表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/90

039 一口もらうね



翌朝、融は泉が朝食を用意する音で目覚めた。

晶によって設置された国境線を乗り越えて隣を見ると、晶はまだ眠っていた。昨夜はなかなか眠れなかったみたいだ。布団から脱ぎ出て、口元からよだれを垂らして眠っている。

(撮影、撮影)



勇助は既に出勤してしまったらしい。

「私もお店があるから、これから出るけど、遠慮せずに自分の家だと思ってくつろいでね。何かあったら、昨日のお店にいるから。一応、連絡先交換しておこうか」

そして、いってきますと元気にあいさつして融たちを残して出かけてしまった。




温かい野菜スープとトーストが用意されていた。

融が地元の新聞のデータを読みながら、優雅に朝食をとっていると、晶がだらしない格好で起きてきた。久しぶりの故郷で油断しているのか、まだちゃんと目覚めていないようだ。

スープを飲んで一呼吸おいた後、目を見開いて自分の部屋へ駆け戻っていった。



「なんであんたがここにいるのよ!」

(まだ寝ぼけているのか?)


身だしなみを整えた晶が戻ってきた時、融は食事を終えて、外出の準備をしていた。

「じゃあ、ちょっと外出してくる。お昼は外で適当に食べるから」

融が、まるでこの家の住人であるかのような振る舞いは、晶をより一層不機嫌にさせた。

「待ちなさい!何たくらんでいるか知らないけど、私の地元で変なことをしない様に監視させてもらうわ」




融が工場へ、メガネ型情報端末の地図情報を頼りに移動していると、その二歩後ろを晶が付いてくる。

(工場の件は、晶は全く関係ないみたいだ。裏切っていたり、敵国と情報をやり取りしているそぶりは無い)


融は定期的に土壌検査用のセンサーである杭を地面にブッ刺してデータを取る。

今のところ薬品汚染は一切確認できない。


「なにやっているのよ?」

「どこへ行くのよ?」

「さっきから使っているそれはなに?」

晶たちの家から工場までは結構な距離があり、徒歩ではそれなりの時間がかかる。

明るい花柄のワンピースを着た晶はさっきからずっと質問してくるけれど、融はその質問に答えていいものか迷っていた。結果として、晶を無視し続けていることになっている。

(気まずい。さっきからどんどん視線が厳しくなっていく気がする)


そろそろ昼食の時間になる。

「お昼ご飯食べながら話そうか」

融の提案に晶はうなずいた。


スラムから通りを三つ移動した辺り、観光客も利用する飲食店街があった。地元の名物を扱っている店、若い観光客を意識したおしゃれな店が立ち並ぶ中、融が選んだ店は人気のない古びた食堂だった。

(工場の秘密について話すのだから、あまり人のいない店がいい)

晶は、えっ!この店なのって顔をしていた。


人間の店員がわざわざ注文を取りに来るのも観光地らしい光景だった。

晶は野菜炒め定食、融はチーズハンバーグ定食を頼んだ。

料理を食べながら話す予定だったのに、晶の野菜炒め定食が早く来てしまったので、待っている間暇な融は工場について説明して時間を潰した。

自由連合系の企業の犯行であるという情報は、大事なことなので何度も繰り返し説明した。

「まだ、可能性の段階なのでしょ?」

晶が食べ終わったころに、チーズハンバーグ定食が運ばれてきた。

(歴史的事実だから、ほぼ確実に起こるけどね)


これから、人型ロボットや改造人間のための化学薬品製造で、この辺り一帯の地域が薬品製造過程の廃棄物によって汚染されると説明しても、晶の顔に危機感は無い。ピンと来ないみたいだ。

融が今やっていることは、国の調査機関に依頼するための下調べの段階だと言ったから、融の説明が真実なのか、当てにならないという印象を受けたのかもしれない。

 

(チーズハンバーグ美味い。ヘンな名物料理とは段違いだ!)

他の店には、地元の鮮やか過ぎる魚に、デッカイ蟹、見たことないフルーツなどのあやしい名物料理の広告写真の看板があった。

鉄板の上に、焦げ目が付いて溶けたチーズと、たっぷりかかった酸味のあるソースが混ざり、肉汁たっぷりのハンバーグに合う。

説明も終わったことだし、融は黙々と口に放り込む。


晶と目が合った。


(お前は僕のこと待たずに、さっさと食べただろう!やらんぞ!)

融がフォークを置いてコップの氷水を口に含んだ。

ヤツの箸がすっと伸びて、切り分けていたチーズの良く絡んだ肉片を奪った。

(持っていかれた!)


「うん、おいしい。一切れもらうわね」

(しかも事後承諾!)


奪われた悲しみを振り払うように、近くの別の店でソフトクリームを買ったら、またパクリと奪われるのだった。

(チクショー!!)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ