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032 モラヌランガ自治区の未来史


(六年生の学校行事、修学旅行は夏休み前に行われるらしい)

旅行先、モラヌランガ自治区。


通知された修学旅行先を見て、融は恐怖を感じた。

(なんでわざわざ危険地帯へ金払っていかにゃならんのだ!)


しかし、クラス全体の反応はワクワクしていた。


元々は、自由連合に所属していた敵の領土で非超能力者地域だったのに、今、融がいるこの時代から五十年以上前に戦争でゴタゴタしている時に帝国領に取り込んでしまったのだ。


元敵国という政治的な理由や、民族的な理由、文化、超能力などなどの理由からある程度の自治が認められている。

しかし、あくまでも今は帝国領。教育、言語、法律、政治などは帝国側のルールになっている。


モラヌランガ自治区で一番の産業は観光だ。

お手軽に異国情緒が味わえる。言葉も何の問題もなく、通貨も同じだから両替の必要もない。時差もほとんどない。それでいて、民族や文化は違う。

旅行先は自治区にあるリゾート地になっている。

青い海、白い砂浜、町の中は異国風の歴史的建造物が立ち並ぶ。

この時代、国内の観光地として一番人気な旅行先だった。




(モラヌランガ自治区が平和な時代もあったんだ。すっかり忘れていた)

融がいた未来では、モラヌランガ自治区があった場所は過激派がウヨウヨいる激戦地だ。

世界大戦がはじまる少し前に、この自治区にある化学工場の排水が原因の水と土壌汚染で、地元住民が何百人も亡くなる事件が発生した。


工場ができ始めたころ地元住民たちは新しい働き場所ができることを歓迎する。

しかし、期待は裏切られた。その時代、どの国でも起きていた問題がある。

それはテクノロジーの進歩による失業問題だった。

テクノロジーだけが急激に進歩してしまったため、職場に人がいらなくなる。人件費が下がり、雇用が失われ、格差がどんどん広がり、中産階級がいなくなり、物が売れなくなる悪循環だ。

この完全機械管理の工場も、地元の雇用創出にはつながらなかった。


自治区の住人たちが、あまり工場に対していい感情を抱いていなかった時に、水と土が工場によって汚染され、次々に死んでいく。


国の調査、対応の遅れも住民感情に拍車をかける。

機械管理の行きとどいた帝国とは違い、自治区には移民たちが勝手に街を造り上げた町がある。田舎から仕事を求めて来た者や周りの国から不法に入国して来た者もいた。中には逃亡して来た犯罪者も混ざっている。

都市計画なんてものは無く、法の監視も目も行き届かない。

工場はそんな場所にあったのだ。

自治区内の警官や政治家は賄賂で簡単に黙らせることができた。


帝国の中枢がその事実を知る頃には、もう手遅れになっていた。

もともと、戦争で帝国に取り込まれただけ。

大切な家族を失った者たちの怒りが、反乱につながった。

それから自治区内は戦場へと変わる。


世界大戦中に、とある事実が明らかになった。

モラヌランガ自治区での紛争の原因となった工場を運営していた企業が、自由連合系の企業だったということだ。

工場で作っていた化学薬品も、ロボット兵や改造人間の部品を製造するために必要なものだった。

水と土壌を汚したのもわざとで、次々と死者が出ている時も原因の謎の病であると偽の情報を流し、人々を混乱させた。


この情報は遅すぎた。

公表したところで、帝国の流したデマだとか、ねつ造だと言い訳された。

紛争地帯で戦っている者たちも、もうそんなことでは止まらない。




その時代こんな危険地帯で活躍した人物がいた。

死神と呼ばれた狂戦士、転法輪融だ。

彼がその後の歴史で、上司や部下、民間人を殺しても大した罪に問われずやりたい放題できた理由はここでの活躍があったからだと言われている。

反政府組織、テロリスト、武装した市民などなど、銃を持って攻撃してくる者はすべて容赦なく抹殺した。すべて平等。

テロ組織の指導者を殺したのも死神融だった。


死神の大活躍により一時的に治安は回復するも、その後の政治対応が悪く、中途半端な対応が結局は危険地帯に逆戻りさせる。

正義も悪も犯罪者たちの口上以外では存在せず、誰が何と戦って、何があったら勝利となるのか、誰もしらない。

武器は際限なく売りつけられ、戦場に終わりはない。

もはや勝った所で何一つとして得ることもないのに、二百年先の未来でも犯罪者同士の殺し合いが続く危険地帯になっていた。




(昔は栄えていた時代があったんだな)

融の頭の中ではその地名を聞くと自動的に危険地帯と翻訳される。


(狂戦士な融が、死神と呼ばれるようになる場所なんて行きたくないな。

今はまだ単なるリゾート地だったとしても、気分的に嫌な感じ。

……。

いや、待てよ。

今ならまだ、工場は稼働していなくて、水質汚染も土壌汚染も起きてなくて、人も死んでいないはずじゃないか?

歴史は変えられる!

今のうちに工場のことを調べて、潰してしまえば紛争は起きない!

そうと決まれば今のうちから準備しておかないと!)



融は修学旅行の準備を始めた。

しかし、その準備の内容は他の生徒たちとは大きくかけ離れたものになっていくのだった。




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