029 トーナメント
六年生になってすぐの格闘訓練で、六年生徒全員参加のトーナメント形式の試合が行われた。
ほかのクラスもやっぱり第一人気は剣で、槍を選択した生徒の人数はやっぱり少ない。三回戦を勝ち抜いた槍選択の生徒は融だけだった。
試合場所はいつもの訓練場ではなく、コンクリートの柱やドラム缶、障害物や石がゴロゴロしている野外訓練場だった。
(お互い正面から構えるような試合じゃないから、小回りが利く剣の方が有利なのか?)
次はナイフを選択した鏡子と、剣を選択した美涼の試合だった。
鏡子の実力を知らない美涼はもう勝った気でいる。
「どっちもがんばれー」
進馬と杏菜が声援を送っている。
試合は一瞬で終わった。
「あれれ?え?」
うつ伏せに倒され、腕の関節を決められた上にのど元にナイフを突き付けられている。
美涼の完敗だった。
「融、絶対に勝ちなさいよ!鏡子も私に勝ったのだから、優勝しなさい!」
格下と思っていた相手に瞬殺された美涼の機嫌はすこぶる悪い。
「やるだけやってみるけど、相手が悪いよ。まあ、がんばってみるけど」
融の相手は月城晶だった。
「うん、がんばる」
鏡子の相手は武東鋼だ。
融と晶の試合が始まった。
晶の武器は剣だ。
(正面から行って勝てるか微妙だな)
融はこれまでの月城晶の試合をこっそり偵察していた。
(小細工なしで、槍が相手だろうが真正面から正々堂々と勝利する。剣の腕も天才だなんてどこの主人公だ!)
確実に勝利するために、融は開始早々柱の影に隠れた。
(フッフッフ、こっそり背後からブッすりヤッてやる)
晶は剣を隙なく構えて、融を探し始めた。
格闘技の試合というよりも、かくれんぼの真剣勝負になっていた。
融は足元に落ちていた石を拾って、晶の背後の木箱にぶつける。
「そこか!」
音のした木箱を晶の剣が斬り刻んだ。
融はその隙に別の柱の影へと隠れた。
(バカめ!まんまと引っ掛かったな)
融は楽しそうだった。
そんな感じで地味な心理戦が続き、試合時間がこの日の最長時間を越えた。
(マズイ。月城晶が障害物を片端から斬り刻むから、隠れる場所がなくなっていく。全然構えが崩れない。集中力がよく続くな。そろそろ勝負をつけるべきか?)
融はコソコソと移動して、晶の真後ろにあるコンクリートの柱へと移動した。
(槍先に意識を集中しろ。次の一撃で決める!)
柱を中心にして、晶にばれない様に回り込んだ。
(くらえ!将来裏切られる僕のぶんだー!)
晶の背中に槍が伸びる。融の存在は気付かれていない。
ビーーっとブザーが鳴った。
「転法輪融、超能力使用の反則のため、勝者月城晶!」
「え!?」
「はい?」
振り返って融の存在に驚いた晶と、何で負けたのかわからない融だった。
審判が駆け寄って来きて、融の槍を手に取った。
「首にある超能力使用のセンサーに反応がありました。やっぱり超能力によって槍が曲げられています」
金属製の槍が曲がっていた。円柱状の柱の影からばれないように突き刺そうとした時、無意識で使ってしまっていた。
「バカ、あなたってバカね」
美涼の顔が生き生きしている。いじめの標的を見つけた時の顔だ。
「はいはい。次の鏡子の試合が始まるから移動しようね」
進馬が、反則負けで落ち込んでいる融の背中を押して、その後をバカバカ言いながら融に追い打ちをかける美涼と、鏡子の試合の応援へと向かった。
雪村鏡子と武東鋼の試合は、ほかの試合とレベルが違った。
身体強化の才能を持つ武東鋼の攻撃速度は、子供の目では追えない。
さらに、柱を駆け上り、柱から柱へ跳び移って、前後左右だけではなく、上からという三次元の攻撃を仕掛けている。
そんな猛攻でも試合がまだ決まっていないのは、鏡子がその攻撃を受けきっているからだ。
速さと体重が乗った上からの剣激の衝撃をナイフでいなし、また、紙一重でかわし続けている。
「月城晶の親友、武東鋼の運動神経は聞いていたけど、うちの鏡子はいつの間にあんなに強くなったのかしら?体育の成績からは信じられないわね」
美涼は融の脇腹を肘でつつく。
(未来の英雄だからな!)
そう答えても信じてもらえないので、普段からコツコツがんばっていたからと説明したら、美涼から胡散臭いものを見る目で見られて、ふーんと言われた。
刃と刃のぶつかり合う火花が飛ぶ。
互角に見えるけれど、武東鋼の方が攻め続けていた分、有利だ。
最後は決め手に欠ける鏡子が受けきれなくなって勝負が付いた。
二人とも汗だくで、疲れきっていた。
このまま武東鋼が優勝すると誰もが思っていたけれど、次の試合であっさり負けた。
「もーむり。つかれたー」
トーナメントの優勝者は月城晶だった。




