030 三者面談
今月は放課後に進路指導の三者面談が行われていた。
将来の具体的な進路を決定する機会というわけではなく、中等科でどんな選択をするか保護者の意見と、本人の希望を聞いておく。その程度の場である。
(うちはたぶん、父親もリンリンも忙しいから、代理で穂積さんが来るだろうな)
融にとっては、友人たちの親を見ることができる機会でもあった。
(進馬の母親は結構小柄だったな。あいさつもいいとこの奥様って感じだった。杏菜のお母さんは若かった。ただちょっと化粧とか派手だったな)
ちなみに、鏡子の保護者は来なかった。学校に連絡があり、本人の好きなようにさせて下さいと言うだけだったとか。
月城家や波川家、転法輪家は最終日の今日にまとめて行われることになっていた。
この国のお偉いさん、代表会議のお家は特別扱いである。
予定時刻の十分前、でっかい高級車が二台競うように玄関横づけにして、二人の母親が降りてきた。
親を待っていた晶と、美涼が駆け寄っていく。
「お母様!」
明るめのドレスを着ている少しふっくらした女性が月城晶の母親だった。彼女は黒髪で晶とは顔も似ていない。養子である晶とは血はつながっていないけれど、抱きついた晶を優しくなでる姿は十分母親だった。
「ママ」
真面目そうな印象を受けるスーツを着た女性が波川美涼の母親だ。美涼と顔や雰囲気がよく似ている。見た目はとても優しそうだ。きっと内面も似ていることだろう。
月城に波川、二人の母親もやっぱり仲が悪いらしい。お互いに目を合わせず、挨拶もしない。空気がピリピリしている。出迎えている担任と校長もその空気にのまれていた。
お互いがお互いの存在を無視して、親子での久々の会話をしている。
無視し合っているのに、親子の会話の端々に相手を挑発する言葉が混じっている。そういう相手をけなす言葉の時だけ大きな声で相手にも聞こえるように話していた。
(親子そろって、こわい)
教師たちが早く面接を始めたくても、まだ玄関から動かないのは融の保護者が来ていないからだ。
(おかしいな。確かに連絡したはずなのに。穂積さん遅いな)
融が確認の連絡をしても、なぜかつながらない。
時間が予定時刻ちょうどになった時だった。
ジェットエンジンの轟音がして、戦闘機が校庭に垂直着陸した。
中から軍服を着こんだ人物が颯爽と現れ、愛するわが子の名前を叫んだ。
「とおるー!」
着陸した戦闘機から、最愛の息子のもとへ駆け寄ったのは融の母親、転法輪倫だった。
「あなた、国境の防衛任務はどうしたの!」
月城お母様が倫を問い詰めると、悪びれもせず倫が答えた。
「いやだって、私、母さんだし。息子の将来を第一に行動したまでよ。母親としては、当然の選択でしょ」
倫は母親という言葉を強調して、融にも自分の愛情をアピールする。
「そう言うことを聞いているんじゃありません」
「はいはい、チョットくらい大丈夫だって。この間ボッコボコにしてやったんだから、しばらくは大人しくしているでしょ」
波川ママが叱りつけるように尋ねるのを聞き流して、融を抱きしめた。
「融!元気にしていたか?穂積に任せずに、文字通り全速力で飛んで来たぞ!
あ、こっちのかわいい子たちが融のお友達かな?
懐かしいね。まるで私たちみたいじゃないか」
子供たちが首をかしげていると、倫が説明する。
「私たち三人ともこの学校の同級生なんだよ。いやー二人とも相変わらず仲がイイね。ちょっと老けた?二人ともいくつになったんだけ?」
「同級生なんだから、同い年に決まっているでしょう!」
「学生時代から全く変わらないあなたが異常なんです。この妖怪!」
逆鱗に触れられて怒鳴る母親二人を無視して、晶と美涼にいろいろ話していた。
「これからも、うちの融となかよくしてやってね☆」
三者面談では、倫が急に真面目な顔をして担任に融の進路を一方的に話していた。
紙の束に、融が高等科卒業後、軍隊に所属しながら倫の後を継ぐためのパーフェクトプランが出来あがっていた。逃げ道を塞ぐ気満々である。
(僕に進路選択の自由がない!)
担任はまだまだ先の話なので、親子でよく話し合うように言っていた。
翌日、倫は楽しそうな声で、衣寅にその日のことを連絡した。
「でね、衣寅の三者面談にも…」
「僕の時は、父さんに来てもらうから。絶対に来ないでよね。それと兄さんに迷惑かけるなよ」
融に甘えている時とはまるで別人な冷たい声で、一方的に通信は切られた。
「………………」
転法輪倫の心が死んだ!!
その日、敵軍、そして基地の部下たちにとっても地獄が待っていた。
完全な八つ当たりであった。
世界よ、滅びろ!
三日三晩、戦場で暴れ回った後、冷静さを取り戻した倫が、執事を通して融に連絡を取った。
「本当に、融は迷惑じゃないって、言っていたんだよね?ね?ねぇ?」
その後、融に直接連絡して優しい言葉をかけてもらい、倫の心はやっと復活したのだった。




