036 再会
晶が無人タクシーを降りた場所は、一見のどかで治安が悪そうに見えない。
(コンクリートの壁にある凹み、なんだか怪しいぞ。ためしにメガネ型情報端末に分析させてみよう)
メガネ型情報端末の分析で弾痕と判別された。ハンドガンの種類まで特定しようとしていたのを中断する。
(こわい、こわい。やっぱり、ここは危険地帯だ!)
融はコソコソと建物や看板の影に隠れながら月城晶を追跡する。
晶が鉄筋コンクリートの古い二階建てアパートに入っていく。
首にかけていたチェーンを手繰り、服の中から鍵を取り出して、手慣れた様子で鉄製の扉を開けた。室内へ入ってしまった。
看板の影に隠れて、晶が出て来るのを待つ。
十分待つ。
三十分でも待つ。
とにかく待つ。
「ちょっと、商売の邪魔になるから、かくれんぼならどっか余所でやってくれないかな?」
店の奥から細目の若い女の店員さんが出てきた。民族衣装をアレンジした様な店の制服を着て、長い髪を後ろにまとめている。
「ここは何の店なの?」
待ちくたびれた融は店員さんに聞いてみた。
「君が隠れているそこの看板に書いてあるでしょう。干物とかを売っているお店よ。一番人気はビーフジャーキー。
一口食べてみる?」
試食用らしい皿に盛られている中から、一切れとってじっくり見てみる。
(まだ工場は稼働していないはずだけど一応検査してみるか)
その食品が、安全に食べることができるものかどうか。判別する検査機器はしっかりした物だとかさばる。業務用の中には自動車より大きい物まであった。
だから融は修学旅行のために、持ち運びに便利そうな小型の物を探すことにした。
ネット通販で情報端末に組み込むだけの物が販売されているのを発見する。情報端末に内蔵されているセンサーを利用することで、ここまでの小型化が可能になったと宣伝してある。
値段は高かったけれど、性能は十分だった。
対象の食品をメガネで見ることでセンサーがその対象を認識する。情報端末を操作し分析させると安全かどうかが表示される。
薬品による汚染、腐敗、毒キノコかどうか、毒物が混入されているかどうかなどなど、食の安全をしっかり確認できる。
(校庭に生えている雑草まで判別できて、食用可能か表示されるとは思わなかった。予想以上に高性能だ)
ビーフジャーキーは安全だと表示された。
融は安心して口の中へ入れた。
「めちゃくちゃうまい!味にすごく深みがある」
「でしょでしょ。君にはまだわかんないだろうけど、お酒にも合うのよ」
融がもう一切れ食べようとすると、スッと皿が引込められた。
「はーい。もう味見は十分でしょ?後はお金払って食べてねー」
融は店員に聞いてみた。
「干し肉はモラヌランガ自治区の名物なの?」
「そうよ。それなりに有名なんだから」
「じゃあ、お土産として買いたいのだけれど、この店って商品の配送も受け付けてくれるの?」
「別料金がかかるけど、やっているわよ」
「じゃあ、五十袋ください」
「え」
店員のおねえさんは驚いていた。
(いや、家の使用人だけじゃなく、母さんの部下さんたちの分もお土産を買った方がいいのかな?)
「やっぱり、あと五十袋追加で」
「日持ちする物だけど、そんなに、大丈夫なの?」
「家族の職場の人とかへのお土産にしますから大丈夫です」
実家の宛名は代表して穂積さんの名前を書いた。
倫の部下さんたちへは、皆様でどうぞと書いた手紙を入れて、母親倫の名前で国境基地宛にした。あれでも一応秘密基地なのに、普通に郵送できるらしい。
お土産の箱詰めの宛名を記入し終えた。
まさかここまで売れると思ってないかった店員さんは上機嫌だった。
「あと、自分用にも買うから、一つ。いや、二袋ください!」
袋を開けて、ビーフジャーキーをかじる。
もぐもぐと噛めば噛むほど口の中に味が広がる。
(あれ、何か忘れている気がする……。あ)
融が月城晶の監視を、きれいさっぱり忘れているのを思い出した時。
「姉さん!久しぶりに帰って来たわよ。
あっ!」
店にやってきた晶と、融が出会った。




