ごまかし……成功?
「いえ、先程あと五分と言っていたの、聞こえてましたから」
誤魔化すため、更に毛づくろいなど始めてみるものの、初音さんの鋭いツッコミに内心冷や汗がだらだらと溢れ出てしまう。
やっぱりゲームや小説と違って、この手の誤魔化しで騙されてくれるような人なんていないよねぇ。
「ですが初音さん、私達の聞き違いということもあるのではないでしょうか? ほら、この間貸して頂いたDVDにも猫ちゃんがごはん、と鳴く動画がありましたし」
一人は誤魔化されてくれたっ?
ちらりと視線を四人組に向けてみると、硬直から解けた麗華さんが、名案とばかりに両手の平を胸の前で合わせて初音さんに問いかける。
って、騙されたの麗華さんっ!?
あまりにもあまりにもな人選に、思わず動きが止まってそのまま麗華さんを凝視してしまう。
「でも、あれはよく聞くとそう聞こえるだけで、実際にはごにゃぁんって言ってませんでした?
それに比べてさっきのタルトちゃんは、鮮明な声であと五分と言っていたと聞こえたんですけど」
さすがの初音さんでも麗華さんには訂正しづらいんだろうな、ちょっと困った顔でおずおずと言ってるけど、それでも訂正しているあたりは彼女の性格なんだろう。
「私もそう聞こえたです。
明らかに人と同じような言葉で言っていたように思えたです」
「んー、……でも麗華様の言うように空耳だったかもしれないんだよね。
特にタルトちゃんって、私達の言葉を理解してるように見えるから、余計にそう聞こえたのかもしれない」
継美さんは初音さん派、三葉ちゃんは麗香さん派に別れたみたいだ。
2対2でうまく別れた感じだけど、正解は初音さんの方で、心情的には麗華さんに勝って欲しい……。
むむぅ、この場合、どうした方がいいんだろう? んー……。
四人が顔を突き合わせてうんうんうねっていると、またもや麗華さんが胸の前で両手の平を合わせて、名案とばかりに切り出した。
「そうよ、もう一度タルトちゃんに話して貰えば分かると思うの」
一斉に視線が私の方に向く。
やばっ、毛づくろい毛づくろい。
慌てて毛づくろいを再開する私の前に、麗華さんがしゃがみこむとにっこり笑顔で言ってきた。
「ね、タルトちゃん、もう一度『あと五分』って言って」
「無理だからっ!!」……って言えたらどれだけ楽なんだろうなぁ?
麗華さんからの無茶ぶりに、再開したばかりの毛づくろいを止めると首をひねる。
どうしよう? ここは何て言えばごまかせるんだろう?
ううん、ごまかしちゃって良いのかな? いっそ言葉を話せるって言ったほうが仲良くなれるのかな?
うーん……、うーん……。
「ねね、麗華様っ」
「ん? どうしました?」
「猫ちゃんって視線合わせられるのすっごく嫌がるんですよ。
ほらっ、タルトちゃん落ち着かないのか、すごい挙動不審になってますし」
「なるほど。それでこんなに落ち着かない様子なのね?」
「そうなんですよっ。猫ちゃんを見るときはなるべく胸のあたりを見てあげるといいんですよ」
「そうなのね、知らなかったわ。ありがとう三葉さん」
そうだよねぇ、秀作さんだってなるべく言葉を話せるのは内緒にした方がいいって言ったけど、絶対にばれちゃダメって言わなかったし、親しくなるにはなるべく秘密を作らないほうがいいって言うよね。
見た感じここに居るのは四人組だけだし、この四人だったら驚かないで話を聞いてくれるかもだし、内緒にしてって言えば内緒にしてもらえるかな? もらえるよね?
……よしっ!! 言ってみることにしようっ!!
「あ『ぐぅーー』」
ふぉわっ!?
「あら、お腹の音が?」
「違いますよ麗華様っ、私じゃ無いですからねっ」
「あ、私も違います」
「違いますです」
「そうよね? 私でもないし……、となると?」
盛大なお腹の鳴る音に、四人が四人とも否定して顔を見合わせると、その視線が自ずと私の方に集まる。
その視線を受け、私はそっと顔を逸らした。
……はい。お察しの通り私のお腹の音です。
いや、言い訳になるんだけどね、確かに朝早めにご飯を食べた後、何も口にしていなかったんだよね。
秀作さんを探して理事室に行って、早苗さん所で神経すり減らして、その後ここに来てそのまま寝ちゃったから、よくよく考えたら何も食べてなかったのっ!!
それにこの四人が集まるのはお昼どきだけだから、必然的に今はお昼時間ってことになるよね?
だからね、だから私のお腹が鳴るのは必然であって、私は決して食いしん坊キャラなんかじゃないのっ!!
決して違うんだからねっ!!
そんな自己逃避に走りかける私を見て、麗華さんはくすりと笑うと、
「……そう言えばタルトちゃんを見つけてこちらに来てしまいましたけど、それなりに時間が経ってますがお昼がまだでしたね」
「そうですね」
「……です」
「って麗華様っ、お昼時間、後15分しかないよっ!!」
「あら、では急いで食べないといけませんね。
さ、皆さん、テーブルの方へまいりましょう?」
「「「はいっ」」」
三人そろって綺麗な返事をすると麗華さんが笑顔で頷く。そして視線が私の胸の当たりに来て、
「タルトちゃん、今日は理事長先生がいないのでしたね。
もし、よろしければ私のお弁当を一緒に食べませんか? いつも余ってしまいますの」
と言いながら柔らかく私のことを抱き上げた。
ほんと麗華さんいい人過ぎっ!!
なのになんでゲームの中では、あんなに嫌がらせをすることになったんだろう……?
そんな疑問が頭をよぎるんだけど、お腹の方は早くご飯がほしいとばかりにもう一度、ぐーっと鳴く。はぅぅ……。
……うん、子猫の私にとってご飯の栄養補給は結構大事なことだよね。
これは私が食いしん坊なんじゃなくて自然の摂理の大切なことなの。だからこれは決して食いしん坊でお弁当に釣られたわけじゃなく、素直に感謝の気持ちを伝えるためにこう言うの。
「ごにゃぁん」
それを聞いた四人は顔を見合わせるところころと笑い出して、入口近くのテーブルに私を連れて行ってくれるのだった。
なし崩し的に私が話せるか? とか、本当に麗華さんが悪役令嬢? って疑問は流されちゃったけど、あんまり焦って考えるとうまく行くはずのものも行かなくなってしまう。
麗華さん達と本当に仲良くなりたいんだったら、きちんと話すべきではある。って結論は変わらないと思うけど、まだ……、もう少しは今の状態を続けた糸思ってしまってもそんなに悪いことじゃないよね?
そんなことを考えつつも、結局は麗華さんのご飯を半分以上食べてしまった私であった。
追伸
麗華さん達はいつもここでお昼をとって、その後で私を探しに外に出ていたらしい。これでお昼を食べたらすぐに麗華さん達のところに向かうことができるようになった。
みっしょんこんぷりーと。




