018 不良少年たちのリーダー格
メガネ型情報端末が強いストレス反応を検知。
融は立ち上がった。
今日の放課後は、融たち五人で勝手に決めた能力訓練の自習お休みの日だった。鏡子は担任の先生から頼まれて、上級生のクラスへ他の先生を呼びに行っている。
みんなで教室に集まってから一緒に帰り、それから寮で練習方法の話し合いをしようと鏡子の帰りを待っていた。
融のメガネに表示された反応は、鏡子に常に身につけさせている腕輪型情報端末に仕込んだ発信機からだ。いじめっ子に目をつけられやすい鏡子のために融が考えた物だ。
融が前にペットショップで買った、ペット用の首輪に付いていた発信機。位置情報だけでなく、発汗の有無や体温、心拍数などから心理状態を読みとれて、強いストレスを感知できる優れもの。情報端末同士の通信可能圏内であれば、どれほど離れていようと有効だ。
(さんざん執事の穂積さんにも実験協力をしてもらったなぁ。いいストレス反応だった。あれから技術を身につけて、やっと鏡子の情報端末に組み込めた僕の手作りだ)
「ちょっと行ってくる」
「鏡子を迎えに?私もついていくわ」
暇を持て余していた美涼は融と五年生の教室へと向かった。
教室の前では、鏡子が悪ガキっぽい見た目のいじめっ子たちに絡まれて、もうすでに突き飛ばされて、ちょっかいを出されている。先生を呼びに行った帰りに捕まってしまったらしく、辺りには教師の姿は無い。
「あなたたち、いったい何をやっているのかしら」
「うるせー、デブ。オメーにはカンケーねーだろ」
「……」
波川美涼は静かにキレた。
彼女の超能力で、近くのガラス窓が凍って、霜で真っ白に変わる。周りの気温もドンドン下がっていった。
彼女を下級生だと見くびっていた上級生の悪ガキたちは、逃げだそうとした。
「絶対に逃がさない」
逃げようとして彼らは気がついた、彼らの履いている靴と廊下がすでに凍り付いていて動かなくなっていることに。
「さ、早く帰りましょう」
悲鳴を上げる悪ガキたちを無視して、鏡子に手を差し伸べた。
「ごめんなさい。美涼、かわいいのに、私のせいで悪口言われて」
立たせてもらった鏡子は涙目だった。
「ふふっ、気にしていないわ。さあ、杏菜も進馬もあなたを待っているわよ」
融は靴を凍らされて動けなくなっている上級生たちを見た。
(気にしてないなんて絶対に嘘だ。
太っているように全然見えないけど、女の子としては許せない発言なのかな。あんなに怒るなんて、僕も注意しよう)
鏡子を守るためにこんなことを繰り返し、やがて融たちは上級生からも恐れられる存在になっていた。
いつも後ろでドンと構えている(ように見える)転法輪融には『番長』というあだ名が付き、番長の(身の回りの)サポート役の青山進馬は『番長の右腕』、波川美涼には『裏番長』、三崎杏菜は『番長の女』と影で呼ばれるようになる。
ついでに、いつも番長たちの周りにいる落ちこぼれの生徒、雪村鏡子は『番長の犬』というあだ名が付く。
もし、噂話をしているところを番長に知られたら、大変なことになるという話も同時期に広がった。そうして、融たちの耳に入らないまま噂話の尾ヒレはドンドン大きくなっていった。
放課後の屋上が彼らの溜まり場だと言う噂が広がれば、そこには誰も近寄らなくなった。
融たちは、静かで過ごしやすくなった屋上にて、何も考えず雲を眺めてぼけーっとしていた。
「なんか、僕たち下級生からおびえられてない?」
「そうかしら?」
「気のせいじゃないの」
「僕の実家の執事さんなんかいつもあんな感じだよ。普通、普通。問題ないよ」
「美涼さんや融くんに意地悪されていない?」
月城晶は一人でいる時をねらって、雪村鏡子に聞いてみた。
「……な、何も無いよ」
鏡子が目を合わせずにビクついているのは、日頃から美涼に月城家の悪い所を、あることないこと大げさに吹き込まれて、晶を警戒しているからである。
その様子を見て、晶は口止めされているにちがいないと判断した。
晶の誤解もドンドン深まっていく。




