027 作戦の裏側 計画編
毎年、年末になると敵の攻撃がなくなる。
今年もそうだった。
そんな暇で平和な時期に、必ず機嫌が悪くなる人物がこの基地にいる。
この国のトップ、代表会議の一人で、この基地の最高責任者でもあり、同時にこの基地の最強戦力でもある超能力者だった。
転法輪 倫。
長年彼女を支えている部下たちからは隊長と呼ばれて、大変恐れられていた。
戦場でしなければならないことが山積みの時は、常に冷静でその時必要な最善の判断をする優れた指揮官であるが、暇な時は部下に対して無口で不機嫌だ。
そんな彼女の心安らぐ存在が家族である。
「隊長の旦那さんは、今年は来ないんですか?」
そう言ったのは、倫の部下の一人津國だ。
彼女は身体強化型の超能力者で、倫の護衛役でもある。この場にいる三人の中では一番若く、階級も低い。尊敬する上司は転法輪倫。
「どうしても無理だったようだ。例年忙しい合間に無理矢理時間を作って、この基地までやって来る。そもそも料理人としても、会議の代理人としても多忙な人なんだ」
津國の質問に答えた女も倫の部下だ。宮本という名前で参謀兼お目付け役だ。クールそうに見えるけれど、倫の友人でもあり、面倒見がよい。趣味は水泳。
「じゃあ、今年は荒れるな。私まだ死にたくないなー」
これから起きることを考えると津國は憂鬱だ。
「待て。諦めるのはまだ早い。隊長には二人の息子がいたはず、夫の代わりに彼らに慰問に来てもらえばいい」
提案したのは、同じく倫の部下で情報担当の本多だった。三人の中では一番の年上ではあるけれど、年齢は二、三歳しか離れてない。特技、酒。
「弟の方とは関係最悪らしいぞ。二度と会いたくないって言われたってこぼしていたから」
上司の愚痴を聞くのも宮本の仕事の一つだった。
「じゃあ、兄貴の方はまだ可能性あるってことですか」
津國の目に希望の光が宿った。
「ちょっと調べてみる」
本多が情報端末を使って、転法輪家の長男についての情報を検索する。
「でも、上の子とは弟よりもさらに長い間会っていないらしいぞ」
「じゃあダメなんですかね」
宮本からの情報で、津國はがっくり落ち込んだ。
「学校のデータベースにアクセスした。情報出すよ。
能力値はさすが隊長の息子って感じだね」
「頭もいいな」
「でも、能力訓練の自主学習の出席率はかなり悪いですよ。週に一回、悪い時は三日に一度はサボっています」
「学校の裏サイトにもいろいろと書いてある。五年生で番長って呼ばれているのか。さすが隊長の息子」
「常に女の子をはべらせている。女子寮に出入りしている。本当かこの噂?」
「…………」
「かなりのワルですね」
画面の覗き込んでいた津國は気づくのが遅れた。
宮本と本多は、自分たちの背後にある気配に気づいてフォローしてみる。
「いや、いいと思うよ。子供は腕白な方がいい」
「わ、私もそう思う。元気ないい子だよ」
「どうしたんですかみなさん、さっきまでと言っていることが全然ちが……!」
部下たちの後ろに殺気をまとった鬼、いや転法輪倫が立っていた。
「私の息子が悪の道を歩んでいるなんて、知らなかった。真面目に素直に育っているものと信じていたのに」
「最終兵器とも呼ばれた隊長が泣きそうになっている!」
拳骨されて涙目になっている津國が、何事にも動じないと思っていた隊長のまさかの反応に驚いていた。
「そうだ、隊長。この基地に息子さんを呼び出してみたらどうですか?今の時期なら敵からの攻撃はありませんよ」
津國が一石二鳥のアイデアを提案する。
「会いたい。けど、私がお願いしても融は来てくれないと思う」
転法輪倫の表情は暗い。
宮本は溜息をついた後、覚悟を決めた顔をして言った。
「会いたいのなら、こちらから会いに行けばいいのですよ。母親ならば遠慮する必要はありません」
「駄目だ、そんなことはできない。私にはこの基地で戦う任務があるのだ」
「どうせ今年の年末もきっと、敵は攻めて来ませんよ。自分の子供に合うのが怖いだけなのでしょう?」
「……」
「ちょっと考えてみたのですけど、いいですか?」
本多が手を挙げて発言の許可を求める。黙ったままの倫の隣で、宮本が頷いて許可する。
「隊長は、私たちにとって尊敬できる上司です。いえ、お世辞ではないですよ。
だから、家庭ではなく、仕事をしている姿を見せれば、御子息も尊敬してくれるようになるのではありませんか?」
「でも、今の時期敵は攻めてきませんし、攻めてきている時に連れて来るのも危険すぎるのではないですか」
津國が本多に質問した。
「そこもちゃんと考えてある。
この基地と転法輪家の中間地点に、廃棄都市があるだろう?
ここで、自由連合系の企業が工業廃棄物に偽装して量産型ロボットを配置しているのが調査の結果わかった」
本多が、資料を大画面に展開する。
「本来なら中規模ロボット部隊を派遣する程度の事案だけれど、それを名目に私たちが出動、それの解決に当たります。
大活躍する隊長の姿を融さんに見せつけると言うわけであります」
「それなら、融君が襲われているのを助けると言う展開はどうでしょう?
危機に陥った所を颯爽と助けに現れるヒーロー!好感度爆上げ間違いなしです」
津國がさらに自分のアイデアを本多の提案にプラスする。
「融さんを呼び出す名目は、サボっている息子さんを更生させるため、とか適当なのでいいですかね?
隊長が助けた後であれば、隊長直々の指導にも素直に従って、新密度もさらに上昇です」
津國の思いつきに、本多がさらに乗っかった。
本多と津國の提案を聞いて、転法輪倫の頭の中には息子である融との理想的な家族関係が妄想されている。
倫はその幻想に逆らえなかった。
「……計画を実行に移せ!」
「了解!」
「自作自演って、もしばれたら軽蔑されるんじゃないか?」
宮本だけは、このいいかげんな計画に不安を抱いていた。




