038 弱肉強食の世界
年齢、顔の傷やヒゲの有無などの違いはあるけれど、その顔に間違いなかった。
(そういえば、勇助がテロリストになった理由は確か、妻が工場による汚染で殺されたから、だったはず。
ということは、工場が稼働すると月城晶の姉が死んでしまうのか。
月城晶が裏切った理由も、そのことが原因なんじゃないかな?
でも、月城晶にそんな親族がいたなんて歴史に残って無かった。
ただの同姓同名、他人の空似ってことは無いだろう。
おそらく、月城家が自分たちに不利な情報を抹消してしまったんじゃないかな?
歴史を隠蔽するな!僕が困るじゃないか!)
勇助から宿泊を勧められて、晶は断るように目でうったえかけていたけど、融は情報を得るために、ご厚意に甘えることにした。
晶は不機嫌そうな顔になったけど、融は引くわけにはいかなかった。
(歴史の当事者が集まっているのだ。きっと何か変えることができるはずだ)
「よーし、晶が久しぶりに帰って来たんだ!今夜はバーベキューにしよう!」
そう言う勇助に連れられて、融は肉屋へ買い物に来ていた。
下町の肉屋って感じの店だった。でっぷり太ってお腹の出たおじさんが、切り盛りしている。
勇助の買い物は豪快だ。鳥豚牛をキロ単位で買っていく。ドンと袋に詰められて、大量に買った分値引きしてもらっていた。
融も荷物持ちを手伝う。
(肉が重い)
勇助は融が持つ重さの倍以上の荷物を軽々と運ぶ。
アパートの庭にバーベキューの準備ができていた。
炭に火を起こして、日が暮れはじめたころ、肉を焼き始めた。
スパイスの粉末をたっぷりとまぶして、塩で味をつける。
その肉の塊を網で焼き、表面にしっかり焼き色が付いたら出来上がりだ。
骨を持ってかぶり付く。
肉から透明な肉汁が滴り落ちる。
(それにしても、こいつら何処から集まってきやがった?)
庭でバーベキューをやっていると、近所の住民が集まってきた。
勇助たちに挨拶して、酒を持ちより、一緒に食べる。
早い者勝ちと言わんばかりに次々と焼き上がった肉が無くなっていく。
(あ、僕が大事に育てていた肉が!!)
近所の子供に融は肉を奪われた。
(クソ!こんな大雑把な環境で育ったから、晶も僕の肉を盗るという暴挙を平然と行っちゃうような、お子様になってしまったのだ!)
観光地での、地元住民との心温まるふれあいが終わった。
結局、融が食べられたのは、初めに食べた肉だけだった。
(次は必ず勝ってみせる!)
弱肉強食、野生の世界だ。満腹になった肉食獣たちを見ながら、融は心に誓った。
近所の飢えたハイエナどもが帰ってから、片づけをしている泉に、融はそれとなく工場いついての情報を聞いてみる。
「何の工場かわかんないけど、大体完成しているみたいよ。この辺りはまだロボットでの自動化が進んでいない地域だけど、若い人が多くて余っているから、職場が増えるのはいいことよね」
融が、その工場は完全全自動の工場で地元民を雇うことは無いと教えると、それは残念ねと言っていた。
地元住民はたいして情報を知らされておらず、関心が薄いようだ。
夕食後、美涼たちから連絡があった。
ホテルの食事は大変豪華だったらしい。おいしく食べているみんなの映像つきだ。
(別に、悔しくなんかないぞ!)
夜、融は晶と一緒の部屋で眠ることになった。
泉が、お友達と一緒の方がいいでしょうと言って決まった。
男子女子とはいえども、まだまだ子供なのに、晶は融をものすごく警戒している。
融と晶の間にはテーブルやイスで境界線が引かれた。
(なんで、僕がこんなに過剰な警戒されなきゃならんのだ)
深夜、遠くで発砲音が聞こえた。
やっぱり、ここは治安が悪い。




