かせて、ロボットのセンサーの前で急激に加熱して、爆発させたのよ」
融も晶も工場の外へと出た。
「これで助かったのか?」
「まだ安心できないわ。そういうわけで、もう一発!」
また、水の塊がふわふわと浮きあがり、工場内部へと進んでいく。先ほどよりも塊が大きい。
「爆ぜろ!」
爆発音と共に、屋根に穴が開いた。近隣の家々に明かりが灯って、人が出てきた。
(なにやってんだ!)
融は晶の腕を引っ張った。
「早く逃げるぞ!」
「待って。まだ、とどめを刺せたのか確認してない」
「人が集まってきちゃうでしょうが!修学旅行勝手に抜け出しているのがばれたら困るのは、おまえだろうがよ!」
融と晶は人混みにまぎれて、逃げ帰った。アパートまで帰ってきた頃には空が明るくなり始めていた。
晶は疲れたので少し寝ると言って、部屋に戻った。融はプロテクターを脱いで、水でも飲もうとキッチンまで行くと勇助が起きていた。
「おはよう、君も朝のランニングかい?シャワーを浴びたらいいよ。
僕はこれからさ」
勇助はニッっと微笑んで、それじゃあと言って出かけてしまった。
融が汗を流し終えて、体を拭いていると、背後から誰かに抱きしめられた。
「勇助く~ん。おはよ~。あれ?なんか縮んだ?」
寝ぼけて、だらしない格好の泉が抱きついてきていた。朝が弱いところは姉妹でよく似ていた。
(撮影、撮影)
「ひゃ~、間違えちゃった!」
黄色い声を上げながら、逃げて行った。
その後、ちゃんとした格好で出てきた泉は、そんなことは無かったかのように振る舞うのであった。
朝食を勇助や泉と仲良く食べていると、メガネ型情報端末のアラームが鳴った。この音は融以外には聞こえないように設定されていた。
(きれいさっぱり忘れていた!)
修学旅行最終日は、リゾートホテル近くのビーチで遊ぶ予定になっている。
勝手に抜け出した事をばれないようにするには、その日の朝食後の点呼の時間までに戻らなければならない。
「すみません!すっかり忘れていたのですけれど、もう帰らないといけないのです!」
融は立ち上がって、慌てて部屋に戻る。
「晶!晶!起きろ。間に合わなくなっちゃいますよ!」
へんじがない、ただのすいみんちゅうのようだ。
「急ぐのかい?」
「ええ、とっても。今すぐにでもここを出ないと間に合わなくなりそうなくらいに……」
「それは大変だ。送ろう!」
融は晶の分まで荷物をまとめる。
「晶、出発するぞ!お姉ちゃんたちとお別れをちゃんとしろ」
「あー。ねーちゃん、ばいばい」
「この子、本当に学校ではちゃんとやれているの?おバカなことやって迷惑かけてない?」
勇助が晶を負ぶって、階段を下りると、泉が呼んだらしい車が止まっていた。
「リゾートホテルまでお願いします」
サングラスの運転手は、昨日のバーベキューで焼きそばを山盛りにして食べていたおじさんだった。グッと親指を立ててニカッと笑った。
バックミラーを見ると、昨夜集まっていたご近所の皆さんが手を振っている。
窓を開けて、手を振り返した。
遠く姿が見えなくなるまで振り続けた。
送ってもらったおかげで、融は間に合うことができたのだけれど、結局月城晶は叱られることになった。
(僕は悪くない。何をやっても全然起きないお前が悪い。
だからお願い、恨まないでくれよ)
晶は寝ぼけた顔で、教師の説教を聞き流し、反省の色が見られないということで、みんなが海水浴をしている間中ずっと、廊下で正座することになってしまった。




