035 逃走と追跡
モラヌランガ自治区まではリニアモーターカーで車窓からの風景を見ながらのんびり観光気分で移動する。
駅は無人だ。この時代は駅や車内の無人化が進んでいる。
この駅は、融がいた未来では、戦争により廃線になっている幻の鉄道だ。
帝国の中心部では、高級店や趣味でやっている店などでしか接客に人間を使うことはあまりない。学校と同じようにロボットが店員をやっている。
人間に接客してもらうというのも旅行の醍醐味なのだ。
モラヌランガの駅から、クラスごとに観光バスに乗って移動する。途中のトイレ休憩をはさみ、バスは観光地の中心部へ向けて走り出した。
乗車している生徒が一人少なくなっていることに気付かずに……。
「ふう、何とか上手くいったな」
融は一人でバスからこっそり降りていた。
トイレ休憩の後、バスの中で一応全員乗っているか確認された時、手を上げて担任教師に顔を見せ、返事をした。
実は、顔は人工皮膚で作った融の顔の形をしたマスクだ。融が改造したおもちゃの3Dプリンターで作ったにしては良くできている。友人たちみんなでいろんな顔を作って遊んだ。
融マスクは体格が似ている鏡子に被ってもらった。代返は、美涼のものまねだった。……がんばって似せようと努力はしていた。
ちなみに、それぞれの生徒が所持している情報端末で位置情報が表示されるが、融は普段使っているメガネ型とは別に腕輪型を学校に登録して偽造した。その腕輪型端末は進馬に身に付けてもらっている。
鏡子に身に着けさせると、万が一女子トイレにいるときに位置情報を確認されたら、別の問題が発生してしまうからだ。
(修学旅行を抜け出したいという相談は、もっと反対されると思っていた。
それなのに、美涼が全部私に任せなさいと積極的すぎるくらい協力してくれた。
何か裏があるんじゃないかと不安になるくらいだった。
美涼に詳しく聞いてみたら、初等科の修学旅行を抜け出して一人旅をしたがる生徒が、必ず数名出るらしい。美涼が、お兄さんや親戚に修学旅行に行く話をしたら、自分たちの武勇伝を語りだしたとか。
毎年の恒例行事だとまで言われた)
「大体の生徒が途中でばれて、捕まっちゃうんだけど、兄貴たちが考えた完璧に最後までばれないやり方を教えてもらってくるわ。
途中で怖気づいて逃げるんじゃないわよ!」
(大抵が、リゾートにある自分たちの別荘で自由に過ごすらしいから、僕もそうだと思われているのかな?
僕は観光地から遠く離れたスラムまで行くのだけれど、黙っていよう)
宿泊先のリゾートホテルから抜け出すよりも、こうやって途中で下車して逃げだした方が成功率は高くなるらしい。
融は美涼から指示された古着屋に立ち寄った。
店内には接客用のロボットがいるだけで、人の姿は無い。
(治安が悪い所に行くから、出来るだけボロイ格好をした方がドロボウやスリに狙われなくて済むかな?)
融は少しくたびれた感じの地味な子供服を選んで着替えた。帽子とバッグもここで買った。
無人タクシー乗り場へと向かうと、そこに融の予想外の人物が立っていた。
(何でここに月城晶がいるんだ!)
融は帽子を深く被って、物陰から様子をうかがう。
ただでさえ美少女なのに、学校の制服姿のままの月城晶は非常に目立つ。
無人タクシーはすぐに来て、晶が乗り込むと何処かへと発車した。
(もしかして、ここが歴史の転換点なのか!
月城晶の裏切りは高等科でだと思っていたけれど、本当は初等科の時から裏切って内通していたのか?スパイか?
工場の件もこいつの仕業なのか?
見失ってしまう前に、とにかく追わねば!)
融は次にやってきた無人タクシーにすばやく乗り込んだ。
「前のタクシーを追ってください!」




