042 切断糸
融が慌てて部屋を出て、工場の出口へと向かう。
メガネに最短経路を表示させ、来た道を急いで戻る。
来る時に無かった物が、そこにあった。
いや、そいつらがいた。
量産型の警備用ロボットではない、四本足でゾウガメの様なそれは軍用ロボットだった。人型ロボットと同じような人工知能が搭載されている。
(死んだ!僕は死んだ!あれはヤバいやつだ!)
狭い通路に二台のロボットが並んでいる。
すると、後ろの一台が壁の方へと歩き出した。亀の様な見た目だけれど、その動きは速い。その亀は垂直になっていつ壁を歩き出した。
(罠だったんだ。警報が鳴らないのは中に入ったやつがどういう行動をするか調べて、正体を突き止めるため。その後はこいつらが侵入者を外へ逃がさない)
二台のロボットの甲羅部分が開いた。
爆薬によって、金属の小さな玉が四方八方、辺り一帯にまき散らされる。
ただの人間の侵入者だったら、ハチの巣になっていたことだろう。
(死んだかと思った!)
融の目の前だけ、まるで時間が止まっているかのようだった。
見えない超能力の力が、向かってきたすべての金属弾を空中に止めている。
「これはお返しだ!くらいなさいよ!」
止めた金属弾を撃ち返すけれど、閉じた甲羅で防がれて、ほとんどダメージが無い。
「ダメか」
壁を歩いていた亀は向かってくる。
(嫌な予感がする!ここに立っていたくない)
融はそれまで立っていた場所から後ろに跳んだ。
甲羅が今度は横に開き、ヒュンと空気を切る音がした。
何かが融が立っていた場所を通り過ぎて、ベルトコンベアが切断された。
(糸、化学繊維か?細い糸が物体を切り裂くのか)
さらに間合いを取るために融は後ろに下がる。
(配管を使わせてもらうぞ!)
天井の配管を念力で曲げて、壁を歩くロボット亀を打ちつけた。
亀は壁からはがれ床に落ちて、ひっくり返った。
(やった!このばかめ!)
もう一台の亀はそれを無視して融の追跡を続ける。
融は残り一台になったと考えていたけれど甘かった。ひっくり返っていた亀の足が伸びて、簡単に元に戻った。
前を歩く亀の切断糸の攻撃は続く。融は手当たり次第に、配管や機械を浮かせて亀に向けて放つけれど、ぶつかる前に空中で次々と切断されていく。
融は次第に追い詰められていっているように見えた。
(よし、今だ!)
融はまき散らされていた金属片に超能力の力を込める。無数の金属の塊が雪崩のような流れとなって、前方の亀に向かった。その流れは切断糸だけでは防ぎきれず、ロボットは弾き飛ばされた。流れは止まらず、金属の塊の流れがそのまま後ろの亀へと向かう。ロボットは防御のために糸で金属片を切断しはじめた。
(糸の攻撃の時、必ず前にいるロボットだけしか攻撃してこなかった。つまり)
大きく円を描きながら切り裂く糸による攻撃は、広範囲攻撃で、曖昧な狙いしか定められないようだ。
融はそれを利用した。
瓦礫と一緒に流されてきた前を歩いていたロボットを、後方の亀型ロボットの糸が切り裂いてしまった。
(よし!よし!狙い通り上手くいった!
でも、問題はこれからなんだよな)
ロボットは一台減ったけれど、もう一台残っている。同じ手は使えない。
亀型ロボットの動作が止まった。何かを考えているように見える。
突如動きだし、足が伸びて跳ね上がった。壁にへばりつき、そのままどんどん上へと登り天井にへばり付いた。その動作はもはやクモだった。
金属片を十数個まとめて浮かび上がらせ、さっきと同じように、流れを作り出してぶつけようと狙った。
しかし、上を狙うために勢いは削がれるし、先ほどまでの安定感は無くなってしまったものの、俊敏性が上がったために避けられてしまう。
金属弾と切断糸を交互に使う戦法に切り替えてきたために、融も金属弾を受け止めるのではなく、かわすだけで精いっぱいになった。
(押されている。このままじゃやられる)
ふわりと何かが浮かんでいる。薄暗い工場内で、わずかな非常用照明に照らされて、キラキラしている。
天井のロボットへと近づくと、爆発した。辺りが白い霧に包まれた。
「今のうちに、早くこっちへ!」
融は声のする方へ走って逃げた。




