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031 片思い片思い


毎朝たたき起こされていた鏡子も、今では融よりも先に起きている。融が出て来るのを玄関先で待っていた。


(散歩に連れて行ってくれる飼い主を待つ犬みたいだ。しっぽがあったらブンブン振っているな)




「おはよう!」

「おはよう?」

「……」

融と鏡子が長年の習慣になっている朝のランニングをやっていると、元気にあいさつしてくる少年がいた。鏡子は人見知りしている。

「今日から僕も、走ることにしたんだ」

二人のペースに合わせて付いて来た。

「僕は佐々倉晴。よろしく」


晴は、二人が走り終える最後までペースを乱さず、ついて来られた。

「結構きついね。これを毎日続けているんでしょ?」

融はいつもの習慣で、走り終えた彼にもジュースをおごっていた。

「えっと、どうもありがとう」




それから、毎日彼は二人と一緒に走るようになった。

だんだんと会話が増えて行き、走ろうと決めたきっかけを話してくれた。

「じつは、学校に入学してからすぐの能力値測定で僕は四百ぐらいしかなかった。正直がっかりしたよ。

それまであった学校への期待とか、やりたいこととか、将来の夢とか遠く手の届かないものに感じちゃって、何をやるにしても最初からあきらめ半分にやっていた。どうせ駄目だろう、がんばったって無駄だって。


でも、この間のトーナメントで考え方が変わったんだ。

僕よりも能力値の低かった子が、能力値の高い相手を次々に倒していく様を見て、僕だってもっと……。

あ、ごめん悪気があっていったんじゃなくて。

え、気にしてない?

とにかくもっと強くなりたい。諦める前に行動してみよう。

そう考えていたある朝、窓の外をその子がランニングしているのが見えた。

もう、いろいろ考える前に外に飛び出して、走り出していたよ」


「で?それだけじゃないんだろう?本音を言ってみなさい。誰にも言わないから」

融は、本心を話すように促した。

晴は、はじめ否定していた。次に誤魔化して、照れて、秘密にしておくことを繰り返し念押ししてからやっと話し始めた。

「実は僕には好きな人がいるんだ。ずっと片思いで、告白しても僕なんかじゃ相手にもされない。高嶺の花ってやつだよ。本当にきれいで、強くて、やさしい人だ。

だから、少しでも相手に近づけるように小さいことからがんばることにしたのさ」


一緒に話を聞いていた鏡子が、融の肩を指先でつついて耳元で囁いた。

「片思いの相手って、美涼じゃないかな?きれいだし、強いし、やさしい。お家もお金持ちで、まさに高嶺の花」

鏡子は確信に満ちた顔をしている。

「いや、絶対に違うだろ」

波川美涼は、見た目は優しそうな顔をしているが、その中身は基本的にいじめっ子だ。見た目詐欺である。

根が悪いやつって感じだ。やさしいのも仲間内だけで、ほかの子たちには基本的に冷たい。最近可愛がってもらってばかりな鏡子は誤解している。

(おまえは、あいつの最初のいじめの標的だったじゃん)


忘れているのを、わざわざ思い出させるのもかわいそうなので、話を戻した。

「晴は月城晶に、いつ告白するんだ?」

「え、なんでわかったの!」

晴はとっても驚いていた。




融は佐々倉晴に出会ってからすぐに彼のことを調べた。

彼は歴史上の人物ではない。英雄でもなければ、裏切り者でもなかった。

彼の両親や、親戚まで調べてみたけれど、どの顔も名前にも心当たりはない。歴史に名を残さない、ただの一般人である。

ではいったい何でトレーニングを始めたのか?

融は彼のクラスに行って、様子を探った。そうすると、いつも右斜め前に視線を向けてボーっとしている。彼の視線の先に座っていたのは月城晶だった。


晴は自分の片思いの相手がばれてしまって、恥ずかしそうにしている。

「僕なんかが、あの月城さんに片思いだなんて、絶対に釣り合わないって思ったでしょ?」

「今は無理でも、いつかきっと!」

鏡子が意外にも彼を元気づけている。

「そうかな。いや、そうだよね。一歩一歩追いついていけば、いつかこの手が届くはず。少なくとも、何もしなければ絶対に届かない」


融は、いつぐらいまでに告白してみるのか聞いてみた。

(いつかではなくて、急いだ方がいい。高等科の一年までしかこの国にいない。裏切って敵に亡命しちゃうぞ)


「具体的にはいつ告白してみようとか考えているのか。初等科を卒業するまでにとか?」

「ええっ!そんなに早くは無理。

具体的な期限があるわけじゃないのだけど、ある目標を達成できたら告白しようって決めているんだ」

「目標って?」

「月城さんが、一目置いているこの学校の番長って呼ばれている人がいるらしい。あくまでも噂だから僕はどんな人かよく知らないのだけど、いつか探し出して正々堂々勝負を挑むつもり。

その人に勝てるだけの実力が付いたら、きっと月城さんにも認めてもらえる。

そしたら告白する」


(番長?)


もちろん融たちは番長の正体を知らない。彼らには絶対に知られてはならないと言われていたからだ。融がどんなに調べても真実に到達することは無い。

番長のことを噂でしか知らない晴も、まさか目の前にいる少年が噂の番長だと気づいていない。

噂は尾ひれが付いていて、当の本人が聞いてもまさか自分たちのことだとは思わないほどだった。




晴も武東鋼と同じく身体強化の能力が強く出る超能力者であることがわかった。

始めの一ヶ月は同じようなペースで走っていたのに、次第に晴の走るスピードは上がり、距離はどんどん伸びていった。

最近では、融たちと別のアップダウンの激しいコースを走っている。ゴールは始業時間の都合上一緒になる。

(このペースで強くなっていったら、意外と早く告白できそうだな)


融は友人として、せめて晶が裏切る前に晴が告白できることを祈った。








ある日のこと、たまたま融が佐々倉晴の画像を画面に表示してみていると、三崎杏菜が覗き込んできた。

「誰、そのかわいい笑顔の人?」


「!」


どうやら佐々倉晴は、三崎杏菜の好みのタイプらしい。




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