028 作戦の裏側 暴走編
「隊長、落ち着いてください。自分の家で息子に会うだけなのに、なぜそこまで緊張しているのですか?」
「そうですよ隊長、いつもどおりでいいんですよ」
本多と津國が尋常ではない様子の自分の上司を落ち着かせそうと声をかけた。
「いつも通り。……。よし、これから突入する、準備しろ」
「はぁ?何言っているんですか!?ここはあなたの家ですよ」
宮本が、極限の緊張状態で暴走している倫を止めようとしたけれど、無理だった。
「これは命令だ!」
窓から部隊を突入させて、テロリストを確保する勢いで自分の息子を連れてきた母親、倫は絶好調だった。
普段の冷静沈着な隊長とはまるで別人だ。あまりの変化に部下たちは目が離せない。
幼い少女が友人のクマのぬいぐるみを大切に持ち歩く様に、融に抱きついている。
「だめだこりゃ」
廃棄都市に到着した。計画を進めるために、融から離れてビルの屋上でその姿をモニターする。
ここまで登って来いと言う命令は、子供には出来るわけがないと確信した上で出した課題だ。
敵ロボットを誘い出すうえで、融に超能力を使わせる必要がある。
隊員たちのように屋上まで登って来るのは、高等科の生徒でも難しいのだ。
融が金属製のパイプを曲げて、梯子を作り始めた時、隊員たちは警戒した。
もし融が登って来るのを成功させてしまったらどうしようかと思っていた。
「うわ、ロボットは人型ですよ。早めに助けに行かないと危ないんじゃないですか」
津國は焦っている。量産機とはいえど、人型のロボットは危険だ。軍でも一人で遭遇した時は決して戦闘しない様にと言われているほどだ。
「もう少しだけ待っていてください。融君にはもう少し恐怖を味わってもらわないと。まだ大丈夫ですよ。格闘訓練用プロテクターも身に着けさましたから、怪我もしないはずです」
計画を立案した本多が引き止める。
「私たちがこうやって見ていたことがばれたら、絶対に嫌われますよ」
宮本は頭を抱えていた。
すぐに逃げ出すだろうと考えていた本多たちの予想を裏切り、融は人型ロボットと戦っていた。
「うわっ!すごいですよ、あの子!超能力で自動車を持ちあげましたよ。本当に初等科なんですか」
そろそろ助けに行こうと考えていた本多も驚いている。
「いい線いっていますよ、もしかするとこのまま勝っちゃうんじゃないですか」
「いいや、決め手がない。ほら、やっぱり逃げ出した」
宮本が言った通り、融は攻撃をやめて、梯子に登り距離をとっている。
「隊長、そろそろ助けに行った方がいいんじゃないですか」
本多が促しても、倫は動く様子が無い。
「…………」
ロボットのレーザー光線で梯子が焼き切られた。
「まずい!」
地面へと落下する融を助けようと、津國が立ちあがった。
「……」
走り出そうとした津國の腕をつかんで、倫が引き止めた。
倫は融が映っている画面から目を離さない。
津國は驚いていた。
落下のスピードを利用して、融が槍でロボットを刺し貫いている。
「すごい」
「いや、だめだ。あのタイプは頭を壊しても止まらない」
宮本は戦闘を冷静に見ている。
宮本の言う通り、油断していた融は殴り飛ばされてしまった。
「隊長、そろそろ助けに行かないと!」
「まだだ。あの子はまだ戦える目をしている」
本多が心配していても、倫はまだ助けに入るつもりが無いようだ。
融が自身の超能力を使って、金属を曲げる。作り出された異様な武器は、死神みたいな大鎌だった。
「本当に、勝っちゃった……」
津國たちは驚いていた。人型に一人で戦った子供が勝利したのだ。
「宮本、融を助けに行ってくる」
驚いて固まっていた三人を置いて、倫が屋上から跳び下りた。
人型に限らず、敵のロボットは超能力によって破壊されると一斉に起動するようにプログラムされていることが多い。
監視画面を見ると、倫が襲いかかったロボットたちから融を守っている。
「私たちも行かなきゃ」
津國たちも屋上から下りて、倫の戦闘の邪魔にならないように融を保護した。
津國が融を抱える。そこにいたのは、小さな子供だった。
その後の計画は、大きく変更された。
倫が母親として、息子の融に手取り足とり教えて親密度をアップさせる予定だったけれど、初等科なのに人型ロボットを撃破するような子供に、これ以上訓練させる必要性を誰も感じなかった。
プランBに移った。
倫と融を二人きりにして、三人の部下がそれを影からサポートするというものだ。
融の前で敵を倒したハイテンションのせいで、暴走状態の上司を抑えるのは大変な任務だ。
スキンシップだ!と突撃するのは、結局止められなかった。
今は、倫たちがいる部屋のすぐ隣の部屋でモニターしている。
倫の耳に仕込んだ超小型通信機で、的確なアドバイスをする予定になっていた。
全然交流の無い倫と融に共通の話題は無い。部下三人の必死で、手探りなサポートは迷走していた。
「思春期間近な男子に、母親が恋バナさせるってどうなの?」
「とっさに話題が思いつかなかったんだから、仕方がないでしょう!」
「開始してすぐに、しりとり始めさせようとするお前よりはましだよ!」
明かりが消えてからは、倫が徐々に慣れてきて部下の助言がなくとも自分で会話できるようになってきた。
緊急の通信が入ってきたのはそれからしばらく経った時だ。
「……敵が、基地に向けての攻撃を始めたとの通信が入りました」
「そんな、やっと自然に話せるようになって、これからって時なのに」
三人は、このことを倫に伝え、ここから基地へと急ぎ戻らねばならならなかった。
「すみませんでした」
宮本は、倫に頭を下げた。
融のことは転法輪家に連絡をして、執事に任せることになった。
倫たちはすでに輸送機に乗り込み、基地へと帰っている途中だ。
「お前たちが背中を押してくれたおかげで、融と親子に戻れた。ありがとう」
倫からの感謝の言葉で、機内は感動に包まれていた。
基地に到着するまで、まだ時間があった。
「そうだ、融と仲良くなれたのだから、衣虎とも仲良くなれるはずだ。さっそく行動しよう」
「え、隊長、それは待った方がいいのでは?」
宮本は倫を止めようとした。
今回の作戦が成功したのは奇跡だった。融だったからこそ成功したと言っても過言ではない。
普段は冷静沈着な上司なのに、息子が絡むと人格が変わる。
「大丈夫、大丈夫。私はもう母親としての自信を取り戻した。
もしもし、衣寅?母さんだよ!」
初めは笑顔だった倫の表情が、だんだん暗くなっていく。
「うん、うん、ごめん。わかった、気をつける。うん、それじゃあ……」
一分にも満たない通信時間で、すっかり元気が無くなった。
「名乗ったら舌打ちされて、無理矢理融を連れて行ったことを怒鳴られて、真夜中に連絡したことを叱られた。
何時だと思っているんだ、常識がない、正気を疑うって言われた。また今度連絡するって言う前に切られた……」
基地に到着するまで、倫は誰とも口を利かなかった。虚ろな目で、窓から夜の闇を見ていた。
「このタイミングで敵が攻撃を仕掛けてきたことは偶然ではあるまい。
私が不在だったことを知っている者が、敵に情報を流したのは間違いない。必ずスパイを探し出せ。絶対に逃がすな。
私の喜びの時を奪ったことを後悔させてやる」
輸送機を降りてすぐに、倫が出した命令がそれだった。表情が普段戦っている時よりも険しいものになっている。
転法輪倫の心は、まさに手負いの獣だった!
その夜、裏切って敵とつながっていたスパイ、そして進行して来た敵軍も、手負いの獣の恐ろしさをその身を持って味わうことになる。
がおー。
倫は心の傷を癒すため、近いうちに融に会いに行こうと誓うのであった。




